テラーノベル
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「雨宿りの代償はカラダで」
冷たい雨がスーツを濡らす帰り道。俺ーーないこは、重い足取りでマンションの階段を上っていた。残業続きで頭はぼーっとするし、身体は鉛のように重い。
「はぁ……早く風呂入って寝たい……」
鍵をポケットから取り出そうとしたその時、背後から濡れた衣類の擦れる音と、切羽詰まった声が飛んできた。
「あの! すみません……っ! 急な雨で参ってて……短時間でええんで、雨宿りさせてくれませんか!? お金! お金払うんで!!」
振り返ると、濡れ鼠になった青年がそこに立っていた。前髪から滴る水滴、必死に頭を下げる姿。よく見れば顔立ちも整っているし、何より目がまっすぐで悪い奴には見えない。
「……はあ。お金なんていいですよ、とりあえず上がりなよ。風邪ひくでしょ」
「いや! タダで人んち上がるわけにはいかんので! ちゃんと払います!」
「いいって言ってるのに……頑固だなあ」
部屋に招き入れ、バスタオルを渡しても
「後でクリーニング代も払いますんで!」
と頑なに財布を出そうとする。名前を聞くと「If(いふ)」と名乗った。
「とりあえずお金はいらないから。風邪ひく前に風呂入ってきなよ。服、適当に部屋着貸すからさ」
「……ほんますみません。ありがとうございます、お兄さん」
温かいシャワーを浴びてすっきりしたIfは、俺の大きめなTシャツを着て少し安心した表情を見せていた。俺もサッと風呂を済ませ、リビングに戻る。
「じゃあ、俺もう疲れてるから寝るね。ソファ使っていいから」
「あ、はい。ほんま助かりました」
電気を消し、自分のベッドに横になる。今日起こった奇妙な出来事を思い返しながら目を閉じると、ゆっくりと意識が遠のいていく——はずだった。
ガタッ、とベッド脇の床が鳴る。
「……If?」
うっすらと目を開けた瞬間、視界が急激に回転した。
ドサッ。
「え……っ!?」
気づいた時には、ベッドの上に押し倒されていた。見上げると、先ほどまでの恐縮していた表情は消え去り、暗闇の中でIfの瞳が怪しく光っている。彼の両手が俺の手首をベッドに縫い付け、重い体躯が覆いかぶさる。
「If……? なに、して……」
慌てて身を捩ろうとする俺の耳元に、Ifがゆっくりと顔を近づけてきた。濡れた髪から一滴、水滴が俺の頬に落ちる。
熱を帯びた吐息が耳たぶをくすぐり、低く掠れた声が響いた。
「……さっきから『お金はいらん』って言われましたけど」
Ifの唇が、俺の首筋をなぞるように滑り落ちていく。
「……こーいうサービスも、込みの価格ちゃうんですか?」
「っ……な、に言って……」
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「払わせてくれませんでしたもんね。……なら、体で払うしかないかな思って」
闇の中で彼が浮かべたいタズラっぽい、でもどこか本気の笑みに、俺の心臓が跳ね上がった。
「ちょちょちょ待って!? 身体!? はぁ!?」
パニックになった俺の声が、狭い寝室に虚しく響く。
手首を掴むIfの力は見た目以上に強くて、ビクともしない。社畜生活で衰えた俺の体力じゃ、到底振り払えそうになかった。
「ちょ、お前……! 冗談だろ!? た、助けてやった恩を仇で返す気か!?」
必死で身体を捩りながら抗議すると、上から覆いかぶさるIfが「くふっ」と低く笑った。その振動がダイレクトに肌に伝わってきて、ゾクッと背筋が凍りつく。
「冗談に見えます?」
耳元で囁かれた声は、さっきまでの「丁寧で恐縮していた青年」のものじゃない。完全に男の顔だ。
Ifの空いている方の手が、ゆっくりと俺のTシャツの裾を押し上げていく。冷たい指先が敏感な脇腹に触れると、思わず跳ね上がってしまう。
「っ……ぁ、やめ……!」
「恩を仇で返す? 違いますよ。俺なりのお礼と……『お支払い』です」
指先が上へと這い上がり、胸元に触れるか触れないかのところでピタリと止まった。暗闇の中で見下ろしてくるIfの目が、獰猛な肉食動物みたいに光っている。
「断るなら、本気で逃げてくださいね? ……まぁ、逃がす気はありませんけど」
「待っ、If、タイム! マジでタイム……っ!」
俺の焦りを見透かしたように、Ifは満足気に口元を歪めると、そのままゆっくりと顔を近づけてきた。
「うわっ…やめ」
「んむぐぅ……っ!?」
叫ぼうとした俺の口は、Ifの大きな手に容赦なく塞がれた。
「しー……デカい声出したら、お隣さんに聞こえちゃいますよ?」
耳元でくすくす笑う声が聞こえる。手袋もしていないIfの手のひらからは、さっきお風呂に入ったばかりの石鹸の匂いと、少し高めの熱が伝わってくる。
