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#子育て
都築七美
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読み終わりました……すごく胸が締め付けられました🥀 「妊娠って病気じゃない」って言う人の無意識の残酷さ、彩が耐えてる毎日が細かく描かれていて、読んでて苦しかったです。亮の「俺だって大変なんだ」がとにかく刺さりました。自分の痛みを知らない人に「甘え」って言われるの、本当にしんどいですよね。 最後の展開は……まさかの反転でゾクッとしました。ここからどうなるのか気になりすぎます。続きも読ませてください🌙
――人は、わからないことを、平気で軽く扱う。その痛みを、自分が味わうまでは。
「妊娠、おめでとうございます」
産婦人科の診察室で、医師が穏やかに微笑んだ。
嬉しくて、自然と涙が滲んだ。これから亮と二人で、この子が生まれてくる日を待つ。家族が増えて、もっと幸せになれるのだと信じていた。
――嬉しいはずだった。
なのに、その日から私の人生は、少しずつ“私のもの”ではなくなっていった。
*
朝、目が覚めた瞬間から気持ちが悪かった。
彩は洗面所へ駆け込むと、洗面台にしがみついた。胃の奥から酸っぱいものがせり上がり、何度もえずく。
「おーい、味噌汁まだ? 俺、さっきから待ってるんだけど」
リビングから、夫の亮の声が飛んでくる。
「聞こえてる? 昨日もほとんど横になってたんだから、少しくらい動けるでしょ」
「……ごめん。もう少ししたら作るから」
「俺も仕事あるんだから頼むよ。俺が倒れたらどうすんの?」
(私が倒れたら、どうなるんだろう)
そう聞き返したかったけれど、彩は何も言えなかった。
どうにかリビングへ戻ると、亮はスマートフォンを眺めながら身支度をしていた。
「会社の後輩の奥さんさ、もう八か月なのにめちゃくちゃ元気らしいよ。妊娠って病気じゃないだろ?」
彩は黙ったままコップを手に取る。
「あんまり休んでばっかだと、“妊婦様”って言われるぞ? SNSでも叩かれてるじゃん、ああいう人」
手が震え、コップから水がこぼれた。
「ほら、手元ちゃんと見て」
(私、誰に何を強要した?)
ただ毎日を乗り切るだけで、精一杯なのに。
そのとき、亮のスマートフォンが震えた。
「……何だこれ?」
件名:《あなたの人生、少しだけ交換してみませんか?》
必要なあなたに、痛みを知る時間を――
Re:Birthプログラム体験を開始します。
「人生の交換……?」
「どうせ迷惑メールだろ」
亮は気にも留めず、画面を閉じた。
*
その日の仕事帰り、亮は同僚の田中裕人と駅へ向かっていた。
「二課の関口さん、育休半年取るらしいよ。青木は?」
「俺は取らないかな。育休って基本、女が取るもんだろ?」
「奥さん、大変じゃないか?」
「彩が産休も育休も取るし。ある程度は任せておけばいいっしょ」
裕人が呆れたように亮を見る。
「男が仕事だけしてればいい時代なんて、もう終わったぞ」
亮は曖昧に笑った。
(最近、家事も彩に任せっぱなしだしな)
たまには花でも買って帰ろうか。
それくらいで埋め合わせになると思っていた。
*
その夜も、彩はベッドから起き上がれなかった。
「明日くらい、何か作れそう? カレーとか」
「……無理かも。匂いだけで吐き気がして」
「そんなに? “つわりって思い込みもある”ってネットに書いてあったよ」
(私の体を、ネットで診断しないで)
「俺だって会社でストレスやばいんだよ。上司には詰められるし、帰ってきても家のこと何もできてないし」
亮はため息をついた。
「俺だって大変なんだって」
また、この言葉だ。
(私はただ、寄り添ってほしいだけなのに)
彩は亮に背を向けた。こぼれた涙が、静かに枕へ染み込んだ。
*
数日後。
彩は仕事中、何度も意識が遠のきそうになっていた。
「青木さん、顔色悪いけど大丈夫?」
「……はい、大丈夫です」
(大丈夫じゃない。でも、“甘えてる”って思われたくない)
午後の会議では資料の文字も頭に入らず、ついに視界が真っ白になった。
次に目を覚ましたとき、彩は病院のベッドにいた。
「体重が落ちすぎています。このままだと、お母さんも赤ちゃんも危険です。しばらく仕事を休みましょう」
休まなければならない。
それでも彩は、自分だけが弱いと言われたような気がした。
*
「本当に休むの?」
その夜、休職届を見た亮が眉を寄せた。
「……これ以上は無理なの」
「でも、産休とかあるだろ?」
「産休は出産の直前からしか取れないの」
「じゃあ有給で繋ぐとかさ」
亮は少し言いづらそうにしたあと、続けた。
「正直、ちょっと甘えてる気もするよ」
その言葉に、彩は俯いた。
「俺だって残業続きでキツいんだし。だから協力し合おうって話だろ?」
(“協力し合う”って、いつも私が我慢することだった)
「……ごめん。もう寝るね」
寝室へ向かう彩を見送り、亮はため息をついた。
(妊娠って、もっと幸せなものだと思ってたのにな)
*
身体も、心も限界だった。
それでも彩は、“ママになるんだから頑張らなきゃ”と思っていた。
(……誰に、そう思わされたんだろう)
やがて疲れに負けるように、彩は目を閉じた。
その隣で眠っていた亮の意識も、深く沈んでいく。
次の瞬間、視界が白く弾けた。
『ようこそ、反転した世界へ』
「……なんだ?」
『痛みを知らぬ者に、痛みを与える。それが、この世界のルールです』
再び、眩い光が亮を包んだ。
*
「――っ!」
目を開けると、そこは見知らぬ診察室だった。
目の前には白衣姿の女医がいる。
「おめでとうございます」
「……は?」
女医は穏やかに微笑んだ。
「妊娠していますね」
「…………は?」