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南の砦にユンナが到着する
リハクが相変わらず穴を掘っている。
ユンナ
「リハク様~軍師様の命令です」
リハク
「ほう」
手紙を見る。
「青野ヶ原?」
笑う。
「いい場所だ」
「丘がある」
「湿地もある」
「ここにしたんか。」
ユンナ
「二百で大丈夫です?」
リハク
ニヤッ
「わしを誰だと思っとる」
地面を叩く
「丘を丸ごとつくってやるて」
地面を見下ろし笑う。
「軍師様もまた
えらい戦場を選びよった」
ユンナ
「?」
リハク
「ここはな」
土を握る
「王が生まれる場所じゃ」
これは
まだゼイオンが剣を持つ前のことだった。
彼は辺境の小国に生まれ育った
学問にも通じ、
役所の一室で書簡を整理していた。
机の上には羊皮紙が山のように積まれている。
当時のゼイオンは軍人ではない。
優秀な内政官だった。
税制の見直し。
土地の再分配。
農民保護の新制度。
国を豊かにするための仕組みを作る。
それが彼の仕事だった。
若い役人が書類を抱え、嬉しそうに言った。
「これで国は良くなります」
ゼイオンは静かに頷いた。。
「そうなるはずなのだが」
役人は少し首を傾げたが、気にしなかった。
だが――
数ヶ月後。
制度は歪んだ。
役人は賄賂を取り、
貴族は法の抜け道を見つけ、
商人は帳簿を書き方をかえた。
農民だけが、変わらず苦しんでいた。
会議の席でゼイオンは言った。
「規則を破った者を罰するべきです」
だが貴族は笑った。
「人は完璧ではないように完璧な法などない」
別の者が肩をすくめる。
「ゼイオン、そなたは若い、
法によって人々の生活を窮屈にしてはならんのではないか」
ゼイオンは何も言わなかった。
ある夜。
彼は城壁の上に立っていた。
風が強かった。
遠くの平原で、他国の軍同士がぶつかっていた。
鉄がぶつかる音。
怒号。
燃え上がる火。
やがて戦列が崩れた。
片方の軍が崩壊する。
兵は逃げ、
旗が倒れ、
剣が地面に落ちた。
勝者の軍が丘の上に旗を立てる。
それを見て、ゼイオンは小さく呟いた。
「……なるほど」
隣にいた老人が言った。
「何がだ」
ゼイオンは戦場を見たまま答える。
「ここにはルールがある」
老人は笑った。
「ただの殺し合いだ」
ゼイオンは首を振る。
「違う」
少し間があった。
「勝者と敗者」
「それだけだ」
戦場では敗軍の兵が剣を捨て、膝をついていた。
遠目で見て戦争が終わったことを告げているのが分かった
誰も逆らわない。
勝者に従っている。
ゼイオンは静かに言った。
「人は秩序を守らない」
「だが敗北には従う」
老人は黙った。
風が城壁を吹き抜ける。
ゼイオンはしばらく戦場を見ていた。
やがて背を向ける。
「……筆では足りない」
その日。
ゼイオンは筆を置いた。
そして剣を取った。
ゼイオンは回想から皇帝の言葉で
現実に引き戻された
外は日も落ち
帝国軍本営は寒さを増していた
皇帝は、しばし黙していたが、
やがて視線を遠くへ向けたまま、静かに口を開く。
「……余は幼きころ、そちを羨ましく思った」
ゼイオンは答えず、ただ頭を垂れた。
「父は常に戦場におった」
「そしてそなたは、影のように付き従っておったのう」
「さようでございます」
皇帝はかすかに笑う。
だが、その笑みには寂しさが滲んでいた。
「ひょっとすると余が父と過ごした時よりも、
そなたのほうが長く父と共にあったのではないか」
「……そうかもしれません」
その答えに、皇帝は責めるでもなく、ただ小さく息をついた。
「先帝は、余に戦よりも――
よき統治者たれと
望んでおられたのかもしれぬな」
ゼイオンは顔を上げる。
