テラーノベル
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(死ぬかと思った……)
面接会場から出た私は、胸に手を当ててドッと冷や汗を浮かべる。
まさか面接の最中に、発作を起こしてピンチになると思わなかった。
私はいまだドキドキする胸を押さえ、深呼吸しながらエレベーターホールに向かう。
(あ……っ)
そこでまた発作に襲われ、私は胸を押さえてしゃがみ込んでしまった。
バクバクと胸が鳴り、嫌な感情が胸いっぱいに広がる。
次々に脳裏に蘇るのは、ゴールデン・ターナーで働いていた時の思い出、そしてウィルとレティにまつわる嫌な感情だ。
――採用されたとして、また辞める事になったらどうしよう。
――うちには巨額の借金があって……。
そう考えると呼吸が荒くなり、貧血を起こしたように脳天からサァ……と血の気が引いていった。
限界を迎えて気絶してしまいそうになった私は、必死に壁に縋る。
その時――、
「大丈夫ですか!?」
男性の声がしたかと思うと、こちらに走ってくる足音が聞こえ、誰かが側に跪いた。
背中をさすられ、額に手を当てられる。
(温かい。……力強い手……。……お父さんみたい……)
私はそう思いながら、フ……ッと気を失ってしまった。
**
「ん……」
人の話し声が聞こえて、私は意識を浮上させる。
目を開けると知らない天井が目に入り、ギョッとして起き上がると、キングサイズのベッドに寝かされているのが分かった。
向かいの壁には液晶テレビがあり、窓辺には一人掛けのリクライニングソファがある。
マンションなのかスイートルームなのか分からないけれど、かなりの高層階にあるらしく、窓から見えるのは空と高層ビルのみだ。
遠くから聞こえてくる男性の声は、私に気を遣って声量を落としているように思える。
(面接が終わったあとに、また発作を起こしちゃったんだ)
自分の失態を思いだした私は、深い溜め息をつく。
「しっかりしないと」
私は呟いてからベッドから下り、足元にあるパンプスを履く。
念のために確認したけれど、下着に乱れはなかった。
バッグは部屋にはなく、別の場所に置かれているようだ。
(ここ、どこだろう……)
私は不安を抱えたまま、ソロソロと部屋を移動していく。
初めての場所というのもあるけれど、部屋数が多くて迷子になりそうだ。
寝室の近くにはジムがあり、ルームランナーやエアロバイク、筋トレマシーンが置いてある。
大きな鏡のあるダブルボウルの洗面所に、地上を見下ろしながらジェットバスに浸かれるバスルーム、十人は座れそうなダイニングルームの向かいにはキッチンまであった。
洗面所を見た時にアメニティがセットされているのを見て、ようやくここがホテルのスイートルームなのだと理解した。
そして、ようやく声の主を見つける。
[その件につきましては、ミスターが来日された時にお話したいと思います]
流暢な英語で話していたのは、面接官だった副社長だ。
彼は私に気づくと軽く手を上げ、廊下の奥を指さして、そちらに行くよう指示した。
意図を理解した私は、会釈して彼が指差したほうへ向かう。
「凄い……」
たどり着いたのはリビングで、何十畳あるか分からない広さがある。
モダンと和で統一された室内の中央には、チャコールグレーのソファセットがあり、大きな液晶テレビもある。
さらにグランドピアノやバイオエタノール暖炉まであり、天井からはシャンデリアが下がっていた。
壁には黒と金を基調とした蒔絵の絵画が掛かり、ティッシュボックスまで蒔絵でできていて、あまりのゴージャスさに溜め息が出る。
(本当に凄い……)
今までもホテルのスイートルームに入った事はあるけれど、〝エデンズ・ホテル東京〟ならではの良さに感動を覚えた。
しばらく呆けた室内を見たあと、私はやっとソファの上にバッグが置かれてあるのに気付いた。
「良かった……」
中身を確認したけれど、なくなった物はないし、スマホを開いても緊急の連絡はなく一安心する。
(副社長が助けてくれたのかな)
そう思った時、足音がして本人が登場し、私はドキンと胸を高鳴らせる。
コメント
1件
やはり発作が!😱😱😱 副社長が気づき、助けてくれて良かった…😌💓