「んー…っ、!!」
手首を押さえつけられ、口まで塞がれて、俺は完全に詰んだ。必死で首を振って抗議するけれど、Ifはびくともしない。どころか、俺が暴れれば暴れるほど、上からかかる体重が増して逃げ場がなくなっていく。
「そんなに怯えんといてくださいよ。……俺だって、急にこんなことするつもりやなかったんですから」
Ifの視線が、俺の濡れた瞳から、手で塞がれた口元へとゆっくり落ちていく。暗闇の中で、彼の瞳の奥にある熱がどんどん濃くなっていくのが分かって、背筋にゾクゾクと寒気が走った。
「急に部屋に入れてくれて、優しくしてくれて……あげく『お金はいらない』なんて言われたら……」
Ifが顔を近づけてきて、鼻先が触れそうな距離でピタリと止まる。
「つけ込まれても、文句言われへんと思いますけど?」
塞がれた手の下で、Ifの指先が優しく俺の頬を撫でた。その熱さに、心臓がうるさいくらいに跳ね上がる。
「……静かにできます? 手、退けますけど……また叫んだら、次は何で塞ぐか分かりませんよ?」
悪戯っぽく、でも完全に本気の目でそう囁くと、Ifはゆっくりと俺の口から手を離していった。
「……できる」
消え入りそうな声で答えると、Ifは満足そうに口元をゆるめた。ゆっくりと手が離され、口元に夜の冷たい空気と、彼の手の残像みたいな熱が残る。
「……いい判断です」
そう言って、Ifは俺の両手首を片手で軽々とまとめて頭の上に押さえつけた。空いたもう片方の手が、俺の頬を撫で、首筋へ、そして胸元へとゆっくり滑り降りてくる。
「っ……ぁ、ん……」
布越しに伝わる指先の体温と、どこか慣れた手つきに、全身の力が抜けていく。社畜で疲れ切った頭はすっかりキャパオーバーで、まともな思考がまとまらない。
「逃げるなら今のうちですよ? ……って言いたいところやけど、もう体、力入らんくなってません?」
「っ、お前……っ、なんなの、マジで……!」
「ただの、雨宿りさせてもらった男ですよ」
耳元に唇を寄せたIfが、低い声でくすりと笑う。吐息が耳孔をくすぐって、思わず肩を跳ね上げた。
「さっき『お金はいらん』って言った責任、ちゃんと取ってもらいますからね」
次の瞬間、首筋にチクッとした強い痛みが走った。
「っ痛……!? If、噛むな……っ!」
「無理です。痕、残さな……逃げられちゃいますから」
吸い上げるような熱い感触が首筋に広がり、俺はベッドのシーツを強く握りしめることしかできなかった。
「ぁあやっぱお金いる! お金払って! 身体でのお支払いは不可です!!」
首筋に走る熱い痛みに耐えかねて、俺は叫ぶようにまくしたてた。背に腹は代えられない。さっきまでのプライドも社畜の意地も全部捨てて、必死にIfを見上げる。
「今からでも請求書書くから! 1泊1万円! いや、10万円でいい!! だから身体はお断り!!」
勢いよく言い放った俺に、Ifの動きがピタリと止まった。
首筋からゆっくりと顔を上げたIfは、一瞬だけ呆けたような顔をした後——ふっと目元を崩して、お腹を抱えるように笑い出した。
「ふっ……あははは! 10万!? 急にめちゃくちゃ足元見てくるやん!」
頭の上で押さえつけられていた腕の力がフッと緩む。その隙を見逃さず、俺はIfの胸を力任せに押し返して、ズルズルとベッドの壁際まで後退した。
「ハァ……ハァ……! 当たり前だろ! 男に襲われかけたんだぞ!? 慰謝料込みで10万だ!!」
乱れた服を整えながら必死に威嚇する俺を見て、Ifはベッドの上に座り直すと、楽しそうに肩を揺らした。さっきまでの肉食動物みたいな危険な空気はどこへやら、そこにはどこか呆れたような、でもやっぱり妖しい笑みを浮かべた青年がいた。
「いやぁ、残念やな。『現金不可、現物支給のみ』の規約で合意したと思ってたのに」
「そんな規約結んでねぇよ!!」
「でも……ほんまに払わんでええんですか?現金じゃなくても俺、いいサービスできますよ?」
そう言ってIfは、ベッドの上でひざ膝立ちになると、再びゆっくりと俺との距離を詰めてくる。暗闇の中でニヤリと笑う顔が、完全に俺を面白がっていた。
「っ……寄るな! 警察呼ぶぞ!」
「呼んでもええですけど……お巡りさん来るまでに、お支払い完了しちゃいますよ?」
「……っ」
頭の中で、通報して警察が駆けつけてきた時の惨状を想像してしまった。
ドアを破って入ってきた警察官の前で、見知らぬ男にベッドの上で抱きすくめられている自分。
「あ、あの、襲われてて……!」なんて言ったところで、服は乱れ、首筋には痕までつけられている。どこからどう見ても言い逃れできない状況が完成しているじゃないか。
(だめだ……通報したら、いろいろ終わる……!)
