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ずっと、ママともパパともにていないじぶんのかおがきらいだった。
かみのけのいろもはだのいろも目のいろもいっしょ。だけど、どこかちがっていた。
ママは「きもちわるい」っていってあたしをなきながらなぐるし、パパは「よその子だ」っていっておうちにいれてくれない。
でもいざなはちがう。
かみもはだも、ぜんぶかわいいってほめてくれるの。
いざなのほうがあたしなんかよりもずっときれいなのに。
─…ねえ、いざな。なんであたしなんてたすけたの。
『…あれ』
パチリと思考が途切れ、本日二回目の目覚めを迎える。
寝ぼけながらぱちぱちと乾いた瞳に水分を与える様に瞬きを繰り返すと同時に、段々と視界の焦点の合っていき、スヤスヤと規則正しい健康な寝息をたて眠るいざなの姿が視界に映る。まだどこかあどけなさを残したその寝顔に途端、愛情が湧き、ぼんやりと眠気が籠っていた頬の口角がにやにやと崩れていく。
いざなが寝ている姿なんて久しぶりに見た。
いつもはあたしよりも遅くに寝て、あたしよりも早くに起きているし、そもそもちゃんと寝ているのかさえも怪しいぐらいだ。
そんないざなの寝顔を見られることに、勝手に優越感を抱く。
『…いざな、おーさまみたい。』
ぐるりとうつ伏せの姿勢になり、すぐ横で眠るいざなの顔をまじまじと見つめる。
眼球を休ませるように固く伏せられた長いまつ毛も、枕に枝分かれする柔らかい髪も。いざなの全てがまるで本物の王様のように美しく綺麗で、つい数秒見惚れてしまう。
本当、なんでこんなに綺麗なのだろう。この人は。
「……ン」
しばらく布団の中でもぞもぞと意味のない寝返りを繰り返していると、不意にいざなの睡魔に抗うようなくぐもった声が耳に届く。
『いざな?』
流石に起こしちゃったかな、と眠気の籠った声でうなりながらどんどん布団の中に潜っていくいざなの顔を恐る恐る覗く。重そうな褐色の瞼がうっすらと開き、白い睫毛に囲まれたハイライトの薄いアメジストのような薄紫色の瞳がぼんやりとあたしを捉えた。
「…あ?○○…?なんで先に起きて……」
『おはよ、いざな!』
寝起きでふらふらとする体幹を安定させようと、体を起こしたいざなの首辺りに腕を絡ませギュッと抱き着く。ほんのりと伝わるいざなの体温がいつもより少しだけ冷たい。
「…オマエあったけぇ」
そう言ってグリグリとあたしの肩に顔を埋めながらしっかりと抱きしめ返してくれるいざなにキャッキャと屈託のない笑い声を撒き散らす。
「…あー……これだけは言っとかねぇと」
突然、声というよりも息に近い音吐を洩らすイザナの言葉に頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がる。自分の脳内にぷつぷつと湧き上がって来る疑問の泡の正体を問いかける様に、どこか嫌そうな表情を作っているいざなの目をのぞき込む。
その瞳を自分の視界に交えた瞬間、息が止まった。
「外行くっつったろ?…オレ以外にも人いっぱい居るけど絶対喋んなよ。目も合わすな。」
ぐしゃりと何かが潰れたような音がした。言葉に表せられない嫉妬という感情に塗りつぶされているその瞳に、恐怖という糸で視線を縫い付けられ、ドクンと心臓が飛び跳ねる。
『…おはなししちゃだめなの?』
「オレ以外と喋るなんて論外」
絶対な。と何度も念を押して、あたしを見つめるいざなの宝石みたいに綺麗で大きい紫の目が今日だけ酷く濁って映った。昔、ママがあたしを叱りつけるときと似たとても怖い視線。
『…わか、った』
ギチギチと固い音を鳴らほどあたしの肩を強く掴むいざなの力と、怯えの色を乗せるあたしの顔を見つめるいざなの鋭い視線が怖くて少し震えた声で言葉を返す。
「…わりぃ、」
そんなあたしの声を聞いて、ハッと我に返ったようにいざなの大きな手があたしの肩から離れた。ヒリヒリとした痛みを残して、いざなの腕の重みが消える。
