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八雲瑠月
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瓜花に言われるまま、鍵を渡された書也は家に向かっていた。家は洋風の二階建てで、緑の屋根には煙突があり、赤毛のアンの家みたいな外観だった。
鍵でドアを開けて入ると、天井のセンサーライトが点き、何処からかカモミールの匂いがした。玄関はレンガ床で、サンダルと長靴が置いてあり、棚の上には赤べこと花瓶にカモミールのドライフラワーが飾られ、壁には額縁に入った蹄鉄が飾られていた。廊下の照明もセンサーライトで、歩くと明りが点いた。床はフローリングで、歩くと少し軋んだ音がした。
「廊下の左側ね……この洗面所の所か……」
廊下を少し歩くと、左側にはドアが開いていて、洗面所が見えた。スイッチで明かりを点けると、アンティーク調の蛇口と鏡、木製の化粧台になっている。バスルームらしき引き戸を開けると、さすがに風呂まではアンティーク調ではないが、全自動給湯器のリモコンが付いており、浴槽、天井、床は綺麗に磨かれており、お湯もきちんと張ってあった。
「これはこれで凄いな」
何よりこのバスルームで驚いたのは、浴槽の横の窓であった。窓からは花壇の花が見え、チューリップ、ラベンダー、マリーゴールドなどの様々な色の花々が咲き、ハナモモの木が見事なピンク色の花を咲かせていた。
「……いい湯だった」
書也がバスルームから出た瞬間、愛の声が聞こえたと思うと、ドアが開かれていた。書也の前に可愛い牛の着ぐるみパジャマ姿の愛が目に映る。それよりもこの状況は……
「書也君、お父さんのジャージだけど使って……はうっ!? 書也君の小さいゾウさんなんだよ!?」
「愛、わああっ!? ノックぐらいしろ!? 何が小さいゾウさんなんだ!?」
ジャージを両手に持っていた愛は頬を染め、素早く後ろを向く。書也は既に見られていたが、思わず股間を両手で隠す。
「男の人のは凄い怖いイメージあったけど、書也君のゾウさんはすっごく可愛く見えたんだよ」
愛は頬を染めたまま、ちらりと後ろを振り向く。
「こっちを見るな!?」
書也は頬を染めて言う。
「あははっ!? ジャージをここに置いておくんだよ!?」
愛は見ないようにし、木製の二段のランドリーバスケットの上にジャージを置くと、慌ててドアを閉めて、バタバタと音を立て、廊下を駆けていく。
『お母さん! 書也君のが小さいゾウさんなんだよ!』
『あらー。あらー』
遠くから愛と瓜花の声が聞こえる。
「言いふらすな!」
二段のランドリーバスケットに置かれたジャージは学校で着るタイプとは違い、黒色でモダンなデザインだった。匂いを嗅ぐと、微かに森林の匂いがする。書也はそれを着て、愛と瓜花の声のする方へと向かった。
ダイニングルームは喫茶店のカウンターキッチンのようになっており、厨房では牛の着ぐるみパジャマのまま、エプロンを着けた愛がトレーに乗った料理を瓜花から受け取っていた。
「手伝おうか?」
書也が愛に話しかけると、笑顔で振り向いた。
「大丈夫だよ。書也君は座ってて……どうせなら外で食べようよ。今日はそれほど寒くないし、良い天気だよ」
「構わないけど、虫さん来ちゃうわよ。書也君、嫌がらないかしら」
「テーブルや椅子に虫除けスプレーしたから大丈夫だよ」
「あらあら、お花に虫さんが来なくなっても困るんだけど」
「今日だけ、良いでしょ?」
「仕方ないわね」
「やったぁ! 書也君、こっち来て」
書也は笑顔の愛に付いていくと、窓の方に辿り着いた。窓の先にはテラス席があり、カフェのようなお洒落な洋風なテーブルと椅子があった。
「あっ、窓を開けないといけないな」
書也が窓を開けると、愛は器用に足でサンダルを動かして履いた。
「ありがとう書也君」
愛は手早く料理をテーブルに置くと、窓付近に居た書也を抱き締め、胸部分のジャージの匂いを嗅いだ。
「お、おい!? どうした!? 変な匂いでもするのか?」
書也は頬を染め、愛を引き剥がそうとする。
「んんっ……書也君……お父さんの良い匂いがするよ」
「あらあら。愛、抱き付きごっこはお母さんの見てない所でしないと駄目よ」
後ろで料理を乗ったトレーを持ってきた瓜花が言う。その言葉を聞き、愛は離れてトマトのように頬を染めた。
「もう! お母さん、変なこと言ってないで食べよう!」
愛が瓜花の持っていた料理のトレーを受け取ると、テーブルに置いた。
しばらくして、愛と瓜花によって全ての料理が運ばれると、テーブルは様々な料理で埋め尽くされた。トレーの料理は皿にソーセージに目玉焼き、牛乳、ガラスの小鉢に入った自家製っぽいヨーグルト、大きいバスケットにはツナサンド、玉子サンド、ハムチーズサンド、野菜サンドなどが詰め込まれ、大きいサラダボウルにはシーザーサラダが山盛りに入っている。大皿にはソーセージマフィンやエッグマフィンなどがある。
「書也君、嫌いな物とかある? 男の子の好きな食べ物とか分からなくて……」
「大丈夫ですよ。お構いなく」
「でも、これで足りるかしら? 食べ盛りの子とか、どのくらい食べるか分からなくて、助六さんもこれで足りないと言うぐらいだし」
瓜花は溜息をついて言う。
「これで充分足りますよ。愛が特殊なんだと……えっ? 助六さんも!?」
助六さんは痩せている中年に見えたのだが、農家の人の消費カロリーは高いのだろうかと、考えてしまう。
「ほら、書也君もいっぱい食べないと、わたしが全部食べちゃうよ」
「よかったら召し上がってね。ほとんど自家製や貰った野菜だけれど」
お風呂あがりのせいか、喉が渇いていたので、料理より先に書也はガラスコップの牛乳を飲んでみた。牛乳は搾りたてなのか、市販のものより甘味を感じた。
「やっぱり牛乳は自家製なんですね……美味しい! 絞り立ては甘味があって美味しいです」
「わたしが絞った牛乳だからね。それにヨーグルトやサンドイッチに使ったチーズやバターも自家製だよ。あと、野菜は野原さんの農園のとこでしょ、卵は鳥島さんの養鶏場とこでしょ、ソーセージは猪田さんの養豚場だったかな?」
愛がテーブルから身を乗り出し、自慢げに言う。
「へぇー。他の農家さんとも交流があるんだな」
「こういう田舎町だから、お互いの作った農産物を分けたり、情報交換したりするのよ」
書也はフォークを使い、自分の皿の独特な色のソーセージを食べてみる。肉は濃厚な味わいで香辛料の辛味が利いており、なかなか美味しい。さらに目玉焼きも食べてみる。目玉焼きは単純に味塩コショウが振ってあるだけだが、鶏卵は新鮮なせいか、黄身と白身はまろやかで、これも美味しい。
「どれも新鮮で美味しいです」
「お口に合って良かったわ」
瓜花は書也の顔を見て、満面な笑顔を浮かべた。