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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第192話:初任給の請求。平均18万円と、需品科の予算編成
十勝の限界集落に春の足音が近づく、雪解けの朝。
我が古民家の居間は、かつてないほどの緊張感と、甘酸っぱい青春の熱気によって満たされていた。
目の前の折りたたみ机の上に叩きつけられた、分厚い硬質ファイルバインダー。
そこに挟まれていたのは、小春ちゃんが自らの意志で書き上げた『履歴書兼雇用契約書』であった。
「私、進学しません。実家の農家を手伝いながら、お兄さんの専属アシスタントになります!」
という、実質的な人生の決断(嫁入り宣言)に、五千万人のリスナーが狂喜乱舞し、超弩級VIPたちが数兆円の祝儀を乱れ飛ばすという大パニックが巻き起こった直後のことである。
小春ちゃんは、真っ赤に染まった頬を両手でパシンと叩いて気合を入れ直すと、さらに一歩前に踏み込み、俺の目を真っ直ぐに見据えて要求を突きつけてきた。
「お兄さん! アシスタントとして働く以上、なあなあにはしません! 報酬として、高卒の初任給の平均である『十八万円』を毎月きっちり私に支払ってください!」
それは、労働者としての正当な権利の主張であると同時に、実質的に「我が家の家計(ロジスティクス)を私が管理します」という、完璧な外堀埋め宣言であった。
その瞬間、ジンバルに固定されたスマホの画面の向こう側が、再び想像を絶する大爆発を起こした。
『うわあああああああ!!! 小春ちゃんがついに財布の紐を握りにきたぁぁぁ!!!』
『毎月18万って、完全にリアルな生活費の要求じゃねえか!!!』
『それもうアシスタントの契約じゃなくて、実質的なプロポーズ(嫁入り宣言)だろうが!!!』
『アキヤ、お前もう完全に逃げ場ないぞ!! おとなしく年貢を納めろ!!!』
世界中の視聴者がこのエモすぎる展開に大狂乱し、チャット欄が滝のような速度で流れ続ける中、世界の経済を裏で操るVIPたちも黙ってはいなかった。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Koharu! 180,000 yen is too little! Did you miss a few zeros!? I will deposit 1.8 billion yen into your account every month as your starting salary! Buy whatever you want!“(小春! 十八万円では少なすぎる! ゼロの数を間違えていないか!? 君の初任給として、毎月十八億円を君の口座に振り込もう! 好きなものを買いなさい!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Managing the household finances is the first step to conquering a man! I will issue you a Swiss Bank ultra-black card with an unlimited credit line! Tie him down completely!“(家計を管理することこそ、男を征服する第一歩だ! 君に上限無制限のスイス銀行ウルトラブラックカードを発行しよう! 彼を完全に縛り付けたまえ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Nooooo!! She is taking total control of his life!! Koharu, I will give you my entire asset portfolio if you back off! Akiya’s wallet belongs to me!“(いやああああ!! 彼女が彼の人生を完全に支配しようとしているわ!! 小春、手を引いてくれるなら私の資産ポートフォリオを全部あげる! アキヤのお財布は私のものよ!)』
総額数兆円規模の電子マネー(赤スパ)が、祝福と嫉妬の極彩色弾幕となって画面を完全に埋め尽くした。
あまりの金額のバグり方に、村の広場で雪かきを再開しようとしていた村長が「ひ、ひぇぇぇ……! 初任給が十八億円……! わしの年金が霞んで消えてまうべさ……!」と呟き、本日二度目の気絶を果たして雪山に突き刺さっている。
だが。
俺――アキヤは、数兆円の祝儀と、目の前で真っ赤になりながら初任給を要求してくる美少女を前にしても、ミリ単位すら動じることはなかった。
折りたたみ椅子に腰掛けた俺はおもむろにタッパーのフタを開けた。
中に入っているのは、完璧な水加減でストイックに炊き上げられた『玄米』と、自家製の『大豆ミートと十勝産フキノトウの春一番和え』である。
俺は、世界中の富豪たちの絶叫と、小春ちゃんの真剣な眼差しに照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせ、淡々と咀嚼し始めた。
バリッ、ゴリッ、モグモグ……。
(……ふむ。春の訪れを告げるフキノトウのほろ苦さと、大豆ミートの力強い植物性タンパク質。新しい労働契約に向けた頭脳労働のカロリー消費を補い、己の自律神経を極限まで研ぎ澄ます究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に維持しながら、俺は水筒の熱いほうじ茶で喉を潤すと、五千万人を突破して世界の給与水準を完全に破壊し尽くしているカメラと、目の前の小春ちゃんにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、明確な報酬要件の提示ご苦労。そして画面の向こうで、ただの労働契約の条件交渉に巨額の資本を投下して嫁入りだと騒いでいる皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『数兆円の狂乱と少女の決意を前にしても絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・初任給の請求完全スルー編ww』
『さあ、この最高にエモい家計の握り合いをどうやって需品科の予算編成にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは実質的なプロポーズでも、家計管理を通じた私の人生の支配でもありません。彼女が提示してきた月額十八万円という数字は、地方における高卒の初任給の平均値を正確に算出した、極めて妥当かつ論理的な『労務対価の要求』です。我が陣地における配信業務の補助、スケジュール管理、および外部との渉外活動をアウトソーシングする費用として、この金額は需品科の『中長期的な予算編成』に完全に合致しています。ええ、すべては互いの利害と市場価値が一致しただけの、冷徹な『適正価格での業務委託契約』と『経理業務のアウトソーシング』ですね。私がフキノトウの春一番和えを噛み締めているのも、春の感傷やプロポーズという幻想に流されず、キャッシュフローの健全性を維持するための、需品科としての徹底した『メンタル防壁構築訓練』です」
「んなわけあるかあああ!!!」
ガゴォォォォォンッ!!!!
