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寒さ深まりゆく十二月――年末に向けて十一月よりも慌ただしさは増し、僕らの集まりはより悪くなっていった。


もはや部室に行くこともなくなり、放課後は学校で真帆と分かれて帰宅。そのまま自分の部屋にこもって(ダラダラと身の入らない)勉強に励む毎日が続いていた。


そんななか、クリスマスも間近になってきた十二月二十二日の木曜日。


ホウキに乗って帰る真帆を屋上で見送り、さて僕も家に帰ろうかと階段を降りていると、鐘撞さんとその友人である井(わかし)美幸さんがふたり並んで廊下を歩いていた。


「あ、シモハライ先輩」

「こんにちは、先輩」


鐘撞さんと井さんが、立ち止まって僕に小さく会釈する。


そう言えば、このふたりが並んで歩いているのをしばらく見ていなかったような気がする。


「ふたりも今から帰るの?」


はい、と鐘撞さんは頷いて、

「すみません、最近部活に行けてなくて」


「いいよいいよ、僕も今月に入ってから一度も行ってないし。真帆もそうだけど、なんだかみんな忙しいみたい。かくいう僕だって来月には入試試験が控えてるから、しかたないっちゃしかたないんだけどね」


答えれば、井さんもこくりと頷き、

「まぁ、そもそも他の部活だと、三年生はだいたい引退しちゃってますし、そんなものかもしれませんね」


「確かに、そうだね」

それから僕は改めて鐘撞さんに顔を向けて、

「僕らが居なくなったら、鐘撞さんはどうするの? 肥田木さんと、あの魔法研究部を続けていくつもり? そもそも真帆が趣味で立ち上げたような部活だし、ふたりだけでやっていくのも難しいなら、このまま解散しても良いんじゃないかって僕は内心思ってるんだけど……」


「それなんですけど」と鐘撞さんは井さんに顔を向け、「ユキも魔法研究部に入るって言ってくれてます。だから、先輩たちが居なくなっても、三人で細々やっていこうかなって、肥田木さんとも話をしていたんですよ」


「え、そうなの? 井さんが? 魔法研究部に?」


井さんはこくりと頷いて、

「……色々ありましたけど、そうしてみようかなって。わたしに魔法の才能なんて全くないのはわかってるんですけど、それでもアオイと一緒にやっていけたらなって」


「へぇ、いいんじゃないかな。もしかしたらまた全魔協の計らいで、新しい魔法使いの新入生が入ってくるかもしれないしね。そうしたら、またその子に入部してもらって、新しいメンツで賑やかにやっていけばいいんじゃないかな」


「はい、そう思ってます。せっかく真帆先輩が創った魔法で遊ぶための部活なんですから、わたしも真帆先輩までとは言わなくても、もう少し魔法に関わっていけたらなって思います」


「……もしかして、鐘撞さんも全魔協に入るつもり?」


もしそうだとしたら、鐘撞さんのおばあさんが激怒しそうだけれども。


すると鐘撞さんは首を横に振って、

「いえいえ、そんなことしませんよ。そんなの、おばあちゃんになんて言われちゃうか。お小言だけじゃすまないです。それに、わたしはうちが魔法が使える家系ってだけで良いと思ってます。これから先、この考えが変わるかもしれないですけど、少なくとも、今のところは」


乙守先生には、再三勧誘されてますけどね、と鐘撞さんは最後に苦笑したのだった。


それからふたりと分かれ、脱靴場で靴を履き替えていると、

「おう、シモハライ、ちょっといいか?」

廊下をふらふらやってきた井口先生に引き留められた。


「あぁ、井口先生。なんです? どうかしましたか?」


「大学入試の勉強、頑張ってるか?」


「まぁ、一応、なんせ年明けたらすぐなんで」


「ま、そうだよな。いいことだ」


うんうん頷く井口先生。


いったい何が言いたいのだろうか。


「……その確認だけですか?」


「あぁ、いや、違う違う。会長から言伝だ」


「乙守先生から? 直接言えばいいのに、いつも保健室に居るんだから」


脱靴場から校舎内を覗き込めば、すぐ目の前に職員室があって、その隣が校長室、放送室、そして保健室と並んでいる。その距離、だいたい十メートルちょいくらい。歩いても数十秒とかからない距離である。それに、呼び出してくれたら普通に行くのに。


「いや、今日からしばらく居ないんだ。年末年始で、この一年間に溜まりに溜まった仕事を片付けるために、会長は全魔協の本部に戻ってる。溜まりに溜まったっていうか、あの人が自分で片付けてこなかった仕事だけどな。自業自得だ。この俺を一年間振り回してくれたツケだな!」

ふっふっふ、と不敵な笑みを浮かべる井口先生。なんかだいぶ不満がたまっていたらしい。

「ま、だからこそ、この俺がメッセンジャーを仰せつかったわけだ」


「で、そのメッセージとは?」


ふむ、と井口先生はひとつ頷き、

「――クリスマス、頑張って!」

乙守先生の声真似をして、ぐっと親指を立ててみせる。


……いったい何がしたいんだ。


「どういう意味?」


「どういうも何も、お前と楸、クリスマスくらいデートするだろ」


「……まぁ、クリスマスだけは絶対にデートしますからね! って真帆も意気込んでますけど」


「そういうことだよ」


「はい? 何をどう頑張れって?」


「知らん。俺はそう伝えるようにしか聞いてない。しかも、絶対に言いなさいって」


「なんすか、それ」


僕は思わず眉間に皴を寄せてしまう。


そんな僕に、井口先生はふんと口元に笑みを浮かべて、

「んじゃ、俺はちゃんと伝えたからな。頑張れよ、シモハライ!」

はっはっは、と声高らかに笑いながら背中越しに手を振りつつ、職員室へと戻っていった。


僕はそんな井口先生を見送りながら、

「……なんだよ、いったい」

ただ口を尖らせるばかりだった。

魔女と魔法使いの少女たち

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