「ええっとぉ、失礼ですが、もう一度お名前を頂けますか?」
「カシオペアですわ、この娘はアンドロメダでしてよ? エチオペイア、おっと今はエチオペアと言うんでしたわね、そこから来ましたのよ、魔神王様にお会いするために♪ オホホホホ」
「なるほど…… では庭の右通路を進んでBブロックの席にお座り下さい、これがチケットですので、あっ、お帰りになるまでは半券を無くされない様にお願いしますね、もし紛失された場合は再入場が出来ない場合が在りますので、予(あらかじ)めご了承下さいませ! はい、次の方っ!」
「関羽雲長(かんううんちょう)と言いますが…… えっとぉ――――」
「おーい! 関羽ぅ! こっちこっちぃ!」
「あっ! 文長(ぶんちょう)! 魏延(ぎえん)じゃないかぁ! す、済みません、知り合いが居ましたぁ!」
「良かったですね、ではお知り合いと一緒に入場くださいね! 人数の追加もお忘れなく! ハイお次は?」
「トゥーサンです、トゥーサン・ルーヴェルチュール、えっとぉ、どうすればぁ……」
「トゥーサン…… 過ぎた事は水に流そうじゃないか、俺と一緒に行こう、今度こそ」
「ああ、ナポレオンさん、この方、トゥーサンさんをお任せして良いですか? 助かります!」
「無論だ、前は済まなかったな…… まあ、こっちで話そうぜ」
「あ、ああ……」
「はいっ! 次の方ぁー!」
「は、はい、えっと私はアリストテレスと言いまして…… えっとぉですなぁー、何と言いますかぁ……」
「先生、先生じゃないですかぁ! あはは、私ですっ! アレキサンドロスですよぉ! いやぁ、お懐かしいぃ」
「おお、その声は若(も)しかして若君、君なのか?」
「スカンダ? 君の知り合いかな?」
「はいぃっ! 私の先生、アリストテレス先生ですよぉ! 懐かしい、実に懐かしい! アジア遠征の話を聞いてくれますか? スサを陥落させた後なんですがね、参りましたよぉ自軍の兵にペルシャ風を怒られてしまいましてねぇ――――」
「スカンダっ! 思い出話は後にしてくれるかな? 君の知り合いと言うのならリエちゃんの席の近くに案内してくれたまえ! ふう、やれやれ、さっ、次の方!」
「えっと、東照大権現(とうしょうだいごんげん)と申します…… 世俗一般には徳川家康と言ったほうが馴染み深いと思うんですが……」
「はいはい、あれかな? 豊国大明神と第六天魔王、どちらの近くが良いですかね?」
「出来れば両方と離れた席でお願いします」
「なるほど、では庭の左手前、Eブロックにお進みください、あっ! 明智さんは大丈夫でしたか?」
「あ、はい、彼とは企んだ仲ですので♪」
「なるほど♪ では次の方、どうぞ!」
こんな感じで訪問客を手際良く捌(さば)き続けていたのは純白の美しい悪魔である。
無論アンドロマリウスの手によって真核(しんかく)を取り戻したオルクスであった。
様々な訪問客達を敵対する勢力から距離を置いて配置し続けている実力には、周囲で見守る他の魔王達を以(も)ってしても舌を巻く他無かったのである。
流れるような案内業務は正に神速であった。
『神速(グリゴリ)のオルクス』、かつて其の二つ名を冠した理由は、この処理能力の速さにも起因していたのである。