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こにゃ
879
担々麺 チャソ ✧
326
ぺん
267
#CR
8/|/aB(旧アイビー)
1,681
side Ut
「昔の俺に言ったら信じひんやろなぁ…」
「ん?何が?」
互いに風呂を出て落ち着いていた夜の時間。俺の口からこぼれた言葉に背中を包んでいた重みが少しだけその重量を増し、視界の左端にペリドットの煌めきが姿を現す。それをちらりと横目で見ながら言葉を続けた。
「いや、昔の俺やったら家族以外と…ましてや、フォークって分かっとる奴とこんなベタベタすんのなんて考えられんやろなって」
「あ〜…まぁそうやろな。昔の大先生、初対面でスタンガン向けてきたしな」
「ごめんて、そのぐらい誰も信用してなかったんよ。親にもフォークが平然と近寄ってくるかもしれんからって言い聞かされとったし…」
「…ふはっ、でも大先生もうすっかり俺に甘なったよなぁ。最初の方は少し触れるのにも声掛けへんとビクビクしとったけど、今はもう完全に受け入れ態勢やん」
返事の代わりに自分よりも体格が良くて硬い体を背もたれにするように寄りかかる。その態度が余程気に入ったのか嬉しそうな笑い声を漏らしながら首筋に頭を擦り寄せてくる、ふわふわとした髪が頬に当たってくすぐったいのだが、それすらも愛おしいと思ってしまうのは惚れた弱みというやつなんだろう。
「……ありがとな、大先生」
「何が?どしたん急に」
「いや…大丈夫が俺の事受け入れてくれたから俺は自暴自棄にならずに生きれとるんよ」
「お前やったら、俺以外のケーキ見っけて上手くやっていきそうやけどな」
「ん〜…そうかもしれへんけど…」
言葉の続きを待っても一向に耳には届かず、一体何なのだと顔ごとゾムの方へと向けて答えを促そうとした。
「…んふ、ほんま大先生はわかりやすいなぁ」
待ってました、と言わんばかりに強引に、でも優しさを孕んだ唇に捕食される。誘導されたと気づいた時にはもう遅く、片手で頬を掴まれて逃げられないように固定されていた。意固地になって唇を開かないでいても、目の前の捕食者は全くイラつく様子もない。
「我慢比べでもする気なん?別にええけど、どうせすぐ大先生が負けんのに」
子供あやす様に笑う声が耳に甘ったるく残る。男の俺には無いはずの器官が疼くのはあまりにもこの男に毒されすぎたせいだ、砂糖水に漬けこまれるみたいに骨の髄まで愛されることを教え込まれた体が抵抗を放棄しろと訴えかけてくる。
きっとこいつも、それを理解しているのだ。頬を掴んでいた手をゆるめ、触れるか触れないかのギリギリの距離を保った指先で首筋から耳へ肌をゆっくりとなぞられていく。その間にも幾度となく唇が落とされ、その度に甘い毒が脳まで侵食して思考が溶かされていく。だめだと分かっているのに、段々とそれすらも無くなって全て委ねてしまいたいと本能が懇願している。
「…だいせんせ、だめ?」
唇を食んだキスを最後にひとつ落とされ、こちらに全てを任せるふりをした悪魔の声が降り注いだ。勝てない、分かりきっていた答えだろうにいつも抵抗をしてしまうのは、俺自身この時間を欲しているのかもしれない。
「………だめ、やない」
「じゃあ、遠慮なくいただくわ」
許しという大義名分を得た熱情が薄く開いた俺の唇を割り入って口内へと侵入する。肉厚なそれに蹂躙される中で尖ったゾムの歯が当たる度にピリッとした痛みが走る、それすらも脳が快楽と誤認するのか本来なら不快さを感じるはずなのに腰にずくりと甘い刺激が与えられ体に力が入らなくなっていく。
「っ、ふ…♡ぁ…ッぅ、ん…ッは…♡んぅ…ッ♡」
「はッ…ふ、…ッふ、あっま…♡」
腰に添えられていた手が服の裾を捲り腹から胸へ、滑るようになぞり上げれていく。骨ばった男らしい手が汗ばんだ素肌に触れる度に特別な何かをされた訳でもないのに背筋にゾクゾクとしたものが駆け巡り、自分の体すらも支えることができず全体重をゾムへと預けてしまう。
