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エウリの姿だった“者”はどろりと身体がまるで泥のように溶けた。
その泥から出てきた“人物”に、すまない先生は言葉にならない“恐怖に近い何かが”溢れそうになった。
光を通さない漆黒の髪、肌は生きてるとは思えないほど色白の肌。
それは、人間とは言えない。明らかに“人ではない存在”だ。
【あら?私の姿を見ても、膝をつかない人間なんて初めてよ】
くすくすの目の前の彼女は妖しく笑う。
何故か、“彼女”から目を背くことが出来ない。
頭の中で同時に矛盾した思考が狂ったように暴れる。
──目を逸らせ、あれは“人間”が見ていいものじゃない
──目を逸らすな、あれは“信仰すべき”者だ。
──耳を傾けろ、“あれは”聞くべきお言葉だ。
──聞くな、聞くな、聞くな、“あれ”は聞いてはいけない者だ。
矛盾した思考にすまない先生は気を取られる。すると、彼女はすまない先生に近づく。
彼女は無遠慮にすまない先生の頬に手を伸ばし、指先で唇に触れた。
すまない先生は思わず肩が揺れた。
彼女はゆっくり指先で唇をなぞる。
すまない先生は震える声で言葉をこぼした。
「・・・君・・・は・・・誰だ・・・?」
すると、彼女は真っ赤な瞳がゆらりと揺れ、面白そうに笑った。
【・・・そうねぇ・・・貴方達、人間たちの言葉で言うなら・・・】
彼女はそこで区切り、そして、答えた。
【・・・・・・・“カミサマ”ね】
何故か、突拍子のない言葉なのに、それを
“信じられない”
“信じる”
と言った矛盾した考えが頭の中を支配する。
【私は、沢山色んなものを見てきたわ。ずっとずぅと人も、建造物も、歴史も、植物でさえ私は見てきた・・・その中で、あなたは特に面白い人間よ】
唇に触れていた手はすまない先生の頬に。冷たいような、暖かいような、不思議な体温に身体が固まる。
彼女の声を聞く度に、頭がぼんやりする。
【だから、私はあなたにプレゼントしたの。
──あなたの両親が死なない、
──あなたの友人たちが死んでいない世界。
それなのに・・・どうしてあなたはちっとも喜ばないの?どうしてそんな難しそうな顔するの?】
彼女は大層不思議そうにこぼした。
すまない先生はぼんやりとした頭で何とか答えた。
「・・・あの世界は、僕がいた世界とは違う・・・僕は、銀さんたちが“生徒”としている世界に帰りたい」
すると、彼女は答えた。
【“どうして?”】
「・・・え?」
【どうしてわざわざ・・・“元の世界に戻りたいの?”】
彼女の言葉に、すまない先生は心臓を掴まれたような感覚に震えた。
【あの世界に戻っても、あなたの両親も、友人たちも存在しない・・・それに・・・その生徒たちの両親でさえ、死んでたり、行方不明になってるじゃない。どうしてわざわざそんな世界に戻る必要があるの?】
「・・・そ・・・れは・・・」
声が震える。返さなきゃいけないのに、言葉が、上手く出ない。
彼女はふと、何かを思いついたように笑う。
【あぁ、そうだわ!いい事思いついた!なら・・・“その世界の記憶。消してあげる”】
その言葉に、すまない先生はゾッと背筋が凍り、その場から逃げた。
だが、それは叶わず、突然内蔵が宙に浮かぶ感覚に、苦痛の表情を歪めた。
そして、逆さまに吊るされ、彼女の前まで引っ張られた。
彼女の髪がまるで触手のように、揺らめき、その無数の束の1つが、すまない先生の足首に巻き付き、ぶら下がったマスコットのように、すまない先生の身体をブラブラ揺らす。
彼女はゆっくりすまない先生の前に立つ。
そして、彼女は手を伸ばし、
どぷんっ・・・
まるで、粘度のあるスライムに手を突っ込んだような音が、すまない先生の胸元から聞こえた。
“彼女の手が、すまない先生の胸元に沈んでいた”
【ん〜・・・どこ、かしらねぇ・・・?】
「・・・ッあ・・・ぐっ・・・!」
彼女の手がぐちゅり、ぐちゅりと掻き回す。その度にすまない先生は呻いた。
掻き回される度に、痛みとも、苦しいとも言えない不思議な感覚に表情を歪める。
【あ、あったわ】
彼女が“何かを掴み”それを引き抜いた。
胸元から、氷に近い透明な鎖に繋がれた、手のひらを覆う程の美しい水色の水晶。
「・・・それ、は・・・?」
知らないはずなのに、“それ”を取られたらいけない物だ。と頭の中で警報が鳴る。
【あら・・・随分鎖に繋がれてるわね・・・そんなに“この記憶”が大切なのね・・・?】
そう言い、彼女はその鎖を掴んだ。
「まっ・・・!待てっ・・・!!」
すまない先生と手が彼女に届く前に、彼女がその鎖を壊すのが早かった。
ガシャンッ
その“音”と共に、すまない先生は意識を飛ばした。
✵✵✵✵✵
「すまない?起きてるの?」
ドアが開けられ、ドアの外から、母親が顔を出した。
すまない先生はぼんやりベッドの上に座り込んでいた。
そして、すまない先生は顔を上げた。
「・・・“おはよう、母さん”」
すまない先生は頬を緩め、笑った。
──どこか、“壊れたような”雰囲気を抱えたまま・・・