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「ええいっ!邪魔くさい!早くあのエルフを引き摺り降ろせ!」
「矢を放て!」
度重なる狙撃に苛立った『血塗られた戦旗』の部隊は、弓による反撃を開始した。
屋根の上に陣取るマーサとユグルドではあるが、百人を越える数を相手にするのは至難の業だった。
「マーサ!伏せろ!」
「くっ!反撃してきたわね!」
数十の矢が飛来して遮蔽物に身を隠した二人の周囲に突き刺さる。
「弓隊はそのまま射撃しろ!後は屋根に上がれ!奴等を逃がすなよ!」
弓を持つ団員達がマーサ達に絶え間なく矢を放ち、それ以外の団員は剣や槍を片手に家屋に入ったり壁を登り屋根を目指す。
「これではじり貧だ!別の建物に移るぞ!」
「ええっ!まだまだ時間を稼がないと!先に行くわよ!」
マーサは矢の降り注ぐ中、機を見て一気に駆け出し、隣の家屋の屋根へと飛び移る。
そこには既に三人の『血塗られた戦旗』のメンバーが陣取っていたが。
「飛んだ!?」
「邪魔よ!」
「げっ!?」
飛び移った勢いのまま一人を蹴飛ばして屋根から突き飛ばす。
「このアマァ!ぎゃっ!?」
一人はマーサに飛び掛かろうとするが、素早く矢をつがえたマーサに至近距離から頭を射抜かれ、そのまま転落する。
「ひぃっ!?げべっ!?」
残る一人は怯み、そして同じく飛び移ってきたユグルドに真後ろから矢で射抜かれ、口から矢尻が飛び出したまま転落する。
「マーサ!」
「もう少し移動するわよ!ここじゃ、囲まれたままだわ!」
そう答えるとマーサは素早く矢を射かけて、今まさに二人を狙っていた弓兵の一人を射抜く。
「逃がすなぁあっ!」
「荷馬車はどうするんだ!?」
「放っておけ!目標はあのエルフなんだからなぁ!」
「ふざけんな!荷馬車にもお宝が山ほどあるはすだ!俺はそっちを取りに行かせて貰う!」
ここで『血塗られた戦旗』は統率を欠いた。所詮は下部組織の集まりであり、幹部なども参加していないため指揮系統がバラバラになったのである。
このため一部は荷馬車隊を追いかけるように移動を始める。
「不味いぞマーサ!一部が荷馬車へ向かった!」
それを観察していたユグルドが叫ぶ。
「はぁ!?私が狙いじゃないの!?」
マーサも立ち止まる。
「どうする!?」
「ーっ!今私たちが合流したら、百人くらい追加されることになるわ!幸運を祈るしか!」
「そうだな……彼らの幸運を祈ろう」
荷馬車隊は市街地を抜けてラドン平原の街道に出たが、そこで分離した襲撃者達に追い付かれる。
「ぎゃあああっ!」
「振り向くなぁ!もう少しだ!もう少し堪えるんだぁ!」
荷馬車隊の最後尾を進む荷馬車数台は追手に追い付かれて、無惨に虐殺され荷馬車を燃やされていく。
「ぎゃははははっ!逃げられると思ってるのかぁ!?皆殺しにしろ!それと荷馬車を燃やすな!戦利品が無くなっちまうだろうが!」
彼らを追撃する襲撃者は凡そ三十人。逃亡者達は既に十人を越える犠牲者を出して、必死に逃げていた。
だが人などを満載にした荷馬車は遅く、馬車を牽く馬も年老いたものばかりで速度は出ず、時間と共に犠牲者は増え続けていた。
「ぎゃははははっ!怖いか!?怖いかぁ!?やり返してみろよ!このままじゃ皆殺しだぜぇ!?」
「ではやり返しますね?」
戦場に鈴のような可愛らしい声が響く。
「……えっ?」
「撃てーーーーっ!!!」
ズダダダダダァアンッ!!!っとすさまじい銃声が響き渡り、馬に乗った襲撃者達が次々と身体や馬を撃ち抜かれて落馬していく。
「第二射!よーーいっ!撃てーーーーっ!!!」
荷馬車の進路上に二列横隊で布陣した『暁』戦闘員が一斉射撃を繰り返す。その度に襲撃者達は次々と撃ち抜かれて数を減らしていく。
「なんだ!?なにが起きた!?なんで俺たちが!?」
「撃てーーーーっ!!!」
ズダダダダダァアンッ!っと、三度目の銃声が響き渡り、襲撃者三十人はなにが起きたのか分からずに命を落とす。
「撃ち方やめーっ!」
「お嬢、死体を調べてくる」
「任せました、ベル。本店の皆さん!遅くなりました!」
荷馬車隊を救ったのは、百人の部隊を率いたシャーリィとベルモンドだった。
「シャーリィちゃん!?」
「ありがとう!ありがとう!」
逃亡者達は見知ったシャーリィの姿を見て安堵の涙を流す。
「ごめんなさい、遅れました。もう大丈夫ですよ」
シャーリィは荷馬車隊に駆け寄り、声を掛けて回る。だが、その中に馴染みのエルフ二人の姿がなく、首をかしげた。
「……?すみません、マーサさんとユグルドさんはどちらに?」
「会長とユグルドさんは、俺達を逃がすために残って戦ってるっ!」
「シャーリィちゃん!会長達を助けてあげて!」
「なんですって?分かりました。ですが、まずは皆さんです。第三、第四小隊を付けます。このまま『黄昏』に向かってください。怪我人の手当てもそちらで」
「ありがとうっ!ありがとうっ!」
次にシャーリィは焼け焦げた馬車や追い付かれた逃亡者達の遺体に目を向ける。
誰もが本店勤務の職員であり、シャーリィとしても顔見知りばかりだった。深い悲しみを感じながら、静かに祈りを捧げる。
「……ごめんなさい、もう少し早ければ皆さんは……。第五小隊、彼らの搬送を。『黄昏』で弔ってあげましょう」
「はっ!」
「お嬢、こいつらはどうする?放っておくか?」
ベルモンドが襲撃者三十人の死体を指しながら問い掛ける。
「生存者は?」
「死にかけが二人居たが、始末したよ。こいつら『血塗られた戦旗』の下っ端だ」
赤く染まったナイフを見せながら答えるベルモンド。
「第六小隊、遺体の始末を」
「弔ってやるのか?優しいな」
「違います。死体を放置していては、魔物が群がります。なにより病気が蔓延する原因になりますからね。適当に埋めて、聖水をぶっかけなさい。そうすれば、アンデッドにもならないでしょう」
「ははっ!」
「残る全員は速やかに移動します!マーサさんとユグルドさんを助けますよ!」
「お嬢、こいつらを使おう。良い馬だからな」
ベルモンドが生き残った馬数頭を落ち着かせて連れてくる。
「私、馬術は得意ではありませんけど……わっ!?」
「大丈夫、俺が連れていくさ。下士官は騎乗しろ!」
ベルモンドが小柄なシャーリィを抱えて馬に跨がり、下士官達も馬に跨がる。
「ベル、びっくりしました」
「悪い悪い。さあ、号令を」
「もう……これよりマーサさん達を救出します!総員駆け足!」
「おおおおーーっ!!」
部隊の半分を残して五十名からなる救出部隊を率いて、シャーリィ達は市街地へと足を踏み入れた。