ソファからずり落ちてしまわないように今度はしっかりと抱え直された腕に酸欠でくらくらする頭の中で安心感を感じていれば、ようやっと満足したのか唇が離れ、互いの舌を銀色の透明な糸が繋ぐ。
「…やっぱ、考えられへんよ。」
「…ッふ〜♡っ、はッ……な、にが…?♡」
「こんな、甘いご馳走を知らずに生きる未来なんて…考えられへんから、やっぱ俺には大先生が必要やったよ」
「……?あ…さっきのつづき…?」
すっかり忘れていた、そうだ答えを焦らされていたんだった。でも、頭がぼんやりしてあまりちゃんと内容が頭に入ってこない。
「大先生、今あんま頭回ってへんやろ」
「……んな、ことないし」
「意地っ張りやなぁ…まぁええよ、またいつでも伝えられるし」
さっきまでの頭が沸騰するようなキスじゃなく、触れるだけの軽いものが手首に落とされる。それはゾムが行為に及ぶ前に必ずする一種のルーティンだった。
「…スるん?」
「期待、してへんの?こんなグズグズになっておいて?」
「………うっさい」
「ふはっ、素直やないな〜。準備、手伝おか?」
心底愛おしそうにこちらを見るオリーブグリーンがきゅ、と細められたのを見て少し意趣返しをしてやろうなんて悪い考えが浮かんだ。まだ力の抜けている手をそっとゾムの頬に当て、がっしりとした首に先程やつがそうしたように髪を擦り寄せた。
「もう、しとるって言ったら…どうする?」
「……は?え、もしかしてさっきの風呂ん時?」
「どうせスるんやろな〜って思っとったから、やっといた」
「え〜…あ〜…、なるほ…ど…」
「ほら…ゾム、デザート…欲しくないん?」
問いかけと同時に、空いているもう片方の手を俺の体を支えていたゾムの手の甲に重ねて指を絡ませる。下腹部に導くように絡んだままの手を滑らせれば、唾を飲み込む音が耳に届いた。
「…どこでそんなの覚えたん」
「んぁ?おまえが全部教えたんやろ、知っとるくせに」
「とんでもない奴やなぁ…」
「こんな俺はいや?」
「いんや?…むしろ大好物や♡せっかくのデザート、美味しくいただかせて貰うわ」
体勢を変え、軽々と持ち上げた俺の体を横抱きにしたゾムが片手間にリビングの電気を消しながら寝室へと足を進める。仮にも成人男性の体重を苦もなく扱うのはゾム自身が体を鍛えてる成果だろう。俺を守りたいからと筋トレを始めた日を思い出し懐かしさを感じた。
「…何考えとるん?」
「ん〜?ゾムのこと考えとった」
「っ、そっすか…」
「あ、照れたん?」
「照れへんし、あんまおちょくんなや分からせるぞ」
「あっ勘弁して、ごめんて」
さっきまでのじっとりした甘さはどこへ行ったのか、軽口を叩き合っていればいつの間にか寝室のベッドまで辿り着いていて、柔らかいシーツの上に割れ物を扱うかのように優しく下ろされる。
スプリングの軋む音を鳴らしながら自らも乗り上げたゾムの手が、乱れたシャツ越しに俺の胸の上を滑る。
「…じゃ、脱がすで」
「うん、ええよ」
ゾムの骨ばった指がボタンを一つ一つ丁寧に外していく、俺が自分で脱ぐよりも脱がす方が好きならしい。俺を触れるのを許されてる気がすると確か言っていたけれど、そんなことしなくたってこの身はとっくにお前に全部許してるのに。
段々と顕にされていく肌が少し冷えた外気に触れてふるりと震える、それを見たゾムの手は緩く止まり服に落としていた視線だけをこちらに向けて動かす。おおよそ俺が寒いかどうか気にしてるのだろう、首横に振って大丈夫だと伝えればその視線は再び元に戻った。
ボタンを全て外されたシャツから腕を抜いて完全に脱ぎさり、上体をシーツへと沈ませる。そのまま腰を少し持ち上げればパンツに指をかけたゾムによって下着ごとゆっくりと足首まで下げられていく。一糸まとわぬ姿なんて、もう何度もこの男に晒してきたけれど未だに慣れはやってこない。顔ごと目線を逸らせば、耳裏をくすぐるように伸ばされた手に向きを正されて唇にキスを落とされる。
