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「・・・・・今、なんて?????」
正面には漆黒の髪を持つ長身の彼が、射抜くような真っ直ぐな瞳で見つめてくる
そこから威圧感は感じなくても、憂いにこもった熱量が伝わってくる
その視線を受け止めつつも、耳に入った言葉を理解するのが追いつかない
『聞こえなかった? 佐久間くんが好きだよ
・・・恋愛対象として』
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あの後、自分に贈られた言葉を受け止めて理解したのに、どのくらい時間がかかったのかわからない
でも気づいたら、俺はその場を猛ダッシュして逃げていた
あれ?
あれ??
あれ???
なんで走ってんの?俺
どんな顔してんの?俺
どこに向かってんの?今
通り過ぎの人たちは、きっと俺の勢いに引いていたと思う
やばい形相で猛ダッシュする人間を見て、まるでモーセの海割りのように道が開いていった
そりゃ避けるよね
運がいいのか悪いのか、個別撮影が終わってスタジオから出てきたばかりの康二、舘さん、あべちゃんに捕獲された
迫ってくる勢いに気づいて、最初は避けたものの、一発で身内だとわかるピンクの髪を見て、すぐに追いかけてきた
自分では人生1、2を争う速さで猛ダッシュしてたと思ったけど、他のメンバーの運動神経からしたらすぐに捕獲できる程度のものだったんだろう
「な、何してんの!?さっくん!?」
康二が背後から羽交い締めで取り押さえ、舘さんが冷静にバタつく足を確保、あべちゃんは騒めく周囲に平謝り
なんとか楽屋に戻そうとする3人に「このまま行けば、俺は死ぬ!!」とばかりに暴れ回り、尋常ではない状態を見てあべちゃんが撮影スタッフにお願いして、空いている部屋を借りてくれた
今思えば、とんでもなく申し訳ない
でも戻れば、きっとアイツがいる
顔を合わせたら、絶対に冷静じゃいられない
康二とあべちゃんが部屋で落ち着かせてくれている間、舘さんは元の楽屋に荷物や着替えを取りに行ってくれた
幸いにも今日の仕事は全部終わり
偶然、3人ともに予定が無く、行きつけの一つである居酒屋へ連行された
急遽お借りした部屋に長居するわけにもいかないので、移動して話を聞いてもらうことになった
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デビュー前からお世話になっている居酒屋は、こぢんまりしているけど夕方から賑わっている
引き戸を開けると顔馴染みのおかみさんが笑顔で迎えてくれて、個室に通してくれた
店に行く前、あべちゃんが連絡をしてくれたんだろう
何も言わなくとも、何かを察してくれているこのお店が、いつも無条件に自分たちを受け入れてくれることは本当に感謝してる
席について、すぐに黄金の液体が入ったジョッキが4つ並んだ
店に入った段階で用意してくれるのはいつものことで、すぐに康二の「おつかれー」という声があがる
いつもなら俺も明るく応えるのに、今日は言えるテンションじゃない
康二が放った乾杯の発声も、この雰囲気なもんだから控えめだった
ジョッキを合わせる音も強めではなく、まるでワイングラスを合わせるかのような小さくか細い
というか、ジョッキってこんなに重かったっけ?と思うほど、体に力が入らない
一口、ビールを口に含んでから、事の次第を3人に説明した
自分でも何から話していいのかわからないけど、順序を思い出しながら
①自分の撮影が終わった
②楽屋に戻った
③めめがいた
④いつものように「おっち〜」と声をかけて、雑談してた
⑤突然、めめから告白された
⑥逃げた
「あのさ④と⑤の間って、他に何もないの??」
起承転結の「転」が、突拍子もなさすぎて聞く側も理解できてないのだろう
それが事務所イチの頭脳を持つあべちゃんでも
でもこれが事実だった
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「ねぇ、めめって、この撮影終わった後はまた別の現場?」
『うん、佐久間くんは?』
「俺はねぇ、もう今日は終わり〜」
『いいなぁ、どっか行くの?』
「ん〜、特に決めてないけど、久々に親友に声かけて飲みに行こうかな〜」
『・・・ふーん』
でもなぁ、まだ15時だし
連絡しても仕事してるだろうし、それまでどうしようかな〜・・・
スマホ見ながらそんな事を考えてたら、カタンという音がした
その数秒後、スマホを見ていた画面が突然暗くなった
顔を上げると、イスに座っていためめが俺の正面に立っていた
「めめ? ど、どした??」
『・・・ねぇ、佐久間くん』
彼は真顔だった
さっきまでの和やかな雰囲気はなく、少し張り詰めた空気が楽屋に広がる
俺も思わず息を飲んで、彼の顔を見つめた
あれ? 俺、何かした??