「左様にございます」
「先帝陛下は、剣を振るう者ではなく、
大陸全土を統べる御方として、
今の陛下をお育てになったのでしょう」
皇帝の目が揺れた。
「……余は、その期待に応えられるのだろうか」
その問いに、ゼイオンは一歩進み出る。
膝をつき、頭を垂れ、しかし声だけは鋼のように響いた。
「ご案じには及びませぬ」
「このゼイオンがおります」
静寂が落ちる。
「先帝陛下のやり残された大陸統一の偉業」
「この身のすべてを賭して、陛下の御代に成し遂げてみせましょう」
皇帝はその言葉を受け、しばしゼイオンを見下ろしていた。
やがて、かすかにうなずく。
「……頼もしいな、ゼイオン」
「はっ」
その一言だけでよかった。
ゼイオンにとっては、それこそが剣であり、旗であり、進むべき道そのものだった。
皇帝はふと思い出したように言った。
「先帝は申された」
「内政のことはゼイオンに聞け。
軍事のこともゼイオンに聞け、と」
ゼイオンは深く頭を下げた。
「もったいなきお言葉にございます」
皇帝は少し黙り、それからぽつりと言う。
「……もし、そのほうがいなくなったら」
「余は誰を頼ればよい?」
ゼイオンはすぐには答えなかった。
ほんのわずか考えてから口を開く。
「軍事のことはヴァルドに」
「内政のことはラディスに」
「外交はカルヴァに」
「お尋ねになられるとよろしいかと存じます」
皇帝は興味深そうに眉を上げた。
「理由を聞いてよいか」
「は」
「狼将軍ヴァルドは、私の作った軍政国家の本質を理解しております」
「ラディスは口数こそ少ないですが、
陛下の御意志を曲げることは決してございません」
「カルヴァは今は軽騎兵を任せることが多いのですが、
本来は外交武官。そつなくこなすでしょう」
皇帝はゆっくりとうなずいた。
「なるほど」
だがゼイオンは、そこで言葉を続けた。
「ですが……もし可能であるならば」
「私はサイラスに、この後を預けてみたいと思っております」
皇帝は思わず笑った。
「敵の軍師に、か」
ゼイオンは静かに答える。
「はい」
ゼイオンはしばらく空を見上げ、それから言った。
「あれは生まれる時代を間違えた」
「平和な世ならば、優秀な官吏になったであろう」
皇帝は黙っていた。
ゼイオンは小さく息をつく。
「……何事もうまくいかぬものだな」
灰野の夜のあと、
サイリスは各地を巡った。
多くの人と出会い、
多くの人と別れた。
旅の途中で彼が見つめていたのは、
貧しくとも肩を寄せ合い生きる家族の姿だった。
粗末な家。
少ない食糧。
先の見えない日々。
それでも、父は笑い、
母は子を抱き、
子どもたちは明日を疑いもせず眠る。
火のぬくもり。
夕餉の匂い。
くだらない笑い声。
それは、あまりにもささやかで、
あまりにも壊れやすい幸福だった。
サイリスは空を見上げ、静かに呟く。
「……この幸せを、戦争は何もかも根こそぎ奪ってしまう」
大義。
名誉。
国家。
それらがいかに立派な言葉で飾られていようと、
焼け落ちた家の前で泣く子どもを見れば、
そんな言葉はすべて空虚に聞こえる。
「大義があろうと、作戦であろうと……」
サイリスは拳を握る。
「村を焼いていい理由など、
あるはずがない」
しばらく沈黙が続く。
そして、彼は小さく息を吐いた。
「だが……」
風が草原を渡る。
「戦わねば、この幸せを守れぬ時もある」
その矛盾を、彼は知っていた。
守るための戦いは、
やがてまた別の誰かの幸福を奪う。
終わらない輪。
サイリスは目を閉じる。
「だからこそ……」
静かに、しかし確かな声で言う。
「戦を知る者が、
戦を終わらせねばならない」
それが、彼が背負うことにした罪だった。
「サイラス……久しいな」
玉座の上で、ヨシュア王が静かに言った。
