TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


大我は真っ白な壁をぼんやりと見ていた。

天井も床もベッドも、そして彼らが着ている服までもが白い。

たった一人の日本人のルームメイトはいない。さっき、研究員に連れて行かれたのだ。「一緒に遊ぼう」と言われて。

もちろんそれが「遊び」ではないことを大我は知っている。しかしそれを絶対に口にしてはいけないことも、知っている。

やがて大我のいる部屋の前に誰かがやってくる気配がして、身を固くする。

ノックすることもなくドアが開かれる。

白衣を着た男性が顔を出して、微笑みを作った。

「大我くん、遊びに行こうか」

英語で話しかけられる。もう、「ノー」と言うのも首を振れば否定だというのも忘れていた。

大我は無言で立ち上がり、その研究員についていく。

とある部屋の前に着いた。何度も来た場所だ。

そこに入ると、ほかの研究員がいた。「いらっしゃい」と言われたが彼らは無表情だった。

大我は真ん中にある椅子におのずから座る。心の内に秘める感情は押し殺して。

研究員は大我の白くて細い右腕に、持っていた注射器を刺す。

わずかな痛みに、大我は顔をしかめた。

赤黒い液体の溜まった容器を、研究員はコンピューターの繋がった機械にセットする。

ウィーン、と音を立てて作動しはじめる。

しばらくすると機械が止まり、研究員はコンピューターを操作する。

画面を見ながら「うーん」とうなる。いい結果が出なかったんだ、と大我は悟った。

「お薬を増やそう。大丈夫、ちょっとだけだし苦くないから」

苦くない薬なんてあるのかはもはやわからなかったが、「イエス」と大我は小さく返事をした。

そのまま隣の部屋に入らされ、また椅子に座る。

壁際に並んだいくつもの棚の引き出しから、錠剤を何個か取り出して大我に渡した。

その量は前回より増えている。

それでも黙って差し出されたコップの水を含み、錠剤を飲み込む。

これで終わり。やっと部屋に帰される。

のだが、そこからは副作用との闘いだ。

ベッドから動けず、悶々としながら白一色の天井をにらみつける。

いつこの生活は終わるんだろう、そう思いながら。


そして大我がその作戦を思いついたのは、検査から3日後の深夜だった。

ほかのルームメイトを道連れにする訳にはいかないから、1人でこっそりと部屋を出る。施設内なら自由に移動ができた。

そしていつもの検査室の隣、薬剤室に入り込む。

とある引き出しのプレートに、「Sleeping Pills」と書いてある。そこを開け、入っている薬をシートごと掴んで、急いで走り出た。これは誰にも見つかってはいけない。

部屋に戻ると、相変わらずルームメイトはぐっすりと寝ていた。

起こさないように静かに薬を開け、水と一緒に口に放り込んだ。

やがて眠たくなってきて、視界が暗くなってきた。

薄明かりの中、今までの記憶が去来する。

大半が検査や実験に関する嫌なものだったが、ルームメイトと仲良くなって楽しく会話した記憶もある。

今のルームメイトとも仲が良かった。

ごめんね。彼にそう心の中で謝ると、大我の意識は途切れた。




気がつくと見知らぬ暗い場所にいて、見知らぬ椅子に座っていた。

しかし風が吹いていて、室内ではないとわかった。

でも何が起きたのかも何をすればいいかもわからなかったから、ただひたすらじっとしていた。

どのくらいそうしていただろうか。足音が聞こえてはっと気づく。

1人の男性が、こちらに向かって歩いてくる。何かされるのかと身構えたが、男性は優しい表情をしていた。

「あの…どうしたんですか?」

大我に向かって訊いてきた。

その声を聞いて、大我はどこか安心した。

やっと助かった。そう思った。


続く

loading

この作品はいかがでしたか?

128

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