仕事終わりをアピールしたわけじゃないけど、彼の忙しさからして、嫉みに聞こえちゃったのかな??
そんな不安が一気に広がった瞬間、彼の口から出た言葉
『佐久間くんが好きだよ』
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「・・・・・・で、そのまま逃げたんかい」
個室でも適度に賑わいが聞こえてくる中、ほとんど飲めていない黄金の液体を前にして、俺はテーブルに顔を埋めて頭を抱えていた
脈絡のない説明でも、理解してくれる人がいるのは本当に助かる
頭の処理能力が俺とは違うんだろうなぁ・・・
彼の告白に至った引き金が、今でもわからない
というか、恋愛対象としての「好き」って、
えぇぇ!?!?
俺!?
なんでまた!?!?
再び混乱に陥っている俺を見て、舘さんが冷静に口を開いた
「全く気づいてなかったの? 佐久間」
「・・・・・・・え?」
「ずっと、めめは佐久間を見てたよ」
「・・・・・・・は?」
え?え?え?
舘さん、なんで知ってるの???
俺、全く気づかなかったのに、なんで舘さんが気づくの???
「なんや、舘さんもそう思っとったんやね」
はい??はいぃ???
こーじくん??どゆこと???
「あんなに判りやすかったのに・・・、ちょっとめめに同情するかな」
なんで、あべちゃん苦笑い????
うそ!?みんな知ってるの!?!?
「たぶん、さっくん以外は全員気づいとるんちゃう? 知らんけど」
関西人お決まりのセリフを聞いた瞬間、
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?
声にならない声が、店に響き渡った気がする
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「えっ!?なんで!? みんな、気づいてんの!? ずるい!!!!」
「いや、言えないだろ・・・」
「翔太は揶揄ってきそうだったけどね」
「そーいや人の恋路を邪魔したら、馬に蹴られて死ぬんやったっけ?」
あ、それ昔のロボットアニメに出てきたセリフじゃん!
いやいやいや、どうでもいいんだってば!!!!
「まぁ、この時点でめめから告白したってことは、ついに抑えきれなくなっちゃったかぁ〜」
「好きな人が他の男と一緒にいるって聞いたら、ちょっとモヤるしね」
「まぁ遅かれ早かれ、いつかはこうなってたんやし」
おいおいおいおいおいおい!!!!!
3人で話進めないでくれ!!!!
「ちょ、ちょっと! お、俺置いていくなよ〜!!!!」
「で、さっくんはめめのこと、どない思ってるん?」
「へ?」
「逃げたっちゅうことは、嫌なん?」
「え? いや、それは・・・・」
嫌じゃない
でも恋愛対象で考えたことがない
笑い合って、風呂友で、演技について語り合って
この関係が居心地良くて
でも彼がそこから一歩先の感情を持ってるとは思わなかった
みんなが気づくくらい、彼の行動や感情はわかりやすかっただろうに、俺だけ気づかなかった
誰よりも近い距離で彼と一緒にいたと思ってたのに
今まで俺の何気ない言葉を、彼はどんなふうに聞いてたんだろう?
もしかして、傷ついてた?
苦しかった?
