テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ちょうどその頃だった。
メリーランは一人、街の中を歩いていた。
彼女はガ―レットの仲間ではあるが、彼からは性の対象としては見られていない。
あくまで友人として付き合っているだけだ。
しかし…
「はぁ…」
彼女は、深い溜息を吐いていた。
理由は簡単だ。
あの後、結局彼は自分のことを抱かなかった。
メリーランは彼のことが好きだ。
『魅了』などは関係なくずっと昔、子供の頃から。
しかし、彼はそれに気づいてはいない。
おかげで、夜は悶々とした気持ちで過ごす羽目になってしまった。
「彼は何を考えているのかしら…?」
ガ―レットは、基本的に快楽主義者である。
気に入った女であれば誰であろうと手を出す。
そんな彼だが、メリーランには手を出していない。
彼にとってメリーランは単なる友人なのだろう。
だから、彼女に手を出してこないのだ。
つまり、彼にとって自分は恋愛対象ではないということだ。
そのことを考えると胸が苦しくなる。
「やっぱり私って魅力無いのかな…」
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか人気の無い路地裏に来ていた。
普段なら、絶対に通らない道だ。
だが、今の彼女にとっては好都合な場所であった。
静かなところを歩きたかったからだ。
しかし…
「おい!」
突然、背後から声をかけられたからだ。
振り返るとそこにはガラの悪い男たちがいた。
全員で5人。全員がニヤついた笑みを浮かべている。
そして、その内の一人が言った。
「お姉ちゃん可愛いねぇ。俺たちと一緒に遊ぼうぜぇ」
「結構です」
面倒だ、魔法で軽く吹き飛ばすか?
いや、面倒事を起こしてガ―レットに迷惑をかけるといけない。
適当にあしらおう。
メリーランはそう考えていた。
「いいじゃんいいじゃ~ん」
「ちょっとだけなんだしさぁ」
彼らはメリーランを囲むようにして近づいてくる。
面倒だ。
そう思った彼女は踵を返し、逃げようとした。
しかし、すぐに行く手を阻まれてしまった。
意外と素早い動きに、対応が追い付かず困惑するメリーラン。
「なっ!?」
「へっ、逃がすわけねえだろ?」
「大人しくついてこいや」
「嫌ッ!!」
抵抗するも、多勢に無勢。
あっけなく取り押さえられてしまう。
どうやら彼ら、武術大会の予選に出場する者らしい。
この国の各地から集まったならず者チーム、ということだ。
「離しなさいよ!!」
「はいはーい」
「いいからいいから!」
「うるせえよ。黙れ!」
「うぐッ!?」
リーダーらしき人物が拳で彼女を殴りつける。
建物の壁に叩きつけられ、口の中に血の味が広がる。
殴られたところがジンジンと痛む。
だが、それでもなお抵抗を続けるメリーラン。
すると今度は腹を蹴られた。
「げほっ!ごほ…!げほっ!」
「チッ、しぶてえ奴だな…」
そう言うリーダー格の男。
と、その時メリーランの持っていた金の入った皮袋が地面に落ちた。
男たちの興味はメリーランの持っていた金に移った。
財布を取り出し中身を確認する。
「おい、見ろよこの女!結構金持ってるぜ!」
「おい!俺にも見せてくれよ!」
「ああ、構わねえよ」
他の仲間もメリーランの所持金を覗き込む。
そして、彼らの顔に下卑た笑みが浮かぶ。
彼らにとって、これは良いカモだ。
これだけあればしばらくは遊べるだけの余裕がある。
その事実に、自然と頬が緩んだ。
「へ、こいつで勘弁してやるよ」
思わぬ大金の入手に笑みを浮かべる男たち。
そのまま彼らは去っていった。
メリーランだけがその場に取り残される。
涙を流すメリーラン。
彼女の心は絶望に支配されていた。
「う、うぅ…」
最近、全くいいことが無い。
ガ―レットは相変わらず自分に手を出してくれない。
お金は奪われ、おまけに暴力まで振るわれた。
もう最悪だ。
なんでこんな目に遭うのか。
悪いのは自分なのか…?
