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空音
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シュメール
604
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2,810
窓の外では冷たい雨がジトジトと降り続いていていた、空気は湿り、大型モールのカルチャーセンターの一室はモールと一体型の暖房設備なので温度調整は効かない、桜子は長机の端に腰かけ、持参したペットボトルのお茶をちびちびと飲みながら、今日の生徒名簿に目を落としていた
今日の教室には新しい顔ぶれが来ていた、あらかじめエントリーシートの自己紹介欄に書き込んでもらっている今日の講習生の中で、二人、小さな出版社の青年向け漫画原作大賞を取った人と、異世界ファンタジーのWeb小説からの拾い上げでウェブトゥーン原作商業化が決まった生徒が参加していた
どちらの目標も達成していない桜子は、自分が彼らに何も教えられることが無く、講師として少々難しい立場にいることを悟った、ボールペンの先で名簿をコツコツと叩きながら桜子は心の中でため息をつく、そろそろこの教室を運営していくのも限界だ
さらにもう一人申し込んできた人物がいた、普通こんな教室には自己顕示欲の塊のような人間が集まるもので、エントリーシートにはみんな講師の桜子に認めてもらいたくて、こと細かく受賞歴やどこの投稿サイトのランキング最高何位とか実績を沢山書き込むのに、この人物は珍しく名前だけで、講習料を当日現金払いではなく、振り込みで前払いしていた
桜子はその欄だけを何度も見返した、そしてその彼女はまだ来ていない
―当日キャンセルされても授業料は返金できない規約読んでくれてたらいいけど―
桜子は腕時計にチラリと目をやりながらそんな事を考え、今日はワークショップ形式で、まずは「自分の目標と今のトレンドを語り合いましょう」と生徒同士でディスカッションをさせながら、それぞれの目標に役立つ情報交換というあいまいな講習をしようと考えていた
それなら自分が教えなくても済む、資料も最低限のプリント一枚で間に合う、桜子は疲れた体を少しでも労わる算段ばかりが得意になっていた
その時、後ろの教室のドアがガラリと開いた、桜子が目線を開いたドアに向けると、自動ドアのようにドアだけがひらかれて他に人がいないように感じた、そして次に彼女の姿が目に入った
―車椅子―
その女の子は20代後半ぐらいだろうか・・・可愛らしい顔立ちをしていた、桜子はもう一度彼女を頭のてっぺんからつま先まで眺めた、卵型の色白の顔、肩まで綺麗に巻かれた茶色い髪、少し吊り上がったこげ茶の瞳・・・そして肌がとても瑞々しくて綺麗だ・・・肩幅は華奢で痩せている
さらに目がいったのはピンクのタイヤの彼女の電動車椅子だった、後ろの持ち手の部分にMCMのリュックを引っ掛けている、黒のファーブーツにチュールスカート、彼女は車椅子に乗っていなければどこかのモデルかと思えるほど洗練された服装をしていた
こんな所に出向いてくる創作好きなおタクは、あまり容姿に気を配らない人間ばかりだというのに・・・傘は持っているのだろうか、毛先に濡れた雨の雫がついていた・・・桜子は椅子から立ち上がり、エントリーシートの文字をもう一度確認してから、彼女に向かって歩み寄った
「柚原希実(ゆずはらのぞみ)さんですね、お待ちしていましたよ」
桜子は彼女にニッコリ微笑んで、椅子を一つ後ろに直して彼女の席を作ってあげた、隣に座っているガリガリの郵便局員が甲斐甲斐しく世話をし、彼女のリュックなどを机に置いてあげていた、希実はそれを当然のことのように黙って受け入れ、軽く顎を上げるような仕草で礼を示しただけだった、一息ついた所で桜子が柚原希実に言った
コメント
2件
希美のキャラが気になる〜🤭
この第23話、すごく惹き込まれました。桜子先生の「もう限界」という疲れと焦りがひしひしと伝わってくる一方で、最後に現れた柚原希実さんが一気に空気を変えた感じがします。エントリーシートに「名前だけ」で、前払いまでしているって…何か隠してそうで気になる。しかも車椅子でも洗練された服装と振る舞いで、普通の創作教室のイメージを覆す存在感。この人、ただ者じゃないですね。続きが読みたい!