テラーノベル
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とりあえず、タタリを止めることを条件に、一夜の宿泊が許された。美少女探偵と加賀美警部補は、ネコミミ美少女の勧めで温泉に案内されることになった。
脱衣所の暖簾をくぐると、木の香りとほのかな湯気が漂っている。姫は金髪のゆるふわを一つにまとめようとしながら、ちらりと隣を見た。黒髪をポニーテールにした加賀美が、すでにジャケットを脱ぎ、淡々と身支度を進めている。
「あまり見るんじゃない」
短く、低い声が飛んだ。姫は真っ赤になって視線を逸らす。
「み、見てませんでごぜぇやす……!」
それでも、白い肩や鎖骨、引き締まりつつも豊かな加賀美の身体が、湯気の向こうにぼんやりと浮かんで見えてしまう。自分も急いでタオルを抱え、湯船へ向かった。
露天の岩風呂は、山の冷気と温泉の熱がちょうどよく混じっている。二人は湯に肩まで浸かり、しばらく黙って空を見上げた。星が、都心では見られないほど澄んでいた。
「……いいお湯でごぜぇやす」
「ああ」
短いやり取りだけで、妙に心が落ち着く。上がったあとは、用意されていた浴衣に袖を通した。姫の浴衣は淡い水色、加賀美は落ち着いた鼠色だ。帯を締め直し、廊下を戻る頃には、夕食の支度が整っていたという知らせが入る。
広間には、大きな舟盛りが鎮座していた。
海のない山奥なのに、鮮やかな刺身が氷の上に輝いている。マグロ、鯛、サーモン、イカ、海老——種類も豊富だ。案内してくれたお姉さん格のネコミミ美少女が、耳をひょこっと動かして説明した。
「培養魚ニャ。山でも新鮮な魚が食べられるように、うちで研究してるのニャ」
一番奥の上座には、幼く見えるのに誰よりも気配の重い猫又——二股のしっぽを持つ美少女が座っている。見た目は若いが、この家の祖母にあたる存在だという。その左右や手前に、最初に出会ったネコミミ美少女(孫)、お姉さん、そして母親にあたるネコミミ美少女、親戚の叔母さん美少女、叔母さんの娘である双子の姉妹、さらに遠い親戚らしく猫の仮面をつけた謎の美少女と、その付き添い兼弁護士という美少女が並んでいた。
全員が猫の耳としっぽを持ち、薄い着物や浴衣姿で座っている。華やかで、どこか異質な食卓だった。
「さあ、食べてくださいニャ」
お姉さんに促され、姫はおそるおそる箸を取る。加賀美は警察手帳を懐にしまったまま、自然な所作で刺身を摘んだ。
「これは……本当に培養魚か。味が遜色ない」
加賀美の感想に、お母さんのネコミミが嬉しそうに耳を揺する。
「気に入ってもらえてよかったニャ。祖母様も、珍しいお客様だと喜んでるニャよ」
上座の猫又は、舟盛りの鯛を小さく口に運びながら、金色の瞳で二人を見ていた。箸の運びは上品で、無駄がない。
「タタリを止める気は、本物か?」
「もちろんですでごぜぇやす! この美少女探偵に、お任せを!」
姫が胸を張ると、双子のいとこの片方がくっくと笑い、もう片方が「度胸あるニャ」と囁く。叔母さんが静かに二人を窘めた。
「祖母様の前で粗相は禁物だよ」
仮面の美少女はほとんど喋らない。隣の弁護士美少女が代わりに、丁寧な言葉で「当家の事情に深く立ち入る前に、契約の確認を」などと切り出し、場の空気を少しだけビジネス寄りにする。加賀美がその話に軽く頷く横で、姫は刺身の甘みに驚きつつも、背筋を伸ばして返事をしていた。
食事が進むにつれ、会話の端々に別の影が差す。
「祖母様は、まだお元気そうで何よりです」
そう言ったのは叔母さんだった。笑顔だが、目は笑っていない。お姉さんがすかさず「余計なことを」と遮り、お母さんが「今夜はお客様もいるんだから」と取りなす。猫又本人は、知らん顔でヒラメを口に運んだ。
(莫大な財産があるらしい……でも、余命が短いとも)
そんな噂を、さっき廊下で小さな声で聞いた気がする。姫は緊張で肩が凝るのを感じながら、ごはんを口に運んだ。培養魚の刺身は本当に美味しく、山の家とは思えないほど贅沢な味がする。それでも、座敷に流れる空気は、ただの家族団らんではなかった。
遺産を狙う者がいるのか。いないのか。
猫又の二股のしっぽが、ふわりと揺れる。金色の瞳が、一瞬だけ加賀美と姫を交互に見た。
「腹いっぱい食べたら、早めに休むといい。タタリは——夜更けに来る」
その言葉に、広間が少し静かになった。姫は加賀美の袖をそっと摘まみ、加賀美は短く「わかった」とだけ返した。
舟盛りの氷が、溶ける音を立てる。
猫神の家の夜は、まだ始まったばかりだった。
続く。
コメント
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おお、今回もいい雰囲気でしたね。温泉での姫ちゃんの慌てっぷりとか、加賀美さんの「あまり見るんじゃない」がもう……ツンデレの極みじゃないですか(笑)。それにしても、培養魚の刺身が出てくるあたり、この家の技術力と財力を感じさせるし、猫又の祖母様の存在感もすごい。遺産相続の影やタタリの予告も効いてて、ただの温泉回じゃないのが良いですね。次の“夜更け”が待ち遠しいです!
猫とろ
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ねらち
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