「…っふ、ん…ぅ、…っ、はッ」
「っ…ぷは、……じゃ、うしろ触るな?冷たかったらすまん」
「ん…だいじょーぶ」
ベッドサイドの引き出しからローションとゴムを取り出したゾムが器用に口で封を開け、自らの象徴に薄い膜を張る。おおよそ一般的にも大きいと言えるであろうそれを最初に見た時、恐慄いて無理だと駄々を捏ねたのももはや懐かしい思い出となっている、あの時は実際本当に無理だと思っていたのだ。
そんなことを思い出していれば、手のひらのローションを温め終わったのか透明な銀色を纏った中指がこれからゾムのものを受け入れる場所の入口の縁をゆっくりとなぞる。普通なら入口とは決して呼ばないそこは先程準備したせいか、はたまたこの男に使い方を教えられたせいか期待するように微細な伸縮をしているのが自分で分かってしまい顔が熱くなってしまう。
「ゆび、挿れるで」
「ん……ッふ、ん…ぅ」
「大丈夫か?痛ない?」
「…っ、だい、じょうぶやって、ちゃんと…じゅんびしたし」
「そか、そんならええよ。」
力を入めた指が肉を押し割って中へと侵入する。すり、すりと内壁を擦るように奥へと進むそれが迷いなく一点へと狙いを定めぐ、と押し込まれる。
「ッ、ぁ…く♡そ、こ…」
「ん、分かっとる。ここよな、鬱の好きなとこ」
「すきじゃなッ…っあ、ぅ〜ッ♡」
「嘘や、いっつもここ、俺によしよしされて喜んどるくせに」
「ちゃッ♡よろんでなんかっ、ん゛ぅ……ぁっ♡」
「準備までしとるくせにこういう時は素直やないんよなぁ、まぁそういうとこも可愛ええからええけど」
そんなことを言いながら内側を広げるように指を動かすゾムに少し頭がくらりとする。かわいい、それを褒め言葉としてちゃんと受け取るようになったのも散々ゾムに伝えられてきたからだ。男にしては背もそこまで大きくはないし顔も中性寄りだとは思うが、決してかわいいと呼ばれる見た目はしていないと自負している。
時折前立腺を掠めながら動かされる指は、時間が経つにつれ2本、3本と無理のない範囲で増やされていく。以前よりも指を足されるのが早くなったような気がしなくもないが、きっと気のせいだと思いたい。流石にそれを受け入れられるほど、雄としての尊厳を捨て切ってはいないのだ。
「っふ…ぁ、ん……ぞむっ、ぞむ…」
「ん?どした?」
「ぅ、…ちゅー、したいっ…」
「んふっ…ええよ、しよか」
ふわふわした思考でキスをねだれば、満更でもないと言わんばかりの甘ったれた声と顔でゾムは応えてくれる。舌がゆっくりと絡ませられ、頭がグラグラと煮立っていく。その中でゾムがお互いの口内で混ざりあった唾液を美味しそうに嚥下した音が聞こえた。
「っふ、ほんまにあまぁ…♡うつ、きもちええ?」
「んぁ…?ぅん…きもちえぇよ…?」
「ふふ、そかぁ…な、鬱…そろそろ挿れて大丈夫そ?」
「んぅ……うん…ええよ、きてぇ?」
「ありがとぉな、腰上げれる?」
溶けた頭でゾムに頼まれたことをなんとか遂行する。ゾムを受け入れるために少しだけ腰を浮かせ、先程まで指が埋まっていたそこを主張すれば熱のある、指よりも太い物がぴた、と添えられたのが分かった。
「っし…挿れるで、痛かったら言うてな」
「う、ん……ッ、んぅ゛…ハッ…あ゛っ……く、ぅ…」
「ごめんな、苦しい?」
「だい、じょ…ぶ…やけどッ、っは…ふ♡ちょい、まって…?」
「ん、待つわ、ゆっくりでええからな」
確実にまだ全部は入り切ってない、それでも1回待って欲しい程度には腹の中に圧迫感と質量が居座っている。ゾムも早く自分の欲のために動きたいだろうにいつも俺を優先してくれるのが本当に有難かった。
浅めの呼吸を整えて、違和感をゆっくりと消化していく。顔の顔に突かれたゾムの手に自分の手を絡めて顔を見遣れば、汗の滲んだ額を繋がれていないもう片方の手で拭ったゾムが優しく微笑んでくれた。
「どした?なんか俺の顔ついとる?」
「んーん…っもう、つづけてええよ」
「ほんま?じゃあ、もうちょいだけ頑張ってな」