「ご無沙汰しております」
サイラスは膝をつき、頭を垂れる。
王はゆっくりと続けた。
「先の軍師カイオスが亡くなった後、
この国を出たお主が……なぜ戻った」
サイラスは顔を上げる。
「父は、この国の行く末を憂いておりました」
「北の帝国は北部の武力統一に乗り出し」
「南のスカーレットでは前女王が部族の融和を進め非業の死を遂げると
レイナ王女はその遺志を継ぎ南の部族をまとめ上げました」
「西のカルドの一族は、航路の開拓、商工会の整備を推し進め
我が国の有力領主を遥かに超える巨万の富を築いております」
「大陸統一の嵐の前に我が国の平和はまさに壊されようとしております」
玉座の間にざわめきが走る。
だがサイラスは言葉を止めない。
「……かえりみて、我が国は」
「領主同士の争いが絶えず」
「改革は何度も中途での挫折を繰り返し
王の命令は、全土に届いておりません」
「無礼であるぞ!」
脇に控える宰相ヴァンガルドが怒鳴った。
「王国を侮辱する気か!」
しかし。
「よい」
ヨシュア王が静かに言った。
玉座の間は一瞬で静まり返る。
王はサイラスを見つめた。
「その方が大陸各地で戦功を挙げていることは、
余の耳にも届いている」
少しの沈黙。
「……この国は」
王の声は低かった。
「変われると思うか」
サイラスは迷わなかった。
「はい」
玉座の間にいる貴族たちがざわめく。
サイラスはさらに続けた。
「ですが――」
「もう猶予はありません」
王は目を閉じる。
長い沈黙のあと、ゆっくりと立ち上がった。
そして侍従から一本の剣を受け取る。
それは王の佩剣だった。
王は階段を降り、サイラスの前に立つ。
「サイラス」
王は剣を差し出した。
「余の剣と」
次に、印綬を掲げる。
「軍師の印綬を与える」
サイラスの前に差し出されたそれは、
この国の軍を統べる権限そのものだった。
王は静かに言う。
「この国を救ってくれ」
サイラスは深く頭を垂れた。
「……必ずや」
その時、誰も知らなかった。
この若き軍師が、やがて
この国最大の戦争を指揮することになることを。
そして――
帝国の軍監ゼイオンと対峙することになることを。
三つの国へ通じる街道の終着点
グラツィア王国第四の規模を誇る城塞都市であり、
商人と軍の拠点として栄えていた
領主は王弟、カスティーユ公。
だがまだ幼く、実際の政務は王の叔父であるヒューゴ公が執政として担っていた。
しかしそのヒューゴも、先日王都へ兵を率いて向かう途中、
突然の心臓発作で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
暗殺ではないかという噂も流れたが、
真偽を確かめる術はない。
その混乱のさなかの2日目である
今、この城塞都市を支えているのは
ヒューゴの家臣である一人の男だった。
ロドリゲス。
ヒューゴの遠縁にあたる若者
見た目はひょろひょろの青年。
背が高く、痩せていて、鎧も似合わない。
書類と計算が仕事だったため、
剣も槍もまともに扱えない。
質問されると必ずこう答える。
「わかんないよ~」
だが――
計算だけは異常なほど速い。
特技というか、彼の一風変わった趣味がある
弓、投石機、弩、攻城兵器のマニア
発射から着弾までの距離と時間を瞬時に計算できる。
風向き、角度、重量。
それらを頭の中で一瞬で処理する。
誰も気づいていないが
彼は王国でも数少ない
弾道計算の天才だった。
主を失った城を守るため、
彼は不眠不休で対応にあたっていた。
帝国軍侵攻の報が届いた夜も、
彼は城壁の上に立っていた。
そして――
「帝国の侵攻から三日……」
ロドリゲスは遠く北の空を見つめた。
「王都は炎上。
王は逃亡したとも聞く。」