「……オレのこと嫌いになった?もう好きじゃねェ…?」
あたしの体よりもずっと大きいブカブカな服のすき間から覗く、少し赤みを帯びたあたしの肩を見つめ、俯き気味にいざなが言葉を紡ぐ。
その声も瞳も先ほどの鋭さはなく、どこか絶望の色を取り込んでいるように見えた。
『ううん、きらいじゃないよ。いざなだいすき!』
そんな姿を見てしまったら、先ほど感じていた恐怖なんて全て無かったかのように消え、微熱のような熱い感情だけが心の中に残った。
「…オレも○○大好き。」
息が止まるほどギュッと抱きしめてくれる彼の体の中央辺りに頬を寄せ、心臓の上に耳をつける。トクン、トクン、と一定のテンポで耳に届く鼓動を刻む音に安堵の色が浮かぶ。
愛してる、と肩の荷が下りたような明るく和やかな表情で頬に軽い口づけを落とすいざなに、体中が限りない喜びに満ちる。
『……いざな、ちょっとだけでいいからてれびみたい』
「…今日だけな」
『わーい!』
その言葉を合図に、乾いた足音を鳴らしながらテレビの前にちょこんと座る。
ピッという短い電子音と共に、辺り一面黒に染まっていた暗いテレビの画面に様々な色をした眩い明かりが灯る。
番組は子供用の童話の読み聞かせなのだろうか。何処かのお姫様のイラストとともに相手の心を撫でるような温和とした女の人の声と言葉つきがテレビから流れ込んでくる。
『おひめさま!』
キラキラと光るドレスを着て、可愛らしい色に彩られているお姫様の姿にワクワクとした腹の底からせり上がるような感情を抱きながら目の前に繰り広げられるお話しの内容に夢中になっていると、ぐいっと褐色の腕に服の袖が引っ張られ、軽く体が左右に揺れる。
なあに、と突然のことに、疑問を頭の中で渦巻かせながら物語から視線を切り腕の主の方へと顔を向けると、少し不満そうに細められたいざなの瞳があたしを捉える。
「テレビとオレどっちが好き? 」
『いざな!』
「いい子」
その言葉と共に頭を優しく一撫でされ、暖かさに目を細めた。
今放送しているようなシンデレラや白雪姫などのお姫様が登場するお話しは大好き。登場するお姫様が可愛くて物語も面白いから。
でもいざなの方がずっと好き。あたしを救ってくれて、“愛”をくれた唯一の人だから。
ぎゅっといざなの腕に抱き着き、切っていた視線をテレビへと戻す。
場面はいくつか飛んでいて、王子様がお姫様に銀色に色づいた小さな輪っかを渡すシーンだった。ほんのりと頬に赤みを帯びたお姫様が王子が手に持つそれを受け取る。
『いざな、あの銀色の宝石なあに?』
ピカピカと本物の宝石のように美をさらけ出して光り輝くそれに一瞬で意識を引っ張られ、画面に映る鉄の塊を人差し指で指しながらいざなに問いかける。
「あ?あー…指輪じゃねぇの?結婚指輪。」
『けっこんゆびわ?』
聞き慣れない「けっこん」と「ゆびわ」の2つを聞き返す。
「指につけるやつ。…あ、ほらこれ。」
疑問を映すあたしの目の前に差し出された褐色の手のひらに乗っかる小さな鉄の輪っかは、今まさにテレビに映った“指輪”で、ちょんっと控えめに指でつっつく。
『これがけっこんゆびわ?』
「いやこれは普通の指輪。結婚指輪は、あー……なんかもっとすごいやつ」
「好きな奴との愛のしるしみたいなモン」
結婚したらオレらもつけような、と柔らかい声色で付け加えられたその言葉に胸のときめきを覚える。心の中からダラダラと溢れ出しそうな想いで息が詰まるのを感じながら頬に笑みを乗せ、途絶えた言葉を綴る。
『うん!あたし、いざなとけっこんする』
弾んだトーンでそう“愛”に満ちた言葉を落とすあたしに、いざなは少し驚いたように目を見開くと、
「…あぁ、○○が18になったら結婚しような。」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。
続きます→♡1000