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バーから出て、退勤したあとも俺はガルネンからの提案に乗るか逸るか揺れていたままだった。シャブのせいかずっと眠れずに俺は完全に夜を明かした。

「今は考えてたって仕方がない。猶予はあと6日もある。今日はしっかり休もう。」

俺はもっと別のことを考えて眠れるようにした。ガルネンと同じと言っていた、俺の出身についてだ。俺の夢を叶えるためには、もう一度考え直さなくていけない。




俺はある異国の地の孤児だった。生まれつき孤児だった。生みの親の顔も名前も知らないのだ。アノルドミンスト教会という場所で、ある赤ん坊は引き取られた。

「貴方の名前は、今日からシャルル・アストルフォン・スタンライです。」

アストルフォンというミドルネームは正に、アノルドミンスト教会の孤児だという証。つまり、ユング・ガルネンという名前も、本当はユング・アストルフォン・ガルネンであるはずだ。

…初め俺は家族とはこういうものなのだと思っていた。思い込んでいた。子供は全員が全員、どこかの教会の孤児院に所属していて、ある程度教養も付けられて、シスターや神官と遊んで、野菜を作る。しかし、寄付に来てくれた親子連れと鉢合わせたとき、俺はなんだかがっかりした。親というものは存在していて、俺たちの方がおかしい。それに気づいた俺の心はまるで井の中の蛙だった。しかも、その子供は、汚らしい俺を見て唾を吐いた。それからというもの、日々の生活にはいつも違和感を感じており、その感覚は胃に石が入ったようにずんと重くのしかかる。日を増す事にその重さは小さい子供では支えきれなくなり、どうしようもなくなって俺は集落を飛び出した。

辿り着いたのは一つの都市のスラムだった。スラムでは住んでいる人々が獲物を見つけたかのように俺に飛びかかった。姿はみすぼらしいが血色は良い。獲物と断定するには今考えれば想像し難くない。丸裸にされ、半殺しにされ、俺は意識を失った。この時、当時はどんなに無力だったか考えたくもないくらいにボコボコだった。しかし、俺にはある種の渇望が芽生えた。

目覚めると見知った重苦しい教会の天井だった。奇跡的にも俺の育ての父である神官が俺を見つけ、保護と治療をしてくれたようだ。今考えれば奇跡的でもなんでもない。神官が俺を保護できた理由は、追跡の経験によるものだ。俺はこのとき、生まれて初めて駄々をこねた。ねだった。

「僕に殺しを教えてください。」

「言われなくとも。そうするつもりですよ。その時が来たらね。」

アノルドミンスト教会はもともと、孤児を引き取り、その孤児を当国が利用できる人間として売りに出す場所であった。要するに、人間殺戮兵器の育成場所だ。これを子供が社会に通用する大人に成長させるという名目で行われている。志願すれば、この場所の出身であればすぐに公務員になることができる。

一定の年齢に達すれば、人を殺めるための英才教育が施される。俺と同じ孤児の仲間は、その教育にあまり積極的ではなかった。こちらは求めていた教育を受けられて非常に満足だったため、誰よりも強くなろうと必死だった。俺が殺し方を得てまず初めに思った感想は、人間はいかに脆いかである。思い知らされた俺の生きたいという渇望と、邪魔者を消す方法は表裏一体で、光があれば闇があるように双方の色は濃くなっていった。

俺は15歳で教会を巣立った。意外に思われるかもしれないが、俺は邪魔者を裏で処理する国家公務員には志願しなかった。それよりももっと良い労働場所を見つけたからだ。俺が目を付けたのはジャパンの公安機関という場所だった。そこは治安も良く、かつ厳しい訓練と教育を条件つきでほぼ無償で行ってくれる場所だ。3年の月日を経て、そこに辿り着いた。




ちなみに、ガルネンが俺にナイフを突き立てたやり方は、まさしくアノルドミンスト教会で教わる最もオーソドックスな殺し方だ。通り魔的なそれは、敵の警戒心をほぐしてから一気に仕留めるやり方だ。彼は俺にそれを行い、俺を試したのだ。しかし、俺がその攻撃避けなかったのには、教会でこのようなことも教わるからだ。

「使えるものは全て使いなさい。」

「自分の体は常に温存しなさい。」

「人生にも戦闘にも装飾は要りません。ただ仕留めるための最短を考えなさい。」

これらの考えのもと、俺が防弾チョッキを着たうえでナイフを避けるのかどうかでその実力がガルネンは知りたかったのだろう。不名誉ではあるが、俺はその試験をパスしたようだ。実力が必要ということはつまり、彼が行う実験には相当の危険が伴うということだ。その辺りを1度明白にしておく必要がある。それから彼に協力するかしないかを考えても全然遅くはない。場合によっては公安機関として彼を止める必要だってあるだろう。




ようやく眠りにつけた。出動交代の前に、俺はクワッド12の隊員の1人に、見回り中の独断行動について少々きつめに説教を喰らった。もっと労働の姿勢改めるべきだと。いらない説教を聞き終えた俺は、訳もなくタイガの部屋を訪れた。俺は誰かに会いたくて助けを求めているのかもしれない。

「タイガ。」

「よう。」

「船酔いはどうなんだ。」

「随分慣れたよ。今日は一体どうしたんだ。」

「…不安で、誰かに会いたくてな。」

事情も知らないタイガはその台詞を聞いて笑う。ムッとしたが、今はそれくらいであしらってくれた方が丁度いい。

「あまり笑い事じゃないんだ。例えば…そう、これは例えばの話だが、この船の行く末を俺が全て握っているとしたら。」

タイガは事情を知らないなりに何か俺の思惑を汲んだのだろう。厳つい顔の眉間にシワが増え、さらに渋い顔になる。

「別に不自然ではないが。クルーズの運転は、全てコンピュータが行っているんだ。シャルルなら、その気になれば機械系統を掌握して行く末を決められるんじゃないか。」

「行く末とは到着先という意味じゃない。タイガを含む乗客、全員の未来の話だ。船を降りた先のことだって、俺が決められるとしたらどうだ。」

「胸に手を当てて考えてみろ。例え話が真実なんだとしたら、いくらなんでも傲慢だと思うぞ。そこまで他人を巻き込んでお前は一体何をしたい。」

タイガの口調が変わり、少し荒々しくなる。違う。求めていた答えではない。正論が欲しいのではない。俺はきっと、この計画に参画するための共犯者が欲しいんだ。俺を肯定して、俺に協力して、俺と同じ行く末に行き着く人が。

「…ありがとう。目が覚めた。予定が無かったら、夜食に付き合ってくれ。やはり今日は寂しい夜だな。」

「予定なんてこんなところで、あるはずが無いじゃないか。俺も激しくなってしまって悪かった。なにかな、さっきのシャルルはおかしい気がしたんだ。道を踏み外してしまいそうなら俺が正すからよ。」

共犯者が欲しい。そんなつもりなら、初めから俺の腹は決まっていたではないか。何をうだうだと悩んでいたのだろう。

不死身«クリーチャー»

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