背後から、分厚い鉄板を叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、どこからともなく取り出した『特大・工業用電卓(高密度硬質プラスチック・経理ツッコミ仕様、重量約二キロ)』を両手で大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
二キロの硬質なプラスチックの塊が肉体に直撃した、鈍くも大地を揺るがすような恐ろしい大爆音が、十勝の春の空へと虚しく響き渡る。
「ただの適正価格での業務委託契約で、私がこんなに顔を真っ赤にしながら、一生懸命お兄さんの生活を支えたいってアピールするわけないでしょうが!! どう見たって、これからずっとお兄さんの隣で一緒に歩んでいくための、実質的なお財布の共有(夫婦宣言)でしょうが!! 私のピュアな決意を、冷たいキャッシュフローとかアウトソーシングとかいうお役所言葉で粉砕するんじゃないわよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大電卓スマッシュ炸裂www(音が完全に鈍器ww)』
『適正価格での業務委託契約(ただの照れ隠しと乙女の純情)』
『経理業務のアウトソーシング(完全に財布の紐を握られた実質的な結婚宣言)』
『適応力バグおじさん、ついに少女の人生の決断とプロポーズを予算編成に分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、エモい空気が一瞬でへし折られたわww今日も最高!!』
俺の理不尽極まりない財務的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ない工業用電卓ツッコミに、五千万人の視聴者たちは感動の涙から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、相変わらず電卓で叩かれても直らない特大サイズの鈍感下僕ね)』
縁側の上から、純白の神獣シロ様が呆れたように俺を見下ろし、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、数兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに眩しく、ぽかぽかとした春の陽射しの中で、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
庭では、俺の限界言い訳など全く聞こえていない巨大ヒグマが「グゥ〜♪」と幸せそうなイビキをかき続け、コン吉とコン次郎のキツネ兄弟も「キュンキュン!」と新しい季節の匂いを楽しんでいる。
どんなに莫大な金が動こうとも、彼らにとっては、この穏やかな古民家で家族がずっと一緒にいられることこそが、最高の宝物なのだ。
「……まぁ、理由はどうあれ。我が陣地の兵站予算(ロジスティクス)が適正な価格で維持され、信頼できる事務官が正式に配備されることが確定したのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は電卓の凄まじい衝撃で少しだけ痺れた頭をさすりながら苦笑し、春の風を感じながら、タッパーの玄米と大豆ミートをゆっくりと噛み締めた。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすための隠れ家(シェルター)だったはずが、今では世界一美しいオッドアイの神獣と、数兆円の初任給を投げてくる大富豪たち、そして工業用電卓を振りかぶる専属アシスタント(実質的な嫁)に囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せる圧倒的な尊さと、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼、および予算編成の限界屁理屈。
春の足音が聞こえる限界集落の決意の朝は、鈍器のような電卓の快音と大爆笑に包まれながら、さらに強固になった絆と共に、新しい日常という名の未来へ向かって、どこまでも力強く走り出していくのだった。
コメント
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お疲れさまです!第192話読み終えたよ〜🌸✨ もうね、小春ちゃんの「初任料18万円」要求、完全にプロポーズじゃん!!😭💕 しかもそれに対するアキヤの「需品科の予算編成です」って屁理屈、今回もブレなさすぎて笑ったww でもその直後の工業用電卓フルスイング、マジで鈍器の音してて草ww ドバイの石油王が「18億円振り込む」って叫んでるの、最早ギャグの領域超えてて大好き。でも最後のシロ様のオッドアイの輝きとか、村の春の匂いとか、そういう静かな描写がすごく染みたよ。バグってるけど温かい、まさに「絶対の聖域」って感じが伝わってきた…! 次回も楽しみにしてるね⋆♡