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──────────ピピピピッ!ピピピピッ!
1日の始まりを告げるかのようになり続ける時計のアラーム。
それは私の大嫌いな音。
また朝が来てしまった。
何度聞きたくないと思ったのだろう。
もう何時からそんな風に思い始めたかなんてとうの昔に忘れてしまった。
鳴り続けるアラームを止め、時計に視線をやる。
7時30分。
その時間は私に現実を突きつけてくる。
起きたくなかった。
今起きてしまえば地獄のような1日を受け入れてしまいそうで嫌だった。
でも早く起きなければまたいつもの様にお母さんに怒られてしまうから、私は重い体を無理矢理起こしてベットの上に座るような感じになる。
その時、頭に重りが乗っている様な感覚に襲われて衝動に響いているような感じが分かる。
こうゆういつものちょっとした繰り返しが私を少しづつ奈落へと近づける。
「学校、行きたくないな…」
口からそんな言葉がポツリと出てくる。
私はいわゆる不登校だ。
私が不登校になった理由は色々ある。
今までの負の積み重ねが私をこうした。
でも、一番の原因はきっと中一のあの出来事。
°・*:.。.☆
中学一年生。
初めての学校制服、初めての部活動。
新しいの学校、そして初めて会うクラスメイト達。
楽しみなことがいっぱいで、生きてきた中で1番きらきらしていた時期。
初めて学校の制服に手を通した時はすごく嬉しかった。
私はもう、中学生なのだと。
小学生まで出来なかったことがたくさんできるようになるのだと。
クラスに上がると友達はすんなりと出来た。
元々の交友関係もあるけど人と話すのが好きな私は色んな子に声をかけて仲良くなった。
今じゃクラスのまとめ役的な地位にまで上り詰めた。
次第に学校の友達と外に遊びに行くようにもなった。
学校生活が只々楽しくて、幸せだった。
でも、そんな幸せな毎日は長続きしなかった。
6月の中旬頃に私はそれを見つけてしまった。
その日は確か次の授業が移動教室で、私はいつもより遅めの時間に教室を出てしまったから焦って授業場所に向かっていた。
「ついたぁ!!!」
心で叫んだ声が実際に出ていたらしく、私は人の視線を集めていた。
悪目立ち、というやつだ。
その事に人の視線で気づき、恥ずかしさで悶え苦しんでいた。
周りの人達に「すみません」と消えてしまいそうな声量で言うと、周りの人達は気にしていないと言わんばかりに元のように話をし始めた。
「白菊さん、遅かったね」
そう言って私の近くに小走りできた女の子はクラスメイトの美織ちゃん。
高めのポニーテールにキリッとした目と人より少し明るい髪色、少しだけしてあるスクールメイク。
とっても明るくてかわいい彼女はクラスの人気者だ。
巷で言うギャル?に似た存在だと個人的に思う。
ムードメーカーな1面もある彼女は、私の自慢の友達だ。
「なんかあったの?」と彼女は私の荷物に目をやった後、首を傾げて聞いてきた。
「ノートとってて遅くなっちゃったの」と自嘲するようにいうと、「え、何それかわいい〜!白菊さんほんっっといいこだよ〜!」と私の頭に手を乗せてぐしゃぐしゃっと頭を撫でてきた。
その時の彼女は本当に向日葵が似合う笑顔をしていて、女の私でも惚れてしまいそうなかわいらしい顔をしていた。
でも、頭を撫でられているという事実に私は次第に恥ずかしくなり自分の顔に熱が溜まっていくのが嫌という程わかった。
「美織ちゃん、そのー…。トイレ行きたいからまた後で!」とその場から逃げ出すように走って離れた。
その時に後ろから「いってらっしゃーい!」という元気な声が聞こえてきて、美人な彼女にそんな風に言われるのが嬉しい反面、先程のことを思い出して余計恥ずかしくなった。
実際私はトイレに行きたかったのも事実なので、都合よくそれを理由にその場から逃げた。
私は廊下に出て、教室から1番近くにあるトイレの扉に手をかけようとしたその時、
「でさ〜、その時の顔がまじ面白くて笑」
「あははっ笑ウケるー!笑笑」
人の話し声が聞こえた。
声的に友達の子だと思ったけど、誰かと話しているのを邪魔するようにトイレへ行くことなんて出来ないから私は別の場所で用を足そうと思いそこから離れようとした。
「そういえばさ、あんた白菊さんと仲良かったじゃん?」
自分の名前が話題に出て、足を止めた。
盗み聞きなんて悪いものだと分かっているけど、友達からどう思われているのか気になった私は聞き耳を立ててその場に留まった。
「そうだけど何?」
私の友達らしき声の子がそう言った。
「前々からあんた言ってたじゃん?あいつのこと…」
そろそろ切ってもいいかもって
その言葉を聞いた時、驚きや絶望より先に謎にしっくりときた感覚があった。
私の周りにいる子達はいい意味でも悪い意味でも私に深入りしようとはしなかった。
上辺だけの関係のような、そんな感じ。
だからだろうか。
その直後はそう思っている自分が不思議でしょうがなかったけど、冷静な今の頭なら全部わかる気がする。
だってあの子達は最初から私に興味なんてなかったんだから。
そして気がついた時には足から力が抜け、ペタンと床に座り込んでしまった。
私はそんな感情に気がついた後、押し潰されるかのような混乱と絶望を味わった。
見限るとはなんの事か、なんでそんな話になっているのか。
本当は心の奥底では分かっていたのに。
今ではそんな自分が心底嫌いだ。
妙に期待したからこんな結果になったのだ。
