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上野文
3,851
柚猫ゆう
196
黒おーじ
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109
額に十文字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、山吹色の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽は、〝式鬼〟を祓うため、ひので荘の庭で手を取ってワルツを踊り始めた。
三日月が照らす幻想的な光景は、日焼けしたアパートの廊下から、建速紗雨、五馬乂、三縞凛音の三人に目撃されていたが――。
「キシシシ。見たか、お前たちっ」
紗雨が懸念したとおりに、築五〇年のオンボロアパート〝ひので荘〟を取り巻く、無数の監視カメラによっても盗み見されていたのだ。
「あれが新しい英雄、出雲桃太君だ」
勇者パーティ〝S・E・I 〟の代表たる男、四鳴啓介は、半裸でソファに寝転がり、何人もの薄着の美しい少女を侍らせながら、モニターを見て馬鹿笑いした。
「冒険者組合のサラブレッドたる八大勇者パーティの栄光を汚す、偽りの英雄。あのロバ野郎は新人研修生の呉陸羽とは因縁があるのだよ。やつは〝C・H・O〟がクーデターを起こした時に、彼女の兄、呉陸喜を見捨て、尻尾を巻いて逃げ出したのさ!」
四鳴啓介が語った内容は、全くのデタラメだ。
しかし、この桃太を貶める嘘八百は、親友の妹である呉陸羽に吹き込まれていた。
「可哀そうなあの娘は、ロバ野郎が勇者パーティ〝C・H・O〟代表の三縞凛音や、副代表の鷹舟俊忠を倒せるほどの英雄なのに、どうして兄を見捨てたのかと悩んでいたが、単純な理由だ。真実はマグレ勝利に過ぎず、一葉家の〝式鬼使い〟ごときに苦戦する程度の弱者なのさ」
啓介は自身の妄想に溺れるように、グラスに入ったワインを音を立てて飲み干した。
「キシシシ。あの弱さじゃ、一葉家から奪った技術で作り上げた私愛用のパワードスーツ〝百腕鬼ヘカトンケイル〟を使うまでもない。お前達が使う量産型の〝鋼鉄鬼〟と〝式鬼〟でも簡単に捻りつぶせるだろう」
啓介は、新たに酒を注ごうとする少女達に手を伸ばし、下品な手つきで胸や腰を撫で回しながらゲラゲラと笑う。
「そうとも、単純な戦闘力など時代遅れ。経済力こそパワー、我が四鳴家参加の企業が、冒険者組合本部のラボから盗み出した技術で磨き上げた工業プラント〝神鳴鬼ケラウノス〟と、美しき乙女達の軍団があれば、この日本を支配するに十分だ」
啓介は酔いのせいか、気が大きくなっているようだが、彼にしなだれかかる女性達は不安の表情を浮かべていた。
「でもお、御主人さまあ。リウちゃんは〝鬼神具〟を持っているから、私達の中でも一番強いんですよ」
「そのリウちゃんを圧倒するほど、式鬼の連携は強かったし、わたし達じゃ勝てるかなあ」
「それにい、朝から警察や冒険者組合からも、質問と抗議の電話が鳴りっぱなしですよお」
「盗聴器を仕掛けたこともバレちゃいましたし、まずいんじゃないですかあ?」
少女達は、盗撮映像越しといえ、桃太と交戦した〝式鬼使い〟が〝勇者の秘奥〟を駆使していたことから――かの鷹舟俊忠に匹敵するエース級であると理解していた。
研修生なのに、そんなベテラン冒険者相手に堂々と戦った桃太は危険だと認識し、なんとか主人を思いとどまらせようと言葉を尽くしたが、古今東西、愚かな独裁者ほど聞く耳をもたないものだ。
「放っておけ。出雲桃太、あのロバ野郎に政治的な後ろ盾は一切ない。五月の総会で代表選挙が終われば、夏には私が冒険者組合のトップだ。そうなれば、奴は家族もろともこの世から消してやる。そうとも、日本の未来は、私の思うがままだ!」