「うぅ…」
なんとかその場を離れようとするメリーラン。
しかし、身体にうまく力が入らない。
身体中を殴られたせいでうまく力が入らない。
裏通りから、なんとか表通りに出た。
しかし足取りはおぼつかない。
フラフラとした状態で歩く。
「あ…れ…?」
そこでメリーランは気づいた。
自分の様子がおかしいことに。
視界が歪んでいる。呼吸が荒くなっている。
全身から汗が流れ落ちる。
頭がボーっとする。
心臓が激しく脈打っている。
「はぁ…はぁ…!」
怪我の打ち所が悪かったのか、そう考えていた。
その時だった。
突然、背後から誰かに支えられた。
驚いて振り返ると、そこには見覚えのある男の顔があった。
「リ…リオン…」
その男はリオンだった。
彼は心配そうな表情を浮かべている。
「だ、大丈夫か?」
「だいじょうぶ…じゃ…ない…かも…しれない…わね」
「一体何が…!?」
「わたし…は…」
そう言いかけて、メリーランはそのまま気絶してしまった。
見覚えのある人間がいたから急いで走ってきたのだが、予想外のことになってしまった。
ガ―レットの『魅了』について知っているとすれば、本人以外はメリーランしかいない。
リオンはそう考えていた。
しかし、こうなっていては仕方がない。
一旦彼女を街の病院へ連れて行くことにした。
「はッ…!?」
そう言いながら、メリーランは目を覚ました。
彼女が目覚めたのは、病院の一室。
男たちに殴られてボロボロになっていた身体には包帯が巻かれていた。
どうやら治療を受けたらしい。
「ここは…?」
「目が覚めたかい?」
突然声をかけられたので驚いた。
声の主の方を見ると、そこにはリオンがいた。
「あなたは…確か…!」
「ああ、俺はリオン。君を助けに来たんだ」
「助けるって…どうして…」
「それは後で説明するよ。それよりも…」
彼はメリーランの目を見つめる。
その瞳からは強い意志を感じた。
「単刀直入に言う。君はガ―レットの『魔法』について何か知っているんじゃないか?」
「えっ!?」
「俺が言いたい事、伝わるよね…?」
「…」
彼の問いかけに対し、彼女は何も答えなかった。
いや、答えることはできる。
彼が何を言いたいのかもわかる。
ガ―レットの『魅了』のことだろう。
正直、メリーランは彼がそこまで知っているとは思わなかった。
しかし、それを話すことは出来ない。
話すことは、ガ―レットに対する裏切りとなる。
それだけはしたくなかった。
「言えないのならそれで構わない」
無理矢理聞き出して、嘘を言われるよりはいい。
リオンはそう考えていた。
「えっ…?」
「だけど、もし話してくれる気になったら教えて欲しい」
そう言って、リオンは病室から出て行った。
会いたい人が居る、そう言って。
一人残されたメリーラン。
彼女はベッドの上で考える。
「(私は…)」
結局、そのまま眠りについた。
翌朝、メリーランは退院することになった。
怪我は薬を塗って包帯を巻いて対応した。
医者も彼女の回復力の高さに驚いていた。
だが、精神的ダメージまでは治せない。
彼女の心は深く傷ついていた。
だが、それでもメリーランは前に進むしかないのだ。
それが彼女の選んだ道だから。
「…リオン」
「ん?なんだい?」
「私は彼を裏切れない。だからあなたの知りたいことは何も話せない」
そう言った時の彼女の目は真剣そのもの。
それを見たリオンは納得した。
これ以上問い詰めても無駄だと悟ったからだ。
「逃げて」
「え…?」
「そうすれば、あなたはもう何も失わないはずよ」
逃げろ、それがメリーランが出来る最大限のアドバイスだった。
しかしそれはできない。
リオンは大切なものを取り返すために戦う。
ただそれだけだ。
そう言うリオン。
「わかったわ」
メリーランは言った。
ただその一言を…