俺が想像に絶望して絶句していると、Ifはその変化を見逃さなかった。
「ふふ、頭の中でいろいろ想像しちゃいました?」
察しのいい悪魔みたいな笑みを浮かべ、Ifは逃げ場を塞ぐように俺の左右に手を突いた。壁と彼に挟まれ、完全に袋のネズミだ。
「警察呼んだら、余計ややこしいことになりますもんね。賢い判断です」
耳元でくすくす笑う声。指先が俺の顎をつまみ、上を向かせる。逃げようとしても、視線が嫌でも交わってしまう。
「さ、諦めて観念してください。……社畜さん、毎日お仕事頑張って疲れてるんでしょ?」
Ifのもう片方の手が、俺の乱れた前髪を優しく払った。さっきまでの強引さとは一転して、今度は甘く、溶かすような手つきで頬を撫でてくる。
「俺が、とびきり気持ちええことして、疲れ全部吹き飛ばしてあげますから……」
そのまま、彼の顔がゆっくりと降ってきた。逃げ場のない距離で、息が重なる。
「いやいやいや……!? お前、言い方!! 疲れ吹き飛ばす方向性が完全に間違ってるから!!」
目の前に迫る顔を、俺は必死で手で押し返した。手のひらに伝わるIfの鼻先と唇の感触に、心臓が爆発しそうなくらい跳ね上がる。
「だ、大体お前、雨宿りさせてくれた命の恩人に対して『とびきり気持ちええこと』って正気か!? 恩を返すどころかトラウマ植え付ける気か!?」
押し返されたIfは、俺の手の隙間から「くふっ」と可笑しそうに目を細めた。
「トラウマなんてひどいなぁ。極上のリラクゼーションのつもりなんですけど」
「そんな怪しいリラクゼーション頼んでねぇよ!!」
「でも、社畜さん……身体、めちゃくちゃ強張ってますよ? ほら、ここも……」
そう言ってIfは、空いている方の手で俺の腰骨のあたりをキュッと強く揉んだ。
「っあ……ぁ、!?」
一番弱いところを突かれて変な声が出た俺は、一瞬でガクッと全身の力が抜けてベッドに沈み込んでしまった。押し返していた手から力が抜け、Ifの胸元にポロリと落ちる。
「……ふふ、素直でかわいい」
勝機を逃さない悪魔は、すかさず俺の両手首を頭の上に押し戻し、完全に覆いかぶさってきた。重なった身体から伝わる熱と、耳元に吹きかけられる熱い吐息。
「もういいでしょう?……観念して、俺に甘やかされてください」
今度こそ逃げ場をなくされた俺の視界を、Ifの影がゆっくりと覆い尽くしていった。
R18読みたい方いますか…?
コメント
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うわああああ第1話から既にカオスすぎる!!😭💕 ないこさん優しすぎて草、でもIfくんの「お金いらん言うたやん→身体で払う」理論が強引すぎて笑うしかないwww 「10万円で許して!」って叫ぶないこさんに本気で吹いたし、最後のリラクゼーション発言も含めて、エロとギャグのバランスが天才すぎるよ…!続きが気になりすぎて夜しか寝れん😇💖