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二階堂君を堕落させる方法

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二階堂君を堕落させる方法

12 - 第12話 三日目③ 活火山に針を

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2025年06月27日

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「こんな時に、どうしたのかしらねぇ?」



俺の異変を見て取り、女は妖しい囁きの吐息を俺の耳元に吹き掛けてくる。



こいつの言う事は腹ただしいが、もっともだ。



死火山は何故か活火山になっていたのだ。



こんな事、専門学的に有り得るはずが無いのに――



「うぅっ!」



不意に女は噴火間近の活火山を、無造作に掴みながら煽る。



「私の思った通りだわ。貴方は真性のマゾなのよ」



俺がマゾヒズム……だと?



「こんな状況で悦んじゃうんだものね!」



違う! そんなはずは無い。



俺は支配する側の人間だ。断じてされる側ではない。



しかし俺の思いとは裏腹に、火山は鎮火を迎える処か、ますます噴火に向けて一直線だ。



「嬉しいわぁ……ジョンが悦んでくれて。でもこれじゃアメになっちゃうわ」



上下への摩擦をピストン運動という。



その運動エネルギーは絶大で、鋼鉄の塊すらも動かす。蒸気機関車がいい例だ。



女は無意識なのかわざとなのか、明らかに噴火を助長していた。



「――っ!!」



止めろ、それ以上は!



「そうだわ! 良い事思い付いちゃった」



ピタリと女の動きが止まる。危なかった。



だからお前の良い事なんて、ろくな事じゃないんだよ。



「ここは血液が流れ込んでこうなるって知ってる?」



当たり前だ。そんな事は馬鹿な凡人でも知っている。



――って、まさか……?



まさかまさかまさかまさか!?



「ここの血もきっと美味しいんでしょうねぇ……」



だからこんな時にシックスセンスは邪魔なんだよ!



俺は事前に知ってしまった。この先に訪れる饗宴を――



「じゃあイクわよ!」



本当に嬉しそうに……愉しそうな声で。



「イッツ、アイアンメイデン!」



本当の地獄が今始まる。



コキュートスへの扉が開いてしまったのだ。



「ブモォォォォォ!!」

『止めろぉぉぉぉ!!』



しかしその声なき声は言葉にはならない。



その身の毛もよだつ、女の異常なまでの性癖に俺は必死に逃れようと身を捩るも、縛りつける鉄錠はビクともしない。



「あらあら、そんなに待ちきれないのね……。心配しなくてもすぐよ」



一体何処をどう見れば、俺が待ち望んでいるように見えるのか。



「そんなに悦んじゃって。刺したら一体どうなるのかしらね?」



そうなのだ。俺の思いとは裏腹に、愚息は暴走モード継続中なのだ。



これでは奴が勘違いするのも無理はない。



ならば方法は一つ――



“モード反転 コードゼロ~ リバースブラッド”



これで血流を逆流させる。



流石にこの馬鹿も、血液が無くなれば刺しても無駄な事に気付くだろう。



マグマは逆流し、噴火は収まる――



「おほほほほ! ますます高くなっていくなんて凄いわ!」



ーーはずなのに何故だ?



一向に収まる処か、膨張はビッグバンに向けて一直線。それは第六宇宙速度すらも超える。



「もう我慢出来ないわ!」



女の悦叫は最終安全装置解除の狼煙。



シックスセンスにより、向けられた針が近付いてくるのがありありと感じられる。



「真っ赤なぁ湖畔のぉ森の影からぁ!」



陽気な鼻唄と共に。



いやだ――



「バモォォォォォォッ!!」

『いやだぁあぁぁぁっ!!』



訪れる惨劇。晴天の霹靂。



もはやプライドも糞も無い。



それだけは絶対阻止。懇願の極致。



あるはずだ。この窮地を回避出来る策が――



そうだ、ギブアップだ。



仮の敗北を上辺だけ認めればいいのだ。



身も心も魂も、奴に売ったふりをして反撃のチャンスを伺っていればいいのだ。



「オボボァッ!!」

『ギブアップ!!』



そうと決まれば善は急げ。俺は高らかに敗北を宣言する。



「慌てないの。もうすぐよ」



しかし女に針を止める気配は微塵も無い。



俺が仮にも敗北を認めたのだぞ?



「オボボァッ! オボボァァッ!!」

『ギブアップ! ギブアッープ!!』



「おほほ。何を言ってるのかしらね? そう、そんなに欲しいのね。こんなに喜んでるんだし」



何を言ってるんだ、こいつは?



そうだった。俺は今、声が出せない状態だったのだ。



これでは奴に都合の良い解釈をされるだけ。



「大丈夫よ。使い物にならなくなったら私も困るし、変な所には刺さないわよ」



何を根拠に大丈夫だと言うのか。



無茶苦茶な理論を女は愉しそうに語る。何処に刺そうが一緒だというのに。



傷物になった時点で文化価値は皆無。金額では決して賄いきれない。



他の方法は?



次なる一手を考えている間も無く――



“プスリ”



「――ッボァァァァァァァ!!」

『――ぁぎゃああぁゃあぁぁ!!』



最も敏感かつ最も崇高な聖地へ、痛烈な衝撃が走ったのだ。



それは魂の煉獄。現世の阿鼻叫喚。



最も恐れていた事態が、遂に現実のものへとなってしまった。

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