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一家扱いされてるの、霊障のせいとばかり思ってたらまさかの……!
「三科優斗です。よろしくお願いします」
はっきりとした発音、張りのある声色に、宮野はメモを取り出す。
「この取材を受けてくれたということは、優斗くん自身もDNA鑑定に興味を持って──その、自分が本当に三科家の血筋なのか疑問を持っている。そう思ってもいいのかな」
「……よく分かりません。俺の父は三科大輔です。なのになんで豊さんが俺の前に現れないのか、それが……疑問で」
「お母さんの浮気を疑ったわけではない、と?」
「っ、二人は仲がよかった!! 俺は……!!」
「申し訳ない。今のはあまりに無礼だった」
声を荒げた優斗に、宮野はすかさず謝罪する。謝られれば、優斗はそれ以上責めることができなかった。
沈黙の後、再度宮野が口を開く。
「本題に入る前に、いくつか質問があるんだ。いいかな」
「……家族を侮辱するものじゃなければ」
唇を噛み締めるように睨み上げられての言葉に、宮野は了承を示して両手を挙げた。
「第一に──君から見て、普段君の家族は仲がよかった?」
「いろいろ問題はあったし、ひどい部分もあった。だけど……家全体はまとまってたよ」
「座敷わらしを祀ってるということに、違和感を覚えたことは?」
「逆に聞くけど、おじさんは仏壇に違和感を持ったことは? ないでしょ? 俺にとってはあの祭壇は仏壇みたいなものだった。生まれたときからずっと家にあったんだから」
「なるほど。じゃあ……」
いくつか質問が続き、優斗は淡々とそれに答える。
少しでも三科家を侮辱するような言葉が出そうになれば、優斗はすかさず目を尖らせた。そのため宮野は何度か言葉を選び直したが──取材そのものは順調に進む。
「優斗くん。君の友人だった陸くんはどんな子だった?」
「面白い奴でした。元気で、人見知りしない。転校してきた俺に、最初に話しかけてくれたのも陸です」
「他人に対して攻撃的だったそうだけど、その点についてはどう思ってる?」
「……え?」
「学校のお友だちに話を聞いたとき、数人からそんな話が出たんだよ。陸くん、君と仲良くなろうとする奴がいるとひどく邪魔してきたって。それで少し問題もあったらしい」
その言葉に呆然とする。
陸はいつでも優斗に楽しい話を提供してくれた。売られたケンカは買うタイプで、クラスメイトと衝突することもあったが、基本的には優しい人間だ。そう思っている。
しかし確かに、優斗が他の誰かと買い物に行った後は──その相手はそれ以降、二度と一緒に行動してくれなくなっていた。
「優斗くんが仲良くするのは自分だけでいいとか、そういうことを言ってたみたいなんだよ。一番近いのが自分じゃないと、お母さんがガッカリするとかなんとか……」
叩きつけるような音で、ドアが開いた。
イスから跳び上がるほど驚いた二人が咄嗟に入口を見返ると、買い物袋を持って微笑む友理奈が立っていた。
「り、陸のお母さん……」
「ごめんなさいね。荷物を持ってたもんだから、思ったより大きな音が出ちゃって。取材でしょう? 気にせず続けてね」
「……はい」
話を故意に遮ろうとしたのではないか、と疑いたくなるタイミングだった。
その上荷物を片付けるという名目で、友理奈はなかなかキッチンから離れようともしない。むしろ宮野を監視するように見つめている気配さえした。
優斗もそれを気にしてか、続きを促すことすらできずにいる。
やがて話題に戻すことを諦めたらしい宮野は、本題に入ろうと笑って眉尻を下げた。
「数日後には公にされる情報だからもう話してしまうんだけど──君にDNA鑑定をしてみてはどうかと提案したのは、思いがけない情報を入手したからなんだ」
「思いがけない情報?」
「大輔氏を始め、遺体が残っている人は全員、司法解剖に回されたのは聞いてるね?」
「はい、警察から司法解剖の許可がほしいって連絡が来ました。それがなにか?」
「結論から言おう」
宮野の目が未だキッチンで動いている友理奈を流し見、改めて優斗を見る。
「稲本陸くんは、三科大輔氏と茜さんの子──つまり三科家の子だったよ」
沈黙が落ちる。
「……え?」
「稲本陸は三科家の人間だ。ただし出生記録には、大輔氏の子どもは男児一名と記載されている。ならば君は一体何者か? ……それを知るために、DNA鑑定をさせてほしい」
戸惑う優斗に、宮野は正面から願い出る。その姿を友理奈がじっと、見つめていた。
──取材を終えてからも、優斗は呆然とソファに座り込んだままだった。
宮野からもたらされた情報が、うまく頭の中で構築できない。陸が他人に対して攻撃的だったという話すら納得しきれない内に、さらに自分が正体不明の何者かで、本当は陸こそが三科家の人間だという。
ただでさえ親族を亡くして疲弊し尽くしている脳が、理解を拒んでも仕方がない話だったのかもしれない。
あまりにも、優斗がこれまで持っていた世界からかけ離れすぎている。そのせいかどれもこれも断片的な情報としか思えず、一つに繋がってはくれなかった。
どこも見ていない視界の中に、やがて心配そうな顔が入ってくる。
「優斗くん、大丈夫?」
「……陸の、お母さん……」
口に出して、そうじゃないのかと項垂れる。