「ただいま〜」
呑気な声が玄関から聴こえた。
本当は玄関に行きたいけど、俺は今、火を使っているので動けない。
その代わり、大きな声で応答する。
「おかえり!!!」
すると、小さな笑い声が聴こえた。
なにが面白い。
しばらくして、ドアからひょっこりと顔を出したのは、目黒蓮。
「ただいま、阿部ちゃん。」
まるで、俺がここにいることが奇跡かのような顔で言う。
そんな顔、俺にはできない。
「おかえり、めめ。」
ほっぺを無理矢理引き上げて笑顔らしきものを作る。
きっと、歪な笑顔だろう。
鏡で何度も何度も見た顔は、歪な笑顔だった。
すると、彼は俺に近寄る。
「いい匂い。カレー?」
「うん。あとちょっとでできるよ。」
彼は、俺の作るものならなんでも美味しいと言って食べてくれる。
そんな、本当か分からないものを口にされたって、安心できるはずがない。
俺は、ソファーに行き、テレビをつける。
隣には当然のように座るめめ。
映ったのはニュース。
中継中で、アナウンサーは風と雨が強いところにいた。
どうやら、台風が上陸した地域にいるらしい。
「アナウンサーさんも大変だね。」
「そうだね。」
これだけで、俺らの会話は終わる。
前は、もっと色んなことを話していたはずなのに、できない。
どうしてだろう。
カレーが出来上がる時間になった。
キッチンに行き、皿を出し、盛りつけをする。
めめは箸を出したり、盛りつけ終えた皿を運んだりしてくれている。
手を合わせ、食べ始める。
「美味しい」
幸せそうな顔をして食べるめめ。
それに比べて、俺はきっと死にそうな顔をしている。
どうしても、できないのだ。
なにもかも、できない。
俺には、何もできない。
彼を、好きになることも、幸せそうな”フリ”をすることも。
いつまでも、過去の人に囚われ続けている。
そんな俺を、めめは許してくれている。
そんな優しい彼に甘えるばかり。
“好き”も”愛してる”も”目黒蓮の恋人”と言えないまま、きっと、死ぬんだろう。
めめと、彼を…ふっかを重ねてしまう。
もう、いないふっか。
綺麗な最期を迎えたふっか。
ふっかがいないのなら、いる意味などないのに。
めめが、俺をここに残らせる。
めめは、分かっているのだろうか。
いや、もうずっと前に気付いているだろう。
ごめん。
いつかは、めめに言いたいな。
“好き”も”愛してる”も”めめの恋人”も言えなくて、ごめんって。
言えたらいいな…
コメント
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ずっと投稿なくてごめんなさい! 久しぶりの投稿が何これ展開なんですけど、許して下さい🙏 一応、解説載せておきます。