この作品はいかがでしたか?
7
この作品はいかがでしたか?
7
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(前編からの続き)
観賞会で上映されたビデオの内容は素人ものというか、盗撮ものだった。森の中や、橋の下など、人気のないところで、男性と女性が……するという内容だった。最初は恥ずかしさがあるのか、なかなか始まらない。だが、そのうちにふたりは愛し合い始める。カメラの位置はよくわからず、どのシーンでも固定されていた。
私は、なんだか居心地が悪くなってきた。他人の行為を見せられるのが嫌だったわけではない。もっと違うことが気になっていたのだ。しかし、それが何かは自分でもよくわからない。ただ、この場にいることに違和感を覚えたのだ。それでも、感想を提出する必要があるので、いろいろメモを取りながら画面を見続けた。
しばらくすると、場面が変わった。私はその場所に見覚えがあるような気がした。どこだろうと思い出そうとしたとき、画面の中の男女が動き出した。彼らは抱き合ったまま、近くの草むらに移動した。そして服を脱ぎ始めた。私は、あっと思った。
そこは、私がいつも使っていた公園だった。私は思わず立ち上がりそうになった。だが、隣に座っている女性がこちらを見たので、なんとか思い止まった。その後も、公園での行為は続いた。そしてとうとう、男女は結合してしまった。その瞬間は、なぜかよく見えた。男の人の性器が女の人の中に入っていくのが見えてしまった。私は慌てて目をそらしたが、そのときはすでに遅かった。しっかりと見てしまった。そのせいで、その光景は、私の頭に焼きついてしまいそうだった。私は混乱していた。なぜ、あの場所であんなことをしているのだろう。あの場所は、私たちが普段使っている場所なのに……。
そこで私は気がついた。映っているのは私だということに。私は画面を見ることができなかった。今すぐここから逃げ出したかった。しかし、そんなことができるはずがない。私は必死になって、画面から顔を背けようとした。だが、どうしても画面に目が行ってしまう。まるで磁石のように、私の目は映像に引きつけられてしまう。
やがて、男は果てたようだった。そして女、つまり写っている私も絶頂を迎えたらしい。ふたりとも、ぐったりとしていた。だが私はほっとした。幸い、女の顔は映っていない。私だとは気付かれないだろう。その後、ふたりは服を着ると、どこかへ歩いていった。私はこっそりとため息をついた。やっと終わった。早く帰りたい。私は心の底からそう思っていた。
しかし、その願いはすぐに打ち砕かれた。場面がまた変わったのだが、そこにも見覚えがあった。そこも、私が使ったことのある公園だった。私は愕然とした。どうして……? 私は恐ろしくなって立ち上がった。すると隣の女性が私の腕を掴んだ。
「ちょっと、どこに行こうっていうんですか?」
「いえ、あの……」
私は答えられなかった。言葉が出てこなかった。
「まだ途中ですよ」
女性は言った。私は仕方なく座り直した。画面の中では、先ほどと同じように男女が絡み合っていた。私はぼんやりとその映像を眺めていた。
「ねえ、どう? 興奮してる?」
不意に声をかけられた。声の主を見ると、さっきの年上の女性だった。彼女は楽しそうな顔で私を見つめている。
「えっ、あ、はい」
私は戸惑いながらも返事をした。
「本当に?」
「本当です」
「ふーん、そうかなあ」
女性は納得していない様子だ。私はいたたまれなかった。こんなことなら、やっぱり来なければよかった。後悔しても遅いけど、私は本気でそう思った。
「でも、なんだか落ち着かない様子だね」
「そ、そんなことはありません」
「そう?」
女性は疑わしそうな目つきで私を見ている。
「まあいいわ。ところであなた、名前はなんていうの?」
突然名前を聞かれたので、私は驚いた。
「どうしてですか?」
「だって、あなたの様子がおかしいんだもん。もしかしたら、何か隠してるんじゃないかと思って」
「別に何も隠してませんよ。ただ、緊張しているだけです」
「そうかしら。なんだか変な感じなんだけどなあ」
「気のせいでしょう」
「それじゃあ、いいわ」
それからしばらくは、モニターに眼を向けていた。ちらっと時計を見ると、まだ30分くらいしかたっていない。ビデオは確か90分あるはず。誰かに気づかれる前に、早く私のシーンが終ってほしい。私はそれだけを願っていた。だが、なかなか私のシーンが終わる気配はなかった。その間、ずっと女性の視線を感じていた。そのうちに、やっと私のシーンが終った。しかし。
「そんな……」
私は絶望的な気分になった。なんと、次に映されたのも私だったのだ。
「途中から同じ女の子ばかりじゃない?」
参加者の誰かがいった。みんなうなずいている。
「あの、これはどういうことですか?」
私は年上の女性に向かって聞いた。
「あら、あなた知らなかったの?ここの公園って、よくカップルが……する場所として有名なのよ。だから、ここで撮影すれば絶対うまくいくと思ったわけ。どう、上手くいったでしょう?」
私は呆然となった。
「だけど、いくらなんでもこれはないんじゃないの。この子が可哀相でしょ。この子だけ特別扱いするなんて不公平でしょ。ねえ、他の人だってそう思うでしょ」
女性が周りにいる人たちに同意を求めた。
「確かにそうだよね」
「そうそう、こういうのは良くないと思う」
「それにしてもこの子、何度もここを利用しているね」
「そうみたいね。きっと、そういう娘だったのよ」
周りの人たちは口々に同意した。私は泣きそうになった。だが、泣くのは我慢した。ここで泣けば、さらにみんなの注目を浴びることになる。私は必死になって涙を抑えた。
残りの60分は、すべて私が映っていた。私はそれを見ているうちに、頭がおかしくなりそうだった。私はもう限界だった。けれど、地獄はそこで終わらなかった。
ビデオが終った後、全員がその場で感想を言うことになったのだ。私は自分の感想を述べるのが嫌だったので、ひたすら黙り続けていた。しかし、それが許されるはずがなかった。結局、私ひとりだけが意見をいう羽目になってしまった。しかも、その内容が最悪だった。
「私の映像を見て興奮しました」
私はそう言わなければならなかった。そうしなければ、映っているのが私だとばれてしまうからだ。だけど結局、周りの人たちにもすっかりばれてしまった。何人かはやはり気づいていて、自分の感想を述べたときにそのことを指摘したからだ。
「えー、あれ君だったの? すごいね」
「まさかとは思ったけど、やっぱりそうだったんだ」
「へえ、あんなところでやるなんて大胆だね」
「でも、意外と可愛いじゃん」
私は恥ずかしくて仕方なかったが、なんとか耐えた。こうして、自分の行為をみんなに見られ、感想を言われ、自分でも感想を言うという、地獄のような鑑賞会は終わった。きっと私が公園でしているとき、どこかで誰かに見られていたのだろう。そして今日、そのことが偶然わかっただけだ。私はそう思い込むことにした。
だけど、そんな偶然が本当にあるのだろうか? たまたま私のシーンが多く使われたビデオが作られ、その鑑賞会に私が呼ばれるなんて偶然が? しかし、それ以上考えるのは怖くなったのでやめた。(終り)