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「めちゃくちゃ良い話じゃないですか!!!!その隣の席だった方は、今は何をされてるんですか?」
「それは…………分からないんだ。卒業式の前にアイツは引っ越した…親の離婚が理由でな。アイツは父親を小学生の頃に事故で亡くして、その後母親は再婚したそうだが…相手は暴虐なクズだったらしい。母親とアイツ、アイツの弟は毎日のようにDVを受けていたそうだ……。俺はそのことを卒業式の日に初めて知った。すげぇ悔しくて、すげぇ不甲斐なかった。アイツに伝えたいこと、返したい恩は数え切れないほど有るのに…俺は無力だった。唯一、志望校だった東京の大学に受かったという報告は聞いていたが………アイツが本当にその大学に行ったのかは分からない」
まるで想起した記憶に付随して唐突に深く刻まれた感情が生彩を取り戻したかのように、七宮先生は四角い眼鏡の奥の切れ長の目を伏せた。
「すまない。こんな話をするつもりじゃ無かったんだがーー」
そんな横顔を見たせいか、つい口走ってしまった。
「それでいいんだと思います」
「…え?」
「後悔してもいいんだと思います。だって、まだ生きてるので」
ーー私は前世にたくさん悔いを残してきた。恋愛も出来なかったし、大人にだってなれなかった。でもー『後悔』はしたことが無い。運だけで生きてきた私にとって、自分の身を顧みずに飛び込むことは決して恐怖心が伴わないわけでは無かったけど、…それでも、誰かが諦めてしまう瞬間を、あと一歩で変わるその瞬間を、どうしても見過ごせなかったから行動してきたんだ。
「なんだって出来ますよ、生きてるうちは。後悔してるなら取り戻すまで、です。……だって、最期は晴れやかに人生を終えたいじゃないですか。私なんて、今世では『悔い』も残してやらないつもりですから!!」
「…ばーか」
「はいっ!?」
「おまえカッコ良すぎ。荒手のギャップだろ、もう」
「こっちは真剣なのに!!」
嘆息するように微笑んで顔を上げた七宮先生と視線が重なる……良かった。その顔はさっきよりも幾分か晴れやかに見える。
「生徒に教わるようじゃあ、俺もまだまだってことだな」
「つまり、未熟者同士ってことですね」
「よく言うよ。まぁ、いくつになっても伸びしろがあるってのは悪い気がしないがな」
独特なざらつきを帯びた低い声が空気に溶け込むのを鈍く捉えつつ私は頭の隅の思考に意識を向けた。
…転生してから今までその意味について深く考えはしなかったけど、こうやって言葉に出してみると、意外と心の根っこで思ってることが理解ったりするんだな。
ー今なら『転生できて良かった』と、確かに思える。
二度目の人生に対する熱情が湧き上がってくるように感じて、自然と頬にかかった髪を掻き上げていた。アプリコットの香りが鼻先を掠める。窓ガラスを這うような蝉の鳴声と無機質な換気扇の音に満ちる教室には、日没が近づく紫空の残照が差し込んでいた。