ただの他人に信頼を置いていたからこんな感情に駆られることになったのだと。
過去の自分にこんな簡単なこと教えてやれたらと何度思っただろうか。
そのまま話は進んだ。
でも、その時の記憶は殆どない。
只々呆然とその話を聞くだけしか出来ない私。
そんな私を無差別に傷つけてくる現実。
記憶にある言葉は「利用した」とか「いい子ぶっててキモイ」とかマイナスな言葉ばかりで、そんな言葉ばかりが心の奥深い所にグサッと突き刺さって今でも抜けない。
私の話で盛り上がっているかのように聞こえる笑い声。
目を閉じれば今でもそんな声が聞こえてくる気がして嫌いだ。
この場にいるのが辛くなって気がついた時には全速力で走り出していた。
私は、只々必死にそこから逃げた。
逃げたところで私のことを悪く言っていた現実は何も変わらないことなんて分かっていた。
けど逃げずにはいられないほどメンタルもボロボロだった。
その後、誰もいない空き教室に入ってその場で声を殺して泣いた。
多分その時の顔は涙でぐしゃぐしゃになってとても情けない顔をしていたと思う。
でもそんなの関係ない。
辛かった。
あんな言葉聞きたくなかった。
でも、これが現実。
人は善にも悪にもなれる。
そんな当たり前なこと分かっていたのに全員を信用しきっていた。
なんの警戒もなく本心を話した。
だからこそ裏切られたことがわかった今自分の全てが否定された気がして余計辛かった。
そしてその日から私はその子達にびくびくしながら毎日を過ごした。
だがそのせいで、ある日空き教室に突然呼び出され、いじめをうけることになった。
私を切りたいとトイレで言っていた子達が主犯格となって。
私はいじめに逢う少し前に外リンパ瘻という耳の難病が見つかって行動も制限されていた。
それはクラスメイト全員に共有されてるから、その主犯格の子達も知っていた。
プールや耳に水が入ることは勿論、息を止めたり力んだりする行為は禁止されていたのでいじめに抵抗しようにも出来ないし、わざと病気が悪化するようないじめを選ぶようになっていった。
内容は酷いものばかりだった。
最初は私のものを捨てたり切り刻んだりとかのまだ対処ができるものばかりだったが、それもどんどんエスカレートしていき、プールに呼び出して病気で泳げない私を突き落としたり髪の毛を思いっきり掴んでバケツに顔を無理矢理突っ込まれて息ができなくなる直前まで手を離さなかったりという様な、拷問に近い生き地獄の日々を過ごした。
小学校の頃にもちょっとした嫌がらせ行為は受けてきたけど、それと比にならない程のものばかりでだった。
結果的に学校は愚か、積極的に外に行こうとは思えなくなっていった。
°・*:.。.☆
その後、理解のある姉の助けもあって、私は外に出れる程には回復した。
だが、学校に行くのがどうしても嫌だと感じる。
中一のあの頃からその気持ちはあまり変わっていない。
でも、お母さんに心配はかけたくない。
だからといって学校に行く勇気なんて私にはない。
自分がどこまでも中途半端な人間で嫌気がさす。
──────────ドン、ドン
階段を登る音が聞こえる。
この足音、お母さんだ。
早く、早く決めないと。
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
ガチャ
「鈴音、今日学校どうするの?」
開口一番、いつも通りお母さんはそう言ってきた。
私はぐちゃぐちゃな頭を必死に動かして答え探す。
行かなければいけない、それが学生の本分で私の義務。
ぐちゃぐちゃな頭でもそんな簡単なことは分かっているけど、
心が、
体が、
それを否定している。
私自身がしたいことがそのせいで全く分からなくて、中々言葉を紡げないでいると、お母さんは私の言葉を待たずにもう一度口を開いた。
「別室登校でもいいけど、どうするの?」
別室登校……。
私の学校には、空き教室を使った不登校の子達が学校にいつでも来れるように『特別教室』というものがある。
約1年前に不登校の子達への救済処置になるかの実験で、私の学校にこの教室が作られた。
そこは普通の生徒は入れない予約制のものとなっていて、教師に親がこの時間に登校させると事前に伝えた後、教室の中で簡単な本人確認をしてやっと特別教室に入れるようになっている。
その教室には真っ白なパーテーションがいくつかあって、一つ一つの机の間にスペースを区切るように置いてある。
机の前にはパステルカラーの椅子が一つずつあった。
奥のスペースにはソファなどのくつろげる休憩所があって偶に誰かが使っている音が奥から聞こえてくる。
そこでは自主的な勉強ができたり、自分の使ってるスペース内では結構なんでもしていい。
私的にはその場所はすごく過ごしやすいし、重宝してる。
でも、学校に行くのも一苦労してて、行って辿り着いたとしても吐き気がするし軽くめまいもする。
なんなら酷い時は耳鳴りしか聞こえない時もある。
病気、トラウマ、全部が私に絡みついて離れない。
まるで、呪いみたいに。
「…鈴音、今日は休みなさい」
登校するか否かぐちゃぐちゃな頭で必死に考え込んでいる時、母がそう言ってきた。
「なんで、?」
私はそう恐る恐る聞いた。
もしかしたら母にも失望されたんじゃという不安が横切って、自分でも分かる程に質問した声は震えていた。
「いいから休みなさい」と私に疑問を持たせることを許さないかのように母は言い放った。
こうゆう時の母は何を言っても無駄だということは昔から知っていたから、私はその言葉に対してただ「はい」としか言えなかった。