テラーノベル
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彼は私を、スタジオの隅にあるメイクスペースへと連れ出した。
大きな鏡が並ぶ、静かな場所。
「あの、御子柴さん、あんな言い方したら芽衣が……」
「今は、あなたの妹さんの話をしているのではありません」
御子柴さんは、私の言葉を静かに遮った。
彼はそのまま、私を椅子に座らせる。
「……白河さん。あなたは今、すごく悲しい顔をしてる」
「そんなこと、ありません。私はいつも通り……」
「いいえ。唇が震えています。……何に怯えているんですか?」
御子柴さんが、私の顔を覗き込む。
その瞳はどこまでも澄んでいて、私がひた隠しにしてきた醜い感情さえ、すべて見透かされているようだった。
「私……可愛くないですから。芽衣みたいな女の子に、みんな見惚れるのが当然だし……」
自分でも驚くほど、情けない言葉が零れた。
どうせ、「そんなことないよ」とお世辞を言われる。
そう思って、私はギュッと目を閉じた。
けれど、彼が口にしたのは、そんな安っぽい言葉じゃなかった。
「……あなたは、自分を閉じ込めすぎている」
「え?」
「コンプレックスを隠すために、この完璧なメイクを鎧にしている。でも、俺にはその奥にある、あなたの本当の輝きが見えるんです」
御子柴さんは、私の頬に、指先をそっと添えた。
熱い。
大人の男の人の、しっかりとした体温が伝わってくる。
「……俺に、魔法をかけさせてくれませんか」
「魔法……?」
「そう。あなたの芯の強さを、光に変える魔法。隠すためのメイクじゃなくて、あなたらしくあるための色彩です」
彼はそう言うと、メイクボックスから一本の柔らかな筆を取り出した。
その所作は流れるように美しく、私はただ、彼の動きに目を奪われることしかできなかった。
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