ネガティブな感情だけが、頭の中を駆け巡る
再び頭を抱え込んだ俺に、あべちゃんが声をかけた
「めめは真剣だよ、はぐらかすのはよくないから、ちゃんと返事はしてあげて」
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あれから気づけば2週間が経っていた
息を吐く間がないスケジュールをこなせば、少しは気がまぎれるかなと思ったけど
違った
全然、忘れられない
この2週間、いろんな場所でたくさんの人に会ったと思う
でもどんなことをしてても、
あの時の、めめの顔と、声が、
脳裏に焼きついていて、離れない
生放送でも、取材でも、収録でも、レッスンでも
もうどこかでやらかしていないか、不安になる
あべちゃんの言うとおりだ
このままの状態で放っておくのは、自分にとってもマズイ
でも、今の俺はどっちなんだろう?
めめのこと、好き?
めめのこと、嫌い?
こんなに重たい宿題は初めてだった
やらないと次に進めない
逃げたくても、逃げられない
メンバーののスケジュールを確認すると、ちょうど3日後、俺と彼に空白があった
この日に決着をつけよう
覚悟して彼にメッセージを送った
“ 次の休み、会える? ”
たったこれだけの文字を送るのに、何分かかってんだか
送信ボタンを押したら、なんだか気が抜けてしまった
今日も忙しいんだろうな、返事が来るのは夜遅いかなぁ・・・?
ウダウダしながらソファで寝転んでいたら、通知音が鳴った
“ いいよ どこで? ”
めめだった
あれ?仕事じゃなかったのかな?
空き時間かな?
とりあえず返さなくちゃ・・・
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「・・・いらっしゃい」
『・・・お邪魔します』
ドアを開けて、待ち人を迎えた
あれから2週間とちょっと
2週間以上会えないことなんてよくある事なのに、今回は短く感じた
でもこの2週間で彼は少し痩せた気がする
メンバーの中で一番多忙な彼だから、この2週間も怒涛のようなスケジュールをこなしてるんだと思う
それに加えてあの時、俺が置き去りにしてしまった件もあって、精神的にもダメージを与えてしまってたんじゃないだろうか?
余計な負担をかけてちゃったかな・・・と思うと、心苦しい
「あ、あがって・・・」
『・・・うん』
用意したスリッパに履き替えて、リビングへ
この流れに巻き込むのは申し訳ないので、愛猫は別室に行ってもらった
家に彼が来るのは初めてじゃない
なのに、こんなに緊張するのはなんでなんだろう?
きっと彼も、今日呼ばれた理由はわかってる
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今日のために買ったコーヒーを淹れて、彼が待つソファに持っていく
彼が座る前にマグカップを置いて、彼の隣に座った
『いただきます』
「・・・どーぞ」
いつものように彼の顔を見ることができない
妙な静けさがリビングに広がっている
でもいつまでもこんな状態じゃいけない
今から出す答えに、彼からどんな反応が返ってくるんだろう?
マグカップを持って前を見たまま、俺はついに口火を切った
「・・・俺ね、あれからずっと考えてた」
『・・・うん』
「ずっと、めめは俺のそばで、俺のことを一番に考えてくれてたんだって」
『・・・うん』
「みんなが気づくくらい俺のことを思ってくれてたのに、俺、全く気づいてなくて」
『・・・え? みんな??』
「・・・・・・あれ?」
思わず彼の顔を見た
彼も俺の方を向いていた
『み、みんなって、メンバーの!?』
「うん・・・」
うそだろう・・・と言う顔で、手で口を押さえた彼が天を仰いだ
顔が少しずつ赤みを帯びてくる
「・・・なんか、みんな知ってるみたい」
『えぇ・・・・・・』
彼も自分の感情が行動に出ていたことには、全く気づいていなかったようだ
本人じゃなくて、他のメンバーが先に気づくという落ち度に愕然としていた
あべちゃんが彼に同情した気持ち、今わかった気がする
上を向いたままの彼に思わず、くすくす笑ってしまった
「ごめんな」
『・・・うん』
「それでね、ずっと考えてたことなんだけど・・・」
『・・・うん』
「あれから、めめのことばかり考えてた」
『・・・』
「俺さ、経験少ないからさ、この気持ちが何なのかはわかってないんだけど・・・」
『・・・』
「めめが隣にいてくれることが、俺にとってすごく安心できる場所なんだっていうのはわかったんだ」
『佐久間くん・・・』
「だから・・・これからも、めめの隣にいることができたら嬉しい」
『うん・・・』
テーブルにマグカップを置いて、改めて彼に向き直った
彼が一番期待した返事にはなっていないだろうけど、それでも彼の顔は優しい笑顔だった
『ありがとう、佐久間くん』
そう言って、優しく俺の身体を抱きしめてくれた
俺も彼の背中に手を回して、応えるように抱きしめた
彼の体温が、心音が、重みが、俺の緊張を溶かすようで心地良い
「・・・隣にいるのもいいけど、抱き合うのも気持ちいいんだね」
心のままに口に出た言葉を聞いて、彼がゆっくり身体を離した
不思議に思っていると、彼は真剣な顔で
『・・・佐久間くん、それダメだよ』
「へ・・・」
言われた意味がわからず困っていると、彼の整った顔が目の前に近づいてきて、気づいた時には唇が重なっていた
あれ?