体外に残された逸物がゆっくりと内壁を押し広げながら指では届かない奥へと収まっていく。大きいが故に前立腺すらも圧迫しながら進んでいくそれに口をきゅっと結んでいても甘えた声が漏れてしまう。なるべくこの段階で声を出したくないのが本心なのだが、堪えきれないものは仕方ない。
「…っふ、よし…全部入った、大丈夫か?鬱、ちょっと待つ?」
「んゃ…ッ、うごいて、ええからッ♡はよきてぇ…?」
「ッ、も〜…さっき待ってって言うから気ぃ遣ったんに…じゃあ動くで?」
「ん……ッふ、ぁ゛ッ♡ぅ゛〜〜ッ♡っんぃ…!ッあ゛っ、!♡」
「鬱〜?奥と前、どっちがええッ?」
「んぇ゛…ッ?わ゛、かんなッ…♡っぁ゛〜ッ?!っきゅ、ぁッ♡」
「そっかぁ、ほなどっちもしよか♡」
「ッ?!ぁ゛ッ〜〜ー~〜ッ♡…ッぁ…?な゛んッ、…ぇ?♡」
どちゅんっ、と鈍い音を立てて勢いよく最奥へと圧倒的な質量が叩きつけられる。理解が追いつかず、うわ言のような言葉を発することしか出来ない。先程までの優しさは一体どこに消えたのだろうか。
ガツガツと容赦なく突き立てられるそれに、ゾムの体に縋り付く以外の術もなく蹂躙される。全身にくまなくキスを落とす目の前の獣は、ご馳走を前に舌なめずりをしながら涙と汗を賞味していた。
「っふ〜ッ♡ははっ…ほんまっ、どこかしこもあまくてさいっこーのデザートやな…♡」
「ッひゅ、ぁ゛ッッ♡ぞむッ…♡じょ、むッ…!♡」
「んふふ、はぁいゾムやで?♡ここにおるよ〜?」
「ッあ゛、〜〜ッ♡♡ぅ…ぁ゛ッ♡っひ、きゅ〜〜〜ッ…♡」
「いっぱい気持ちええなぁ、うつ♡」
「ふ、ぁ゛…ッ?♡き、もち…ッ♡ぞむッ、すきッ…!」
「俺も好きやで、愛しとるよ」
「、ぅ゛〜〜〜ッ♡♡♡…ぁ、きゅ゛♡♡っは…ハッ…♡っあ、ふ、ぅ゛〜…!!♡」
好き、愛してる…その一言で絶頂できてしまうくらい頭は完全に堕ちきっていて簡単に快楽を拾ってしまう。こんなにも単純にできてしまってる自分の体が恐ろしくて仕方がない、どこまでゾム好みにされてるのだろうか。
ゾムが肩口に顔を埋めてくる、くせっ毛が首に触れてくすぐったいのに、それまでもが快楽になって身震いを引き起こす。耳元でギリ…ッと歯を噛み合わせた音と堪えるような息遣いが響いた。
「ッ!!!っ、ふ〜〜ッ!ふッ、ぅ……なッ…うつ…!かんでええ…?」
「ッぁ゛…?なに゛…?な゛んれ…いっ、たぁ?」
「噛ましてッ…うつの体、おねがい」
「ッあぁ……っふ、ッえぇよ゛?♡かげんッ…してなぁ…ッ?」
「ッがんばる……ありがと、」
大事なところはちゃんと忠犬のままなのに、確かな愛を感じた。噛んでいいか、それはゾムにとって重要なラインらしい。絶対に許可を取ってからじゃないと噛まない姿は、過去に人…特にフォーク嫌いだった俺からの信頼を勝ち取ろうとしていた姿と重なった。
「ッふ〜ッ…っ、あ」
ゾムが口を開く音と共に肩にピリッとした痛みが走る、その痛みでゾムの鋭い歯が自分の肌に突き立てられたのを感じた。チクッとする程度だった痛みはやがて、その大きさを増して肩に突き刺さる。
「っ、い゛ッッッ!!っひゅッ…ぁ゛ッ…!ぃ、だ…ッ」
「ッ、ごめ、がまんして、俺もッこれでも耐えてんねん…」
「え゛…よッ!かんで、ええっていったのッおれやから…ッ、」
「ごめんなッ…まだ、痛いの続くけど…ゆるして」
「ん゛、だぃ、じょぶ…ッうけ、とめるからッ」
「ぁ゛〜ッ…くそッ…ちょっとは抵抗してやっ」
先程噛まれた肩は、確実に血が滲むレベルで噛まれている。それでもゾムは我慢してると言うのだからフォークの本能というものは恐ろしい。むしろ、噛むだけで我慢できているゾムが凄いのだろうか?分からないが、俺はこの痛みを受け入れると決めたのだ。
腕、手首、腹…至る所に鋭い痛みとともにゾムの歯型が刻まれていく。呻き声が漏れるほどに痛いはずなのに、それすらもゾムからの愛情だと頭は認識し、段々と甘い疼きを帯びていく。きっともうこの体は手遅れなのだ、体の芯までゾムのための体にされているのだと思う。
