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「よし、シーニャ」
「ウニャ?」
「今からおれは後ろの連中のところに突っ込む。おれが奥の方に到達したら、シーニャは手前の魔導士をやっつけてやれ!」
「ウゥ、それだとアックに全部襲いかかって来るのだ! それは無茶すぎるのだ」
無茶な行動ではあるが、奴らが束になって来ても問題は無い。
おれが心配しているのは前の方にいるルティたちに魔法による流れ弾が飛んでしまうことだ。そうなれば彼女たちの気がそがれてしまうだけでなく前方に向けている集中力が乱れてしまいかねない。
未然に防ぐ意味でもあるし、今の時点で別働隊に邪魔されても面倒なだけだ。
「そんなに心配しなくてもいいよ、シーニャ。よしよし……」
「フ、フニャ」
「とにかく、君は後ろを向けて油断してしまっている魔導士に対し斬撃を与えればいい」
「そういうことなら分かったのだ!」
特定属性不可というわけでも無く、弱体として確定されれば命中はするらしい。そうなると、なりふり構わずでたらめな弱体魔法を連発してくるのは目に見えている。
面倒な事態を引き起こされても厄介だ。大した魔物が出現していない今のうちに一掃しておく。ルティやミルシェたちとは少しだけ隔たりが出来ているが、これを好機と見るべきだろう。
「リ、リーダー!! 奴がこっちに向かって来ます!」
「――何っ!? ちぃっ、魔導士! 早く迎え撃て!!」
「ま、間に合わない!!」
「ちいぃぃぃ……! 傭兵ども、己の刃で奴を切り刻め!!」
奴らはおれが氷の弱体魔法で動きが止まったと見ていたようで、すっかり油断をしていた。黒ローブ姿の魔導士を通り過ぎ、その後ろに待機していた武器揃いの傭兵連中の正面に対峙する。
指示を出しているリーダーはランクが高いことを示す色付きのベルトをしていて、獣の骨で作られたハーネス装備を身に着けているようだ。
そいつの周りにはランクの無い部下なのか黒色のベルトを腰に着けた男たちが五、六人ほど立っているものの、ブロンズ製のいわゆる初期装備を着ているだけで見映えは良くない。
背後には黒ローブの魔導士が二人だけ見えているが、二人だけならシーニャの遊び相手にもならないだろう。
「わざわざど真ん中に突っ込んで来てやられに来やがったってのか?」
リーダーの男は短刀を両手に構えて見せているが、はっきり言って一番弱そう。しかし、別働隊のリーダーにされていることもあって態度だけはでかい。
「……おたくらは、おれがアック・イスティだとご存じのようだが実力のことは知らされていないようだな」
おれの言葉に傭兵連中は失笑。背後からも笑いが漏れているが、そこそこ長い詠唱を始めてもいるようだ。
「けっ、実力なんてもんを気にしてたら傭兵なんか出来ねえだろうが! 本隊連中もそうだが、誰もてめぇのちっぽけな魔法防御なんかをいちいち恐れて動けっかってんだ!!」
「傭兵のルールってやつか。すごいな」
「――うるせぇっ! てめぇらーー、かかりやがれ!」
恐れている奴もいるということか?
これを聞く限り、魔法に対する防御力が強いという予備知識だけは聞いているらしい。目の前の奴らが何の疑いも無く武器を手にしているということは魔剣のことは知らないとみえる。
とはいえ、魔剣を使うのはまだ控えておく。道幅が狭いがルティたちがいる所よりは広い。まずは奴らの攻撃命中率を大人しく確かめさせてもらう。そうすれば強さの程はすぐに判明する。
「こ、この野郎ぉぉぉ……く、くそが……刃が通らねえじゃねえか!」
「く、くぅぅぅぅぅ!! 何なんだこれは! こいつ、バリアでもかけてやがんのか?」
そこに立っているだけの状態だが、連中は目に見えない壁に向かって何度も攻撃を繰り返している。物理攻撃無効なのだからというと簡単になってしまうが、近接戦闘だと明らかに分かってしまう。
「ええい、らちが明かねえ!! デバフ付加の武器でやれっ!」
「ち、こんな野郎に勿体ねえな」
「後ろの魔導士どもは何をしてんだよ!」
どうやらレイウルムにいた傭兵よりはいいものを持たせているようだ。デバフの効果を持つ武器とは珍しいが、全員が片手剣というのは感心しない。
もしくは別働隊が何個かいて、それぞれで違う武器を与えられている可能性がありそうだ。
「ぐわーっ! 弾かれただとっ!? ど、どうなってやがる……おい、てめぇ!! 卑怯な真似をしてねえで手を出して来やがれ!」
「――って、つぅぅ……手に痺れが……ちくしょう」
何もしなくても勝手に自滅してくれそうではあるが、目に見える形で見せてやるか。