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目の前に居並ぶイエスマンの登場に、ナッキの舌も滑らかさを増していく。
「それにねぇ~? 僕なんかが美しい? だったっけかぁ~? はあぁ~、君たちってば何にも判っていないんだから、もう、がっかりしちゃうよぉ~! 僕なんか全然美しくは無いんだからね? 只のどこにでも居る、その他大勢の銀鮒なんだからね? 美しいとかそう言うのってさぁ、あの、えと、そ、そうだなぁ? 僕が知っている中ではね、お、オーリ? オーリって銀鮒だったらね、う、美しい、そ、そう呼んでも良いかも知れないかも知れないかも知れないかも知れないかもねぇ? だよ? 僕なんか彼女に比べたら全然普通、一般的なんだからさぁっ! 判ったぁ?」
『オーリ?』
「そうそう、大きい魚は海に居るし、強いんならヒットや大人だよ? んで美しいのは、お、お、お、オーリ…… みたいな魚の事なんだよぉ、判るでしょ? だから僕じゃないんだよぉ! てへへへ、てへ♪」
『ふむ……』
声と同じく、なにやら考え込む姿勢までピタリと揃えたメダカ達は、暫(しばら)くの間、深く考え込んでしまっていた。
やがて、全てのメダカが同時にハッ! とした表情を浮かべると、徐(おもむろ)にナッキに向けて言葉を発したのである、あ、因みに例の如く数百匹同時で、一糸乱れぬ声で、であった。
『大きくて強くて美しいけど、魚の王様ではない、メダカにもそれは判りましたぁ! ですから改めてこうお呼びさせてくださいませぇ! 貴方様のことを、『メダカの王様』とぉっ! どうですか? これでも駄目でしょうかぁっ?』
ナッキは少し考えてから笑顔で答えた。
「うん、全てのお魚の王様とかは無理だけれどね、君たちの王様だったら良いかも知れないよね? じゃあそれで良いかな? よろしくねメダカさん達! 僕の名前はナッキって言うんだよ! 銀鮒のナッキだよ? どう? 覚えてくれたぁ?」
この問い掛けに答えるように、数百匹のメダカの群れは一斉に揃えた声をあげるのである。
『メダカの王様、ナッキ! メダカの王様、ナッキ! メダカの王様、ナッキィッ!』
大合唱を聞いていたナッキであったが、やがて静かになったメダカ達に向けて、ややはにかんだ笑顔を向けて聞いたのだった。
「ところでさ、王様って一体何なの? 僕って何をやれば良いのかな? 教えてくれるぅ? てへへぇ」
『っ!』
ナッキの暢気(のんき)な声に答えて、メダカ達は王様とはどんな存在なのか、そして民のために何を為すべきなのか、基本的な知識を説明するのに都合三日を費やさざる得なかったのである。
こうして、小さな銀鮒のナッキは、メダカの王様に就任してしまったのであった。