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「……ったく、下僕の道案内が下手なせいで遠回りさせられる羽目になった。今度からその頭にこの辺の地図を叩き込んどけ」


 マンションの駐車場に綺麗に車を停めて、白極はくごくさんはそう言うと運転席のドアを開けて外へと出る。必ず文句を言ってから、自分だけスッキリしていくのが彼らしい。

 ……結局、なんだかんだと理由を付けて白極さんは車のナビを付けはしなかった。

 自分の住んでいたアパートの近くならまだ分かるが、この辺りに来る時は電車しか使わない。ナビも無しにここまで私に道案内しろと言う方が無理があるのだ。


「本当にムカつく、あの暴君は」


 白極さんが離れた場所でスマホで通話を始めたのを忌々し気に見つめながら文句を言う。こんなお高そうなナビがあるのに地図を暗記しろなんて、お金と私の記憶力の無駄遣いだ。

 ブツブツと文句を言いながら助手席のドアを開けると、白極さんの姿はそこにはなく……


「自由な人だわ……まあ、いいか」


 そう思って後部座席から荷物を出し終えて運び出そうとすると、またも私の手から荷物が奪われる。


「これは私達に任せてください」


 てっきり白極さんだと思って荷物を渡そうとした相手は、眼鏡をかけた知らない男性。え? 誰です、この人? 誰かさんとは大違いの優しい笑みに思わず笑って返してしまうと……


「何デレデレした顔してんだ、下僕。お前が永美ながみに見惚れるなんて千年早い」


 優しそうな眼鏡の男性の後ろから顔を出して私を馬鹿にする白極はくごくさん、鬱陶しい事この上ない。というか、この人は白極さんのお知り合い?


「あの、貴方は……?」


 後ろの幼稚な男は無視して、私の荷物を持ってくれた永美ながみという男性にだけ話しかける。だってこの人の方が断然話が通じそうなんだもの。


「初めまして、三ノ宮さんのみや 凪弦なつるさん。私は樹生たつき様のお仕事の手伝いをさせて頂いている永美と申します」

「そうですか、白極さんの仕事の……んん?」


 その言葉に私は首を傾げる、それって今日から私がする仕事と同じじゃない? 永美さんが白極さんの仕事の手伝いをしているのなら私は必要なくないですか?


「それって永美さんは白極さんの秘書って事ですよね?」

「いいえ、私は樹生様の実家から遣わされている執事ですので」


 ……んん? 永美さんは今なんて。遣わされている執事とか言いませんでした? それって白極さんの実家が執事喫茶を経営してる、とかいうオチではありませんよね?


「ああっ⁉ 余計な事は話さない約束だろうが、永美!」


 今度は少し怒った様子の白極さんが私と永美さんの間に割り込んだ。どうやらこの話は白極さんにとって都合の悪いものらしい。

 もしかして、本当に白極さんの実家って何かあったりします?


 今の永美ながみさんからの情報をまとめると、ちょっと信じられないような話になりそうな気がしたからさっさと頭の片隅へと追いやる。世の中には知らない方が良い事も沢山あるのだと、私も思うから。

 私の荷物は白極はくごくさんと永美さんによって奪われ、残されたのはやっぱりゴミ袋。そんなに私にはゴミ袋が似合うと言いたいのか?それを持って車のドアを閉めると彼らの後をついて行く。


凪弦なつるは、先に上がって冷たいお茶でも用意してろ」


 白極さんと永美さんはエントランスでコンシェルジェと話し始めると、私に部屋の鍵を放り投げる。荷物が気になりつつも、反抗すると面倒なので私は先にエレベーターで部屋へと向かう。

 部屋に入り手洗いを済ませ、キッチンへ。大きな冷蔵庫を開けて中に入っているのがビールと飲み物だけなのが白極さんらしい。あの人は予想を裏切らないな。

 中からお茶のペットボトルを取り出すと、棚の中からグラスを三つ選んで綺麗に洗った。


「……ここ、凪弦の部屋にするつもりだから」

「ええっ、ここをですか? 大丈夫なんですか樹生たつき様」


 二人の話声が聞こえて、そちらに向かうと彼らは奥から二つ目の部屋の中へと段ボールを運んでいた。大丈夫って、いったい何の話だろう?

 不思議に思って部屋を覗くと、特に変わった所はない普通の部屋だ。中にもう一つ扉があるのがちょっと気になるけれど、クローゼットかな?


「あのー、この部屋何かまずい事でもあるんですか?」


 白極はくごくさんに聞けば、多分私を揶揄って遊ぶか、うまく誤魔化して有耶無耶にする気がする。だから私はあえて永美ながみさんの方に聞いてみた。雰囲気的に永美さんの方がまだ信用できるから。


「おい、何で俺の家なのに永美に聞くんだ?」


 ゴチャゴチャと煩い白極さんはとりあえず無視して、荷物を持ったままの永美さんを見つめてみる。


「……凪弦なつる様は霊感は強い方ですか?」

「はい? 霊感、ですか。いえ、お化けとか見たことは無いですね」


 そんな事を永美さんが聞いて来るという事は、つまり?


「この部屋、出るらしいんです。深夜になると大きな人影が見えたり、唸るような声が聞こえると」


 へえ? つまりこの素敵なお部屋には今は見えないどなたか様が既に住まわれているという事なんですね。それは先に聞いててよかった。私は二人ににっこり微笑んで……


「分かりました、今すぐ他の部屋に変えてください」

「はあ⁉ お前、さっき霊感は無いって言ったじゃねえか!」


 いやはや、冗談じゃない。そう思って私は部屋のチェンジを申し出たのだが、白極さんは納得いかないらしい。

 だってこの家、たくさん部屋あるでしょう? わざわざ心霊現象の起こるような部屋で、気の休まらない時間を過ごしたいわけがない。

 そんなのは白極さんの面倒を見なければいけない勤務中だけで充分だと思うのよ。



暴君社長と私のほろ苦・蜜恋同棲

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