「ゔ……ッぃ゛♡ハッ…ぁ゛、ぐ…ぅ…ッーーっは、…ふ」
「ごめん、これで最後にするから…耐えて」
「っ、…ぅ゛ん、わか、った…」
「ッ、ありがと」
その言葉を皮切りに、首にほど近い鎖骨上へと口が寄せられた。本当は喉を噛みたいのだと言われたことがある。じゃあ何故鎖骨にいつもするんだと聞いたら、喉は最悪命に関わるからそこだけは絶対に噛まないと決めていると言われ、その時は最中でも色々考えているのだなと感心したはずだ。
最初に肩を噛まれた時と同じように、ゾムの歯が皮膚に触れたのを明確に感じる。覚悟を決めるように1度、深く深呼吸をすればそれが準備が出来た合図と言わんばかりに先端が肌に押し込まれ、ぷつ、と皮膚を割いたのを痛みで感じた。
「ッ、ぃ゛〜〜〜ッ…!!!っゔ、ぁ゛…!ふ、ぅ゛〜ッ…っぐ、…」
「っ、ぷは…♡」
確実に出血しているそこから歯を抜いたゾムが、溢れた液体を心底美味しそうに舐め、そして吸い上げる。噛まれるだけなら皮膚が薄い部位で痛みが多少大きいだけで今までと大して変わらないが、出血跡に刺激を与えられるのはまた違う痛覚が伴う。
まるでキスマークをつけるかのような水温が自分の呻き声と共に寝室内に響く。この瞬間、明確に自分とゾムは被食者と捕食者だった。この行為が行き過ぎた先が、フォークによるケーキの殺害なのだと幼い頃から口酸っぱく言い聞かせられてきた。
決してこんな状況で思い出すことでも無いのだろうが、痛みの防衛反応か何かか家族にゾムを紹介した時のことを思い出す。感情的になった父が、息子のことを誑かした殺人鬼予備軍めと怒鳴りつけるのを何も言い返さずに耐えていたゾムはあの日、何を思っていたんだろう。
「…、うつ?」
「っ、ぁ゛…?おわ、り?」
「うん、終わり。ありがとうな、痛かったよな」
「…めちゃくちゃいたい」
「そうよなぁ、ごめんな」
「ううん…べつに、ええよ」
軽く意識が飛びかけてたのだろうか、いつゾムが離れたのか記憶がない。心配と申し訳なさの混ざった手で頭を優しく撫でてくれるゾムに、安心感と愛おしさを感じた。
「大丈夫か?ぼーっとしとったけど」
「ん…たぶん…?あんま、おぼえてへん」
「噛みすぎたか…?そんな出血しとらんけど…」
「むかしんこと、おもいだしてた」
「昔?いつ?」
「ゾムのこと、父さんと母さんに紹介した時」
ぴた、とゾムの動きが止まった。それが、どんな感情なのかは分からない。数秒間の静寂が流れ、絞り出したようにゾムの口から言葉が漏れた。
「……そか」
「うん、……ゾム」
「なに?」
「どんなゾムでも、俺は愛しとるよ」
「………俺も、愛しとる」
その言葉を最後に、ゾムはそれ以上語らず静かに触れるだけのキスを落とした。形の整った唇からは、俺には良さが理解できない…でも、ゾムにとっては一等甘いご馳走なのだろう鉄の味がした。
――――――――――
side Zm
「…ほんま、無防備になったよなぁ」
ベッドに腰掛け、穏やかな顔で眠る恋人の顔を見つめながら独り言ちる。無数に体に刻まれた自分が手当をした傷跡からは未だに甘い匂いが漂っている。
彼が、昔の自分に今のことを話したら信じないと思うと話していたが、俺の場合も同じだろうと思う。いくら信頼して貰えるように務めてきたといえど初対面でスタンガンを向けてきた警戒心の塊のような人間が、今自分の前で無防備に眠っているだなんて到底信じられないだろう。
「ほんまに、俺でよかったん?」
そんなことを思ってしまうのは、数刻前に彼の口から出てきた過去の出来事が原因だった。1年と少し前、妹さんとの食事から帰ってきた大先生から親に一緒にいるところを見られたらしい、家に連れてこいと言っていると言われたと申し訳なさそうに告げられた時は頭から冷水をかけられたような気持ちだった。
いくら外で自分以外のフォークと遭遇した場合の危険を考慮したとはいえ、ほとんどの外出に付き添っていたのはやりすぎだっただろうか。でも、もし自分がいない間に襲われたら?守れなかった無力感と自分以外のフォークが大先生に触れた嫉妬でどうにかなってしまいそうだった。
