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王都へ向かう馬車の中、リディアとディオンは終始無言だった。リディアはディオンを盗み見ると相変わらず仏頂面だ。
「……怒ってるの?」
恐る恐るそう訊ねると、鋭い目つきで睨まれた。これは完全に怒っている。
「逆に聞くけど、怒ってないとでも思ってるの?」
「ゔ……ごめんなさい……」
莫迦にする様に鼻を鳴らすディオンに、リディアは身体を小さくする。
「それは何に対する謝罪な訳?」
「私がディオンに何の相談もしないで、勝手に帰るって決めたから」
「で?」
「え、えっと……勝手に女王になるとか宣言したから?」
疑問系で返すリディアに呆れた様にディオンは大きななため息を吐いた。
「どちらも間違いではないよ。ただそれだけじゃない。お前はあの時、自分を盾に俺を護ろうとした。それが赦せない」
意外な言葉にリディアは目を見張る。
「お前を護るのは俺の役目だ。護られるのなんて冗談じゃない」
向かい側に座るディオンはリディアを手招きした。それに素直に従うと、膝に乗せられ後ろから抱き締められる。
「ディオン……」
「お前は黙って俺に護られていれば良いんだよ。……でもそれももう出来ない」
その言葉に心臓が跳ねた。どう言う意味なのだろうか……。
「ディオンっ、何処かに行っちゃうの⁉︎ 怒ってるのは分かったから、謝るから! だから、嫌っ、行かないで」
ディオンの腕の中で身動ぎして、身体の向きをディオンへと反転させた。そして勢いよく抱きついた。身体が震えているのが自分で分かる。何も言わず馬車に乗ってくれた故、彼も一緒に帰ってくれるのだとばかり思い込んでいた。これからもずっと一緒にいてくれるのだと、思ったのに……。
「莫迦だな。俺は何処にも行かないよ。俺はお前のモノだ。お前もそうだろう?」
「うん……」
ディオンの言葉にリディアは安堵感からか子供のような返事になってしまった。
「だけど、お前が正式に女王になってしまったら……お前は俺だけのリディアじゃなくる。お前を護るのも俺だけじゃなくなるんだ。それが悔しいんだ……」
「それって、妬きもち」
「煩い」
「やっぱりそうだ! ふふ。強くて格好いいお兄様でも妬きもちなんて妬くんだ?」
「本当生意気な妹で、奥さんだな」
どちらからともなく口付けをした。
正直不安しかない。これからクロディルドと対峙する事となる。自ら女王だと大きな口を叩いたものの、どうなるかは分からない。
だがディオンがいてくれたら大丈夫、怖くない。
久しぶりに帰って来た。
馬車は街を抜け直接城へと向かう。暫くして大きく揺れて止まった。扉が開くとディオンが先に下りてリディアを抱き上げ下ろしてくれた。
「ディオンは、貴方はああは言ったけど……私にも貴方を護らせて。私だって大切な人を護りたいの」
もしも失敗すればディオンはクロディルドに殺される。
(私の大切な貴方を、死なせたりはしない。ずっと私を護ってくれていた。だから今度は私の番よ。でも、もしもの時は……)
着替えを済ませ後、クロディルドとセドリックの待つ大広間へと向かう。長い赤毛を靡かせ、ドレスの裾を翻し、ヒールの音を響かせる。背筋を伸ばし、誰よりも優雅にいつか読んだ本の姫君の様に、女王の如く振る舞って見せよう。例え虚勢だとしても構わない。
ーー誰もが一目で王は私なのだと思わせてみせる。
そして広間への扉は開いた。