ポーン、と指定した階につくと、柔らかい音を鳴らして開くエレベーター。
「ゆず君って!」
エレベーターが開けば、またゆず君は俺の腕を掴んで、無理矢理引っ張るように、自宅へと連れて行く。その間も、矢っ張り、俺の方なんて見てくれなかった。
怒っている、何か凄く怒っている。
気に障るようなことをした覚えはないし、俺の方が被害者なんだけど……という、何故か被害者の意識が生れてきて、この状況をどうにかしないと、抵抗しないと、と頭が呼びかけている。
抵抗しないと、なんてあの時はさせてくれないくせに、何でこういう時だけ、抵抗しろと言うのか分からなかった。
(呪いの言葉を克服しなきゃ、俺は……)
意識の問題で変わるものなのかと、俺は思いながら、ゆず君の家に引きずり込まれ、靴を脱いだのを確認するとゆず君は、風呂場へと俺を連れて行く。ちらりと見えたリビングはまた散らかっていて、片付けてあげなきゃなあ、俺がいてあげなきゃなあなんて、今考えなくても良いことが頭の中にぽつぽつと浮かんでくる。今から、自分が何をされるか分からないのに、俺は、こんな時でさえ、ゆず君を甘やかすようなことしか考えられなかった。
風呂場に連れてこられれば、また脱げ、といわれ、仕方なく、服を脱ぐことになる。
「え、え、何で触って」
「……傷、無い……でも、他の男の匂いがする」
「ゆず君?」
「風呂、入って下さい……お湯は、洗ってる間に、たまるでしょ」
「ゆず君、さっきから、何を」
「いいから、入れ。今すぐに」
「……ッ」
ゆず君らしくない口調で言われれば、俺は黙って従うしかない。ゆず君の言うとおりに風呂場に入れば、別に逃げようと何て思っていないのに、内側から鍵をかけられる。そして、ゆず君も全て脱いで、風呂場に入ってきたのだ。
「ゆず君、さっきから、怖いよ。何で、何も言ってくれないの」
「……紡さんが」
「俺が? 何」
「鏡の方みて、手をついて、こっちに尻だけ向けて」
「は?」
「良いから、早くして下さいよ。慣らされないまま入れられたいんですか」
淡々と話すゆず君に、俺は訳が分からなくなる。
何で、ゆず君が怒ってるかも分からないし、どうして、こうなっているのか、理解できない。
俺は、言われるがまま、それに従って、鏡に手をつく。バスタブにたまり出すお湯、曇っていく鏡。そんな鏡に映った俺の顔は酷く怯えたものだった。これから何をされるか分かっているからこその、恐怖の表情。そう、さっき犯されそうになった時みたいな、そんな顔。
「ゆ、ゆず君、俺は!」
キュポンと音を立てて何かが開けられる音がした。何だろうと、考える暇も無く、その液体が塗られたゆず君の指が入ってくる。
「っう……」
「ちゃんと立ってくださいね」
「や……だ」
「……」
「っ……」
「ほら、紡さん、俺に逆らえないでしょ」
――何で?
そう言いながら、一本だけだったはずのゆず君の指は二本三本と増えていって、俺の中を広げていく。
ゆず君の細くて綺麗な指が、俺の身体に入っている。
それだけで、俺の身体は反応してしまっていている。でも、いやだって生理的に受け付けない。大好きなゆず君の指なのに、足が震えて、立っていられない。
「僕のこと嫌いなんですか?」
「違う、違うから……」
「じゃあ、何で怯えてる? 僕を、さっきの奴らと同じだって思ってる? 酷いなあ、紡さんは。『俺』は愛してるのに」
「あい……あぁあっ!」
愛してる? 何それ。
本心なのか、確かめる術はなくて。ゆず君は、八つ当たりをするように、まだそこまで解かしきっていない俺の後ろの穴に自分の性器を押し当てる。嫌な予感しかしなくて、俺は必死に首を横に振る。でも、ゆず君はそんなのお構いなしだった。俺が逃げないように腰を掴んで、一気に奥まで挿入してきた。
その勢いに耐えられず、俺は鏡を引っ掻くようにして、その場に倒れ込み、尻だけを突き上げるような形で、ゆず君に揺さぶられた。
「んああ、やめぇ、ゆ、ず君! やめて!」
「何で」
「だめっ……きもちわるぃっ……ひゃっ!」
「嘘つき。こんなにしておいて気持ち悪いわけがないですよね。僕とのは、良いですよね。僕ならいいんですよね。僕を彼奴らといっしょにするな」
と、ゆず君は風呂場にこだまするぐらい痛い声で叫ぶ。
それでも、ゆず君が何でこんなことをしているのか、俺には全然わからなかった。
ただただ、快楽に流されないように耐えるしかなくて。俺はマットに爪を立てるようにしながら、ゆず君に突かれるたびに声をあげるしかなかった。
抵抗したいのに、力が入らない。顔が見えなくて恐怖を煽る。
いつもと違うセックス。それは、ゆず君が怒りをぶつけるような行為で。俺は、ただひたすらに、ゆず君が満足するまで耐えるしか無かった。
「ふぅ、あ、あぁあッ……あ、え?」
「イカせてもらえると思ったんですか。これは、お仕置きですよ。立って、次はベッドに行きましょう」
もう少しでイッてしまう、と思った時、ゆず君がピタリと動きを止め、中から出て行ってしまった。何故、と思って振返れば、やはり怒った顔で俺を見下ろしているゆず君の顔があった。何を言っても通じないだろう、と、俺は諦めの感情を抱き、言われるがまま、立ち上がり、バスタブにたまったお湯を横目に、風呂場をあとにした。