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私はそんな彼に両腕を伸ばし、顔を引き寄せるとチュッとキスをする。
そして、涼さんの耳元でポソッと囁いた。
「大事にしてくれて、ありがとうございます。……大好き」
思っている事を伝えただけなんだけれど――、涼さんは深い溜め息をつき、私は「えっ?」と怖くなる。
(……なんか失敗したかな?)
不安になって目を見開き、涼さんを見つめると――、彼は真っ赤になって私を睨んでいた。
「……え? ……あの……」
戸惑っていると、涼さんはもう一度息を吐く。
「俺がこんなに我慢してるのに、恵ちゃん、可愛すぎない? 反則なんだけど」
拗ねたように言ったあと、涼さんはギューッと私を抱き締めてきた。
「ああ……、可愛い……! 駄目だ。誰にも見せたくない。うちから出したくない」
「もぉ……」
私は苦笑いし、涼さんの髪をサラサラと撫でる。
「……恵ちゃんって、傷付いていて人間不信で、まどろっこしいやり方でも、丁寧に大切に扱わなきゃ……と思っているのに、どこか小悪魔だよね? やっぱり猫っぽい。……それで、俺が全力で愛でようとしたら、手痛い猫パンチをしてどこかに隠れるんでしょ?」
「そ、そんな恩知らずな事はしませんよ。……ぜ、全力の度合いによりますけど」
おずおずと言うと、涼さんは私を見て微笑んでから、またデコルテに吸い付いてきた。
「少し痛くするよ」
彼は唇を肌に触れさせた状態で囁くと、前歯を押しつけてきつく吸ってきた。
「ん……っ」
今までの優しい、気持ちを確かめるようなキスとの差に驚いた私は、思わずギュッと彼の肩を掴んで痛みをやり過ごす。
少しの間、涼さんは私の鎖骨の下あたりを吸い続けたけど、「……はぁっ」と息を吐いて顔を離す。
「キスマークつけたよ」
「えっ? …………えっ?」
私は彼を二度見し、慌てて自分の胸元を見ようとしたけれど、距離が近すぎて分からない。
「恵ちゃんの綺麗な肌にうっ血痕をつけるのは忍びないけど、あんまりにも可愛すぎるから、『俺の』って印をつけておかないと」
「……どんな理屈ですか……」
こんな事された経験のない私は、半ば呆然として突っ込みを入れる。
すると涼さんは息を吐いて笑う。
「世の中にはね、可愛い女性がいると手当たり次第に自分の物にしようとする男がいるんだ。一夜限りの関係じゃなくても、『あ、いいな』と思っただけですぐに恋に落ちてしまう奴もいる。……俺自身、恵ちゃんについてはコロッと落ちてしまったから、人の事を言えないけどね。……だから、そういう奴が夢を見られなくするための、お守り」
説明を聞いた私は、しばし狐につままれたような表情をしていたけれど、おずおず挙手する。
――と言っても、強制的に両手を挙げているんだけど。
「……じゃあ、私が涼さんにつけても、……いい?」
こんな、独占欲を見せたら飽きられるかな? と思ったけれど、涼さんはパァッと笑顔になると、グイッと自分の首筋を出して「どうぞ!」と言った。
私は吸血鬼か。
「やり方、分からないですよ?」
「歯を立てて、思いきり吸って」
「首って、見えやすいから駄目なんじゃないですか?」
「ワイシャツの襟で見えるか見えないかだから、丁度いいよ」
「……なんでそんなにノリノリなんですか……」
「性格悪いけど、いつも俺に期待した目を向けている女性社員が、どんな阿鼻叫喚になるか、興味があって」
「本当に性格悪いですね」
「応えるつもりがないと言っているのに、向けてこられる好意ほど嫌なものはないよ」
彼の言っている事は冷たいように思えるけど、事実だ。
つい先日、朱里だって田村の迷惑な想いで酷い目に遭った。
……まぁ、奴の場合、朱里の首にキスマークがあったら、余計に激情してそうだったけど。
そんな事を考えながら、私は涼さんの首に手を回し、はぷ、と彼の首を噛む。
「っふふ、くすぐったい、恵ちゃん。もっと強く噛んでいいよ」
「やだ、マゾの人みたい」
「俺は恵ちゃん限定のマゾでもいいよ」
心地いい軽口を叩き合いながら、私はちう……と彼の首筋を吸ってみた。