一体何を言われるのか、それに怯えながらも出向いた大先生の実家で受けたのは事前に想像していた通りの扱いだった。特別大きい訳でもなく、かといって狭い訳でもない一軒家のリビングに通され、彼と共に彼の両親と向かいあわせで座った自分が覚悟のもとフォークであり、大先生とお付き合いをしていると告げた時、彼の父は感情的に声を荒らげた。
「やはりそうか!!!!この予備殺人鬼め!!!お前がうちの息子を誑かしたんやな!!!!!」
そう怒鳴られた時、咄嗟に否定することができなかった。行動に移したことがないとはいえ、何度も大先生に対してそういった衝動を覚えたし、彼に信じてもらうために彼にいい顔をしていたのも事実だった。
それに、大先生のご両親がどれだけ大先生を大切に育ててきていたかも知っていた。本人から聞いた幼少期の体験、公園で遊んでいた幼い大先生を男性のフォークが襲おうとし、彼の父が死にものぐるいで彼を守ったのだと。それ以降人に近付くな、信じるなと教えられて育てられてきたということ、そこからは確かな大先生への愛情を感じた。
だからこそ、自分がそのように思われ嫌われるのは当然だと、そう思ってしまった。当時現場で大先生を守った父の立場としてはこんなぽっと出の若いフォークなんて、自制心のない犯罪者予備軍だと思われて仕方ないと受け入れてしまった。
でも、大先生はただ罵声を受け止めるだけの俺の為に言い返してくれた。彼にとっては自分を大切に育ててくれた大事な父親だっただろう、実際家族との思い出を楽しそうに話している姿をいつも見ていたのだ。だからこそ、そんな大先生が自分のために怒ってくれたのが嬉しかったのを覚えている。
「ッ…やめてや!!!!ゾムのことなんも知らくせにそんな事言うなや!!!ゾムはそんな酷い人やない!!!俺もッ!!そんなことも判断できないようなガキやないねん!!!」
大事にしてきた息子に声を荒らげられ、頭が冷えたのだろうか大先生の父は俺に謝罪をしてくれた。図星な部分もあった身としてはそれが酷く申し訳なく思ったのが鮮明に記憶に残っている。それ以降定期的に二人で大先生の実家に赴いては話をしているが、信頼してもらえてるのかは未だに自信がない。
「………ごめんな、鬱。」
こんな…醜い衝動を抱いてまう俺で、本当にごめん。
出会ったあの日から、比喩表現などではなくその身を食らってしまいたいと何度も思ってきた。その度に自分を律して、この衝動をまだぶつけても許されるような範囲内に収めて隣に並び立ってきたのだ。俺の、俺だけのケーキ。お前と出会うまで、あんなに好きだった食事も味覚を失って億劫になり色のない灰色の世界を生きていたんだ。
これからも衝動に負ける気なんて決してない。でも、何があるか分からないのが人生だ。だから俺を信じないでほしい、もし俺が衝動に負けることがあればその時は俺を殺してでも俺から逃れてほしい。
ゆっくりと隣に横たわり、規則的な寝息を立てる体を抱きしめる。透き通るような肌も、サラサラと指通りのいい黒髪も、今はまぶたの裏に隠された深い海のような瞳も…そして、俺に向けてくれる声も、顔も、その全てを健全なままに愛していたい。俺の願いは、たったそれだけだから。
「…愛しとるよ、鬱。愛しとるから…どうか俺に食われんでおって。」
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このエピソード、めちゃくちゃ良かったです……!ケーキバースの「噛む」行為が、単なる衝動じゃなくてちゃんと許可と信頼の上に成り立ってるのがゾムの誠実さを感じさせて、逆に鬱くんが「噛ませてあげる」ことで愛情を返してる構図が美しかった。過去の家族紹介の回想が挟まれることで、今の二人の関係の重みが増してるのも好きです。しゅがーそるとさんの関西弁の会話、すごく自然でキャラに合ってますね。