「ねぇ、僕がさっき言った、『君だから』の意味ってわかってる?」
どう答えれば正解なのかがわからなくて、「えっ…」とまた同じようにくり返す。
「君だからっていうのは、君じゃなきゃってことだから。
……ちゃんと言わないと、そんなこともわからないの?」
言葉を切った天馬が、うるうると潤んだ魅惑的な眼差しで私を見つめる。
「……君じゃなきゃ、ダメなんだよ」
不意にきゅっと握られた手に熱がこもる。
「……君だから、好きなんだよ……」
重ねられる一言一言が胸に沁みて、さっきまで鬱々として冷えていた身体が、嬉しさに包まれてじんわりと温まっていくのを感じた……。
「うん……」
それ以上は、もう何も聞かなくてもいい気がした。
「気持ち…わかったから……ありがとうね、天馬」
「わかったんなら、いいけどね…」
そう素っ気なく返すと、握っていた私の手をすっと離して、飲みかけのグラスからひと息に中身を飲み干した。
熱く迫ったかと思えば、急に冷めたような素振りで、私を振り回して……
彼は、ふわふわとした柔らかな髪に、睫毛の長い栗色の瞳、それにふっくらと薄紅色をした唇が、まるで天使のようで、
けれど一方で人の心を弄ぶ、小悪魔みたいな一面も持ち合わせていた──。
彼のそんな二面性に振り回されれば振り回される程、嫌いになるどころか天馬のことがますます好きでたまらなくなっていくみたいだった。