隣に立つ若い士官が息を飲む。
「……ここも、もう時間の問題でしょうか。」
ロドリゲスはしばらく沈黙した。
帝国軍はおそらく、二日以内にここへ来る。」
「なぜ分かるのです?」
ロドリゲスは街道の土を見た。
「馬三千。歩兵二万。この距離なら……」
彼は指で城壁を叩いた。
「四十二時間。」
そして低く言う。
「この城塞は規模こそ大きいが、守るには適さないんだよなあ。」
彼は城下町の広がる平野を見下ろした。
「城壁が長すぎる。
兵も足りん。」
城内の守備兵は八百。
この広い城壁を守るには半分にも満たない。
さらに悪いことに――
「帝国軍はおそらく、二日以内にここへ来る。」
若い士官は顔を青くした。
「では……どうするのです。」
「どうしよう。わかんないよ」
ロドリゲスは答えない。
ただ遠くの街道を見つめていた。
まるで――
誰かを待つように。
王都北方。侵攻から3日目
黒旗の下、皇帝と軍監ゼイオンが並んでいた。
そこへ一人の男が通される。
着飾った鎧に汚れ一つない外套。
王国貴族の紋章。
男は膝をついた。
「グラツィア王国、ガゼフ公爵にございます」
皇帝が眉を上げる。
「降伏か?」
男は頭を下げたまま答える。
「偉大なる皇帝陛下の幕下として
末席に加えていただきたく参上仕りました」
一度言葉を選ぶ。
「暗愚なるヨシュア王の下で滅ぶより、
聡明なる皇帝陛下とともに繁栄する道を選ぶのが、
領民のためであると」
皇帝は小さく笑う。
「王はまだ降伏しておらぬはずだが」
「すでに王都にはおられぬと聞き及びます」
男は深く頭を下げる。
「寛大なるご慈悲をもって、
お聞き届け願いたいとのこと」
しばし沈黙。
皇帝は隣に立つ軍監を見た。
軍監ゼイオンは皇帝とともに降伏に訪れたガザフ公を見下ろし、静かに言った。
「よかろう」
ガザフ公の顔がわずかに緩む。
ゼイオンは続けた。
「勇猛果敢で知られるガザフ公が
わが陣に加わってくれるとは心強い」
「ただ……」
「王家への忠誠が、いきなり皇帝への忠誠へ変わるとなると
あれこれ詮索する者も出てくるやもしれん」
公爵は慌てて頭を下げた。
「私の皇帝陛下への忠誠はまごうことなき本物、疑う余地など――」
ゼイオンは手を軽く上げて止めた。
「いや」
「我らはガザフ公の忠誠を
つゆほども疑っておらぬ」
穏やかな声だった。
「そこで三つほど願いを聞いてもらえぬだろうか」
「何簡単なことじゃ」
「もちろんでございます。なんなりと」
ゼイオンは指を一本立てる。
「一つ。
ガザフ公は直ちに配下の兵を率いて
東のキボン城を攻めること」
「なお留守中、領地には帝国より執行官を派遣する」
使者の表情がわずかに固くなる。
ゼイオンは気にせず続ける。
「二つ。
奥方と長子を帝都へ送ること」
「我が帝都は雪解けが始まったとはいえいまだ寒い。
厚着をさせてやってほしい」
公爵の顔から血の気が引いた。
ゼイオンは三本目の指を立てる。
「三つ。
配下武将に二十歳以下の一族・庶子・領民
三百名ほどを率いさせ、我が陣に参陣させよ」
沈黙。
公爵は震えた。
「そ……それは……」
ゼイオンは穏やかに言う。
「今は戦の真っ最中、明日の正午までに手配していただくと
とても助かります」
「繰り返すが」
「我が皇帝は
そなたの忠誠を微塵も疑っておらぬ」
男は言葉を失い、深く頭を下げた。
「仰せのままに」
やがて退がっていく。
幕舎に沈黙が戻った。
しばらくして皇帝が口を開く。
「この後に会う2人も同じか」
「おそらく」
皇帝は遠くの城を見ながら言った。
「わが軍に裏切者などおるまいな」
ゼイオンは静かに頷いた。
「隠密からは何も」
皇帝は小さく息を吐く。
「おちおち昼寝もできぬのう」
ゼイオンは初めて笑った。