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「ね、おかあさんってよんでもいーい?」
「あら嬉しい!もちろんよ…!」
「やったぁ!おかあさん、だいすき!」
「俺の事も呼んでくれよ〜!おとうさんって!」
「えへへ…おとうさん!!」
___
御茶屋は、静かに語った。
「最初は良かったんです。」
「確かあのおふたりは…桃色の髪をしていましたっけね。 」
「…でも、あの子が生まれてから、あの人たちは豹変しました。」
「…そう、私と、血の繋がっていない妹_」
「あの子が生まれてから、私は、親に愛されなくなりました。」
___
「菓子〜!ほら、菓子に似合いそうな服買ってきたんだ!」
「おとうさん!ありがとう!!」
「菓子ちゃん〜!可愛いわね〜!」
「本当ピンクが似合ってる〜!」
「おとうさ…」
「……」
「おかあさ…」
___
御茶屋は静かにため息をつく。
思い出すたび、複雑な気持ちになってしまうのだ。
嫌な空気がいっそう苦しくなる。
「私を見もせず、実の娘である菓子ばかりを可愛がり、私の事は邪険に、空気のように扱いました。」
「…そんな」
「酷すぎない…?」
メテヲは目を見開き、言葉を詰まらせた。
御茶屋の、境遇に心底驚き、悲しみを覚える。
御茶屋は淡々と語る。
「_あの子が6歳…小学校に入学する少し前でしょうか?…私は深夜、何も分からないであろう妹に、こう告げて再度出ていきました。」
「…私なんか忘れて。」
「あの子に聞こえないくらいの声で_もう一つだけ言いました。」
「幸せになって、と。」
「あの頃、私は…13歳くらいだったと思います」
「…でも、耐えられなかったんです。」
「あの家に来て、3年くらいでこうなったんです。」
「…絶望している余裕すらなくて、私はただ…遠くへ行きました。」
「…私の前の名前、教えてあげましょうか。」
御茶屋は
「え、御茶屋ってずっと本名なんじゃないの?」
メテヲの問いに、御茶屋は静かに、陽からなる逆光の中で笑った
「ふふ、そうですね。」
「御茶屋は…宣教師からもらった”偽名”みたいなものです。」
「…宣教師…ガンマスさんとは、私が15歳の頃、出会いました」
「…ガンマス、っていうんだ、宣教師。」
「そうですね…。」
指で口元を隠しながら、くすり、と笑う
「今思うと、あんまり聞いたことない名前ですね。」
「…っはは、そうかも?」
御茶屋はひと息つくと、話を戻した。
「私がもう…ホームレスみたいな生活に疲れ始めて、森の奥で…眠ってた時に、ガンマスさんが声をかけてくれました。」
「…大丈夫?と。」
「もうじき眠れそうだったのに、目が覚めたこと…未だに覚えてます。」
「あぁ、前の名前…でしたね。」
「茶子…嫌な背景がなかったら…いい名前だって言えたんだけどね…。」
「ふふ、そうですね。」
「私が捨てた名前…ですからね」
「茶子…誰から貰ったものなのかはもう分かりませんけど。」
「ふふ、確かにあったけど、もうないもの…って、少しロマンがありませんか?」
沈黙が少し流れ、メテヲが軽く額を抑える。
そして顔を上げた。
「ちょっと!!メテヲにも刺さるんだけどそれ!」
「あっ!?すみませんすみません!そうでしたね!?つい!!」
____
陽の光が当たる部屋の中で、ヒナは座り、ルカは立っていた。
ルカが、深刻そうな顔で話しかけた。
「…ちょっと怖い可能性に気づいたんだ。」
ひゅう、と涼しい風が吹く。
それはもはや寒いとすら感じてしまうほどだ。
姉探しを始めて5ヶ月ごろ、ルカは何度も戸籍を調べに役所へ訪れては、何も無かったという様子で帰ってくる。
_数ヶ月はこれを続けていた。
「怖い可能性?」
ヒナは周囲を見渡し、菓子がいないことを確認する。
「…なんで今まで気づかなかったのか、俺ですら、分からないけど…」
「……うん。」
ヒナは、静かに、静かにそれを聞き届ける。
ルカは言いづらそうに、結論を話した。
「…戸籍……消してるんじゃないかなって。」
「誰にもバレないように…誰にも見つからないように。」
「…は!?」
ルカの言葉に、ヒナは目を大きく見開き、しばらく硬直する。
この部屋にはこの2人以外いないためなのか、痛い沈黙が流れる。
ヒナは、信じられないが_といった様子で、話し始める。
「…仮にだよ、仮にそうだとして、目的が全くわからない、ルカ兄。」
さすがのヒナでも、その疑念の目を兄に向けてしまう。
その目にルカも驚く。
(…ヒナに疑われるのって…こんなに怖いことだっけ。)
ルカの身体は突然冷えきったかのように震えた。
「…なら、どうして見つかりゃしないんだ…?」
「俺には分からないんだよ…。」
「何ヶ月も探したよ…それでも、菓子ちゃんの名前は見つかっても、菓子ちゃんの姉らしき人物は、全く見つからない。」
「…なぁ、おかしいと思わないか?」
___
「そういえば菓子ちゃん、お姉ちゃんってなんて名前なの?」
ルカは優しい目で、菓子に聞く。
「えと…茶子、です。」
「…でも、お姉ちゃんは、私のこと忘れて、って。」
菓子は純粋で、無垢な目でそう答える。
期待混じりのその目が、茶子を何ヶ月も捜索していたルカに、痛々しく刺さる。
菓子は気づいていない。
_自身が愛していた親の、同じく愛していた姉に対する態度も、扱いも。
_隠れて行われていたのだから。
___
ルカが、震え声で、改めて聞く_
「…茶子、なんて名前、探してれば自然に見つかる…って、思わないか?」
「それを何日も、何ヶ月も続けた」
「それなのに、1件も、そんな名前は見つからなかった。」
「…菓子って名前は、見つけたんだぞ?」
「なぁ…」
縋るように、ルカは言う
「ヒナ…おかしいと思わないか?」
再度、ひゅうと風は吹く。
冷たすぎる風だ。
2人の恐怖にボールペンで線を引くように、その風が、寒気を誘う。
「…………確かに、そうかもしれないけど…」
「茶子ちゃんが危険な目に遭ってたらどうするんだよ…?」
「自分で消したのか、分からないけど…」
「わかんないよ…」
ヒナは弱々しくつぶやく。
あまりに複雑な状況は、2人の心を蝕んで、じわじわと棘を刺す。
もしタヒんでいたら?もし怪しいところにいたら?もし_実験台として使われていたりでもしたら?
_机に置かれたヒナの手が、微かに震えていた。
ヒナの目には、涙が溜まっていた。
「分からないよ…!すぐに呑み込めるわけないじゃん!!」
ヒナは感情のまま、ルカに向けて叫んだ。
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