「気が強ぇオンナ……」
銀河が口の端を吊り上げて笑う。
「でも……本当は、かわいくて素直なんだろ? 知ってるぜ……」
銀河が、さも何もかもを知っているような口ぶりで言う。
「さっき、俺が適当に言ったことまでも、いちいち真に受けちゃってさ……」
「なんで、そんなこと言われないと、いけないのよ……」
迫り寄る顔から目を逸らして、低く呟くと、
「こっち向けよ…」
うつむけた顔が、無理やりに向き合わされた。
「言っただろ? 知ってるって……俺は、おまえのことを、ずっと見てきたんだから……」
「ずっと、見てきた……?」
そんな言葉を口にされるなんて、まさか思ってもみなかった。
「ああ、夏目 理沙をこのプロジェクトに推したのは、俺だからな」
「嘘…そんなの……」
目の前の軽薄なだけのはずの男が、私のことをずっと見ていて、まして仕事に抜擢してくれた本人だったなんて、とっさには信じられなかった。
「嘘じゃないさ……おまえの頑張りくらい、知ってるんだぜ?」
軽く笑っている表情と、そのキレ者の上司らしいセリフとが、頭の中でどうしてもうまく噛み合わなかった。
「嘘よ…そんなの……絶対……」
自分でも何が正しいのかわからなくなって、「嘘」と決め付けようとする私に、
「じゃあ、今のこれも……嘘?」
そう銀河が聞いてきた。
「何よ、これもって……」
目を上げると、紫色をした魅惑的にも映る瞳とかち合った。
「この、シチュエーション……」
再び銀河の唇が近づいてきて、避けることもできないまま口づけられる。
「これは、嘘じゃないだろ……?」
口づけから解かれ、耳元に声が吹き込まれると、
囁かれた耳までもが、熱を帯びて赤くなるのを感じた。
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