テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#あべさく
めかぶぷりん
8,213
29
雪月❄️
357
82
裏社会の均衡は、四つの巨大なマフィア組織によって保たれていた。
一方は、固い同盟の契りを結ぶ「Snow」と「Man」。
もう一方は、絶対的な結束を誇る「岩本組」と「宮舘組」。
この四つ巴の勢力は、街を走る大通りや暗渠を境界線とし、冷戦状態を続けていた。「Snow」と「岩本組」は長年のしきたりでライバル関係にあり、「Man」と「宮舘組」もかつての友好を失い、今は激しい敵対関係にある。
その街の最暗部。ネオンの光すら届かない「Snow」の本部オフィスは、外の喧騒を拒絶するように静まり返っていた。
💚「次の会合の資料ですが……また、随分と甘い条件を提示するんですね。これじゃあ、向こうに舐められますよ」
呆れたような、しかしどこか諦めたような声を出しながら、デスクに書類の束を置いたのは、若頭の右腕であり「Snow」の頭脳でもある阿部亮平だった。眼鏡の奥の切れ者が、困ったように眉を下げている。
デスクの後ろの重厚な革椅子に深く腰掛け、書類に目を通していた若頭──深澤辰哉は、ペンを回しながらふにゃりと力なく笑った。
💜「いいんだよ、阿部ちゃん。これ以上、誰も傷つけたくないからさ。こっちが少し譲歩するだけで、無駄な血が流れずに済むなら安いもんでしょ」
深澤は、この裏社会において極めて異質な男だった。
元々は、父親がこの「Snow」の最下層で泥をすするような下っ端として働いていた縁で、組織に拾われたに過ぎない。血筋の繋がりなど一切なかった。しかし、深澤は驚異的な執念と、頭の回転の速さ、それから何より仲間を絶対に裏切らない深い忠誠心によって、努力だけでこの若頭の地位まで這い上がってきた。
元組長からは「血筋など関係ない。お前こそが、私の魂を受け継ぐ後継者だ」と、絶大な信頼を置かれていた。
だが、努力で手に入れた権力をもってしても、現実という壁はあまりにも高くて、厚かった。
自分が組長になったら、理不尽に人が傷つかない、クリーンな組織に変えるつもりだった。綺麗事だと笑われても、それが深澤の掲げる理想だった。
しかし、長年のしきたり、ライバルである「岩本組」との血生臭い抗争の歴史が、深澤の足を容赦なく引っ張る。
💜「……息が詰まるなぁ、本当に」
阿部が部屋を出て行った後、深澤は窮屈な三つ揃いのスーツのネクタイを少しだけ緩め、深くため息をついた。
窓の外には、欲望と暴力が渦巻く街の夜景が広がっている。どれだけ自分が血を流さないように立ち回っても、世界のシステムそのものがそれを許さない。その現実に、深澤の心は少しずつ摩耗していた。
気分転換に、一人で街を歩こう。そう思い立ったのは、半ば衝動的な逃避だった。
変装もせず、護衛の阿部すら巻いて、深澤は一人で夜の街へと繰り出した。冷たい夜風が、火照った頭を少しだけ冷ましてくれる。だが、彼が足を踏み入れたのは、「Snow」の縄張りと、長年の宿敵である「岩本組」の縄張りが交錯する、最も危険な境界線だった。
路地裏の角を曲がろうとした、その時だった。
ドン、と。
強い衝撃と共に、大柄な男と正面から肩がぶつかった。
💜「あ、わりぃ……って、」
深澤が反射的に謝りながら顔を上げた瞬間、全身の毛穴が総毛立つような、圧倒的な威圧感に襲われた。
街灯の鈍い光に照らされて浮かび上がったのは、仕立ての良い漆黒の高級スーツ。外見は完全に狂犬、中身は筋トレの鬼として恐れられる冷徹な目──
「岩本組」の若きトップ、岩本照だった。その斜め後ろでは、右腕の向井康二がいつでも銃を抜けるよう、プロの顔で静かに息を潜めている。
💛「おい、お前……」
岩本の低い声が響く。いつもなら、宿敵「Snow」の若頭が一人でいるのを見つければ、その場で容赦なく蜂の巣にするのが岩本照という男だった。
だが、今夜は違った。
街灯の不確かな光に照らされた深澤の顔。少し潤んだ、しかし意思の強い瞳。どこか儚げでありながら、修羅場を潜り抜けてきた男独特の色気が滲み出ている。
すれ違うその刹那、目が合った瞬間に、岩本の脳内で何かが激しく弾け飛んだ。
💛(……待って。なんだこの男、めちゃくちゃ顔がうるわしい。肌白い。え、骨格もストライクなんだけど。っていうか超好み!!!!!)
見た目は般若のような厳つさのまま、岩本の脳内は完全に「一目惚れ大パニック」を起こしていた。敵意や警戒はどこへやら、強靭な理性が一瞬で消し飛ぶ。
触れ合うほどの距離で、二人の視線が火花を散らすようにぶつかり合う。岩本から伝わる強烈な殺気(※本当はただのガン見)に、深澤は一歩大きく後ろへ下がり、若頭としての冷徹な光を瞳に戻した。
💛「めっちゃ好み…」
💜「……冗談は、アンタの組の若い衆の前だけにしてくれ。ここは俺たちのシマだ。『岩本組』がここで勝手な真似すりゃ、長年のしきたりがどう動くか、組長なら分かってるだろ」
深澤は乱れたスーツの袖口をキリッと端正に整え、冷たい一瞥を岩本に投げかける。そして、それ以上の追随を許さないプロの速度で、闇に溶けるようにその場を去っていった。
残された岩本は、すれ違った深澤の後ろ姿をじーーっと見つめたまま、一歩も動かない。
🧡「……ボス? 大丈夫ですか? 今のSnowの若頭ちゃいます? 撃ちます? 追います?」
それまでプロの顔で待機していた康二が、困惑気味に岩本の顔を覗き込む。
💛「康二……」
🧡「は、はい!」
💛「……あの人の連絡先、今すぐ調べて」
🧡「……へっ?」
岩本は、胸の奥でメラメラと狂暴な独占欲(とピュアな恋心)を燃え上がらせていた。強引に奪うのではない。あの誇り高き「Snow」の若頭を、じわじわと自分の足元へ引きずり下ろし、最終的には俺の隣に座らせてみせる。
🧡「え、ボス? 正気ですか? 岩本組はあそことは長年のライバルで──」
💛「うるさい、早くしろ」
敵対する「Snow」と「岩本組」。
夜の境界線で起きた一瞬の「すれ違い」が、二人の運命をさらに深く、そして岩本の空回りしそうな執着の渦へと引きずり込んでいく。
一方、同じ街の別の場所でも、もう一つの運命の歯車が、音を立てて回りはじめようとしていた。
コメント
1件
めかぶぷりんさん!!待って待ってこの52話、神回すぎるだろ!!😭💕 「Snow」×「岩本組」の若頭同士の境界線でのすれ違い——しかも深澤くんは理想を抱えてもがく美しすぎる儚げイケメン、岩本くんは見た目は狂犬なのに脳内で「めっちゃ好み!!!」って大パニック起こしててそのギャップに鼻血出たわ🩸💥 「連絡先調べて」って康二に言い放つ岩本くん、完全に沼にハマった顔してるじゃん…笑 しかも「岩本の空回りしそうな執着の渦」って表現がもう最高で、この先のじわじわ攻略が楽しみすぎる!!最後の「もう一つの運命の歯車」も気になりすぎるよォ〜!!続き早く読みたいです、めかぶぷりんさん素敵な作品をありがとうございます🌸✨