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「皆さんそれぞれの自己紹介が終わった所なんですよ、柚原さん、これから皆さんでディスカッションをしようと思います、それで柚原さんをどこのグループに入れるか考えましょう、柚原さんは『ペンネーム』をお持ちですか?ここでは皆さん『ペンネーム』で呼び合っているの」
驚いたことに、柚原希実と名乗る彼女がフンッとバカにしたように言った
「ペンネームなど持たないわ、私は本名で書いているの、でないと将来私が大物になった時に私だとバレないと困るもの」
桜子は笑わないようにするのが精いっぱいだった、口元がひくつくのをなんとか堪え、ボールペンの頭をカチカチと意味もなく押す
「そう・・・では、どんなジャンルの小説を書くの?」
「ジャンルなんか無いわ!しいていえば『私のジャンル』ね、後のち『柚原希実ジャンル』とかが確立しそうだけど」
そう言って彼女は肩にかかった髪を払いのけた、指先には丁寧にネイルが施されていて、動きのひとつひとつにどこか芝居がかった華やかさがある
「頭にあるのは良いストーリーのことだけよ、良いストーリーならジャンルが何かなんか関係ないわ」
なかなか大胆な彼女のこの発言はみんなの沈黙で応えられた・・・教室の空気がすっと冷えるのを桜子は肌で感じ取った
「え~っと・・・短編を書くの?それとも長編を書こうとしているの?」
「長編よ」
桜子は言った
「長編は大仕事よ?」
「そんなのわかってるわ」
希実は辛らつに答えた、だんだんイライラしてきた桜子は笑顔の下で奥歯をわずかに噛みしめながら言った
「それじゃ、書こうとしている小説について、ここにいる皆に何か話してくれる?今日はラッキーなことに商業化を控えている原作者さんが二人もいらしているわ」
(僕だよ)とばかりに一番前の席の、異世界ファンタジーコミカライズ原作が決まった男の子が希実に向かって自信ありげにひらひらと手を振った、その彼を横に座っている、同じジャンルでコミカライズ化を逃したコールセンター勤務の太った彼が、嫉妬心を燃やして睨んだ、しかし希実はすぐに警戒するような表情で言った
「何を話すの?」
桜子は肩をすくめた
「え?たとえば・・・実際に書いてなくても全然いいのよ、今頭の中で浮かんでいる設定とか想像しているキャラクターでもいいわ、皆に口頭で話しているうちに刺激を受けて形になったりするものだし、ざっくりとでいいのよ」
「そんなこと話したくないわ、企業秘密よ」
そう言って希実は教室にいるみんなに向かって敵意を向けた、教室に来ている常連の郵便局員、主婦ブロガー達も講師の桜子に反発する希実を当惑気味に見ている・・・桜子だけがそれに対処しなければいけなかった、微笑みを顔に貼り付けたまま、桜子は一歩前に出る
「ここは皆さんでアイディアを出し合う場でもあるの、ここにいる作家を目指している皆さんが、あなたが向上する手助けをしてくれるわ、どうすれば文章が上手くなるかとかね」
「いいえ」
と希実が言う
「私は別に向上なんかしなくていいし、文章はすごく上手いわ、プロットもバッチリだし、それに正直な所――」
柚原希実はじっと講師の桜子を見据えて言った、瞳の奥に迷いのないまっすぐな光があった
「正直な所、小説ってものが人に教えてもらって、上手くなったりお金になったりするのか懸念しているんです」
教室にいる生徒全員にザワッと動揺が走るのが後ろを向いている桜子にもわかった、主婦ブロガーなどは、もしかして自分は毎回授業料をドブに捨てているのでは?と目をキョロキョロさせている
―だったら何しに来たのよ!授業の邪魔をするなら出て行って―
桜子は心の中でそう叫んだが、何とか微笑みを絶やさずにいた、長く小説教室を運営していると時々こういった道場破りみたいな「お手並み拝見」と様子見で来る生徒は少なからずいる
そんな連中は大抵一回で来なくなるし、桜子がわざわざ丁寧に接待する相手でもない、そう自分に言い聞かせて桜子は手元のプリントをそっと机に置き直した
空音
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シュメール
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コメント
2件
さて桜子どう対処するのかな🤔このお嬢ちゃんなかなか手強いね😅
この希実、すごいキャラですね。自分のことを「柚原希実ジャンル」って言い切るところとか、思わず笑いそうになりました。でも桜子先生が内心「だったら何しに来たのよ!」と思いながらもニコニコ対応してるところに、ベテラン講師のプロ根性みたいなものを感じてグッときました。こういう「道場破り」みたいな生徒がその後どうなるのか、気になりますね。