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「まぁまー。あんま。まぁまーっ」
一歳八か月ともなると、随分と人間らしくなったもので。
広い、広い公園に来ている。……そう、海も近く、課長との思い出のいっぱい詰まった、あの公園へと。
向こうで手を振る愛娘に笑いかける。……歩きかたもしっかりとしたもので……歩くスピードもかなり速くなった。階段も、上手にのぼれる。うちはマンションなので、普段はエレベーターを使うのだが、愛良のオーダーで、わざと階段を使うことも……。
レジャーシートを敷いてお昼タイム。……と、なんだか異変。――あれ。これって……。
「どうした莉子?」身を屈め、愛良を後ろから支えるかたちて歩かせていた課長がわたしに気づく。わたしは胸元を押さえ、
「もしかしたら……。もしかしたら、かもしれない……」
「えっ本当?」ぱっ、と顔を輝かせる課長。「すごい……すごい、嬉しいなあ! あでも、具合悪いんだったら帰ったほうがいいよね? あと病院、いつ行く?」
レモネードで喉を潤しながら、わたしは、「……検査薬買って、来週の土曜日、かなあ……。愛良のこと、お願いね」
「任せとけ」
にしても、覚悟はしていたものの……。それに、わたし、課長と一緒にいて、二年妊娠しなかったのよ!? それが、いきなり……、って……。
それに、仕事にも復帰して約半年。やっと慣れてきた頃……なのに。
でも、うちの課。中野さんも高嶺もわたしも出産しているから、裏で『めでたい部』、って呼ばれてる……。『なんでもや』に新しい名前が出来た。
それに、もうひとり子どもが欲しかったから……。狙ったわけじゃないけど、でも、本当ならいいことだとわたしは思う。
そう。素晴らしいこと。
誰がいつ死ぬかなんて誰にも分からない。明日自分が無事で生きているかすら分からない……。けど、この先なにが起きるのか、怯えて生きていくのではなく、喜びを……感動で、胸を満たす、そんな人生を送っていきたい……。
「課長。……わたし、幸せです……」座る彼に声をかける。「大好きなひとに巡り合えて……大切な子どもが出来て。課長。わたしにこんな人生を与えてくれて、ありがとう……。わたし、幸せ」
「おれも――幸せ」
「あっ。ちゅっちゅー!」気づいた愛良が指をさす。「ママずるい! あいらもちゅっちゅー!」
くすくす笑い、わたしは愛娘に手招きをする。「じゃあ、みんなでちゅっちゅしようか。おいでー」
幸福に満ちた時間を過ごす。このときのわたしのなかには新しい命が宿っていた。それから――十か月を経て、無事、男児を出産する。
誰にでも手に入る幸せではない。だからこそ……この幸せにずぶずぶに浸って生きていくのだ。この心臓が動くのを止めるそのときまで。
幸せに続く道を歩くわたしはただ、笑っていた。唯一無二の……大切な家族に守られている幸せを感じながら。
―完―