あれあれ・・・??
あれあれあれ・・・???
再び俺の身体は石のように固まってしまった
こうなってしまうと、もう彼のなされるがままになってしまう
唇が触れるだけのキスが、いつの間にか舌を絡め合う深いものへ
俺の身体と顔を自分から離すまいと、手が頭の後ろと腰に回っていて力強く引き寄せていた
「め、めめっ・・・!! ちょ、ちょっと、まっ・・・・!!!」
『佐久間くん、ほんっっとにもう、ダメだから』
「えっ・・・っと、ま、まって、マジで! あっ・・・!!!」
ドサッ
俺が押し倒される形でソファに沈み込んでしまった
見上げれば彼がいる
彼の瞳は、あの告白の時とはまた違う熱量で俺を見ていた
「わ、わわわわわわわ!!! まって、蓮、まって!!!!! これはまだダメだから!!!」
『・・・・・まだ?』
「まだ!!!!!! もうちょっと、まって!!!!!!」
『・・・・・・く、くくくくくっ』
「え・・・?」
俺の肩に顔を埋めて、彼は笑いを噛み締めていた
なんか可笑しいこと言ったかな・・・?
『ご、ごめんね、くくっ、・・・急ぎすぎちゃったかもね』
「・・・ちょっと怖かったぞ」
『ふふっ、ごめん』
彼の表情が優しいものに戻っていて、ゆっくり俺を抱き起こしてくれた
少し息が上がっている俺の頭を優しく撫でてくれる
人生1の爆音になっていたと思う心臓の鼓動も、徐々に治っていく
落ち着いてきて彼と目を合わせたら、一連の流れを思い出してしまって、俺はゆでダコのように顔が火照ってしまった
そんな状態の俺を見て、彼はまた笑いを噛み締めていた
「・・・おい」
『ごめんって』
「もー・・・ほんとに勘弁してくれよ・・・」
『ふふふ、・・・ねぇ、もう一回、俺のこと呼んでくれる?』
「え?・・・めめ」
『違うよ、そうじゃなくて』
えっと、めめのこと・・・??
なんて呼んだっけ・・・??
“わ、わわわわわわわ!!! まって、蓮、まって!!!!! これはまだダメだから!!!”
お、俺は・・・なんてことを言ってるんだ・・・・・!!
もう顔から火が出てもおかしくない
思わず両手で顔を隠した
「・・・言えない」
『じゃあ、その時まで待ってる、大介』
呼ばれ慣れない名前を聞いてしまい、思わず顔を上げると、優しくも不敵な笑みの彼
「不意打ちするなよ・・・」
『そのうち慣れるよ』
俺、先輩だったよな?
もう威厳も何もないじゃん、これじゃあ
ソワソワ落ち着かない状態の俺に、彼が耳元で囁いた
『絶対、俺が落とすから、覚悟して』
恋は交通事故という言葉が、今の状況にピッタリだと妙に冷静になった頭に思い浮かんだ
ちょび
#オリジナル