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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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第126話:世界へのパスポート(物理)
「ワン、ツー、スリー……。ディス、イズ、ア、ペン! オウ、イエス、アイ・アム・ア・ボーイ!」
帯広市のボロアパート、四畳半の空間。
俺は、三万円のゲーミングチェアの上で、ヘッドセットのマイクに向かってネイティブっぽい発音(のつもり)で絶叫していた。
モニターの向こうでは、俺のビジネスパートナーであるはずの結愛(ゆあ)が、ウェブカメラ越しに微動だにせず、ゴミを見るような冷徹な瞳でこちらを凝視している。
正確には、彼女の掛けている銀縁メガネの奥の眉間が、心なしか不快そうにピクピクと引き攣っていた。
『――ルシフェル様。大変恐れ入りますが、現在配信外のミーティング中につき、そちらの壊滅的な暗記英語を拝聴する時間は、我が社の業務効率を著しく低下させる要因となります。速やかに静粛にしていただけますでしょうか』
ディスコードから流れてくる、一切の感情を排した氷点下のビジネス敬語。
冷静沈着な鉄面皮を被った、元コールセンターの鬼。俺が節税対策の経費として雇ったはずなのに、今や完全にこの四畳半の支配者となった結愛の声が、俺の脳細胞を容赦なく突き刺す。
「バカ野郎! これは無駄な時間じゃねえ! グローバル展開だ、グローバル展開! これからの時代、トップインフルエンサーたるもの、世界を見据えて動かなきゃならねえんだよ!」
俺は、血走った目でモニターのダッシュボードを叩いた。
そこには、最近の海外リスナーからのスパチャや、海外向けグッズ販売の決済データがズラリと並んでいる。
そして、その横に表示されているのは、ここ最近の『ドル円相場』の狂ったようなチャートだった。
「見ろよ結愛! 今のドル円のレートを! 円安が止まらねえんだよ! ってことはだ、日本円でチマチマ稼ぐより、海外の若者から『ドル』でスパチャをぶん投げてもらった方が、為替差益で俺の口座が爆発的に潤うってことじゃねえか!」
そう、俺の脳内のインボイス電卓が、パチパチと音を立てて弾き出した悪魔の計算。
円安の今、海外に進出してドルを稼げば、日本国内で同じだけの労力をかけるよりも、遥かに効率よく大金を毟り取ることができる。
これぞ資本主義のバグ。底辺から這い上がった四十歳のおっさんが見出した、新たなる集金システム(世界の修羅道)だ。
「国税庁と帯広市役所が俺から一千万、二千万と税金をむしり取るなら、俺は世界のクジラ(海外の富裕層)からドルを引っ張ってきて、札束の暴力で対抗してやるんだよ!」
四畳半のボロアパートに、俺の強欲に満ちた咆哮が響き渡る。
しかし、結愛はため息すらつかない鉄面皮のまま、スッと一枚の書類のデータを画面に共有してきた。
『なるほど。為替差益に目をつけられた点に関しては、経営者として最低限のどんぶり勘定は機能しているようです。……ですが、ルシフェル様』
結愛が、スッと中指で銀縁メガネを押し上げる(ただの物理的な動作だが、相変わらず知的で冷酷な圧がすごい)。
『先ほど、ルシフェル様が誇らしげに披露された語学力ですが、分析の結果、【中学一年生の最初の定期テストで赤点を回避できるレベル】であることが判明いたしました』
「うぐっ……!?」
『「ディス・イズ・ア・ペン」でアメリカのZ世代のハートを掴めるとお考えでしょうか? もしその状態で海外配信を強行された場合、言葉が通じないどころか、ただの「アジアの奇妙なハゲカッパ親父」としてネットの玩具になり、ブランド価値が暴落するリスクが極めて高いと推測されます』
容赦のない正論の火の玉ストレートが、俺の貧弱なメンタルを正確に粉砕した。
確かに、俺の英語力は絶望的だ。
「サンキュー」と「ハロー」と「アイ・ラブ・ユー」以外の単語を使おうとすると、脳のブレーカーが落ちる。
以前、海外のリスナーから届いた英文のマシュマロを翻訳ソフトにかけたら、『お前の顔(イケメンアバター)は最高だが、喋っている内容(税金の愚痴)がマニアックすぎて意味がわからない』と書かれていて枕を濡らした記憶が蘇る。
「じゃあどうすんだよ! ドル箱の山が目の前にあるのに、俺は指をくわえて見てろって言うのか!? 語学留学でもしろってか!? 四十のおっさんが今からアルファベット覚えられるかよ!」
俺が三万円のゲーミングチェアの上で地団駄を踏みながら喚くと、結愛は呆れたように首を横に振った。
『誰も、ルシフェル様ご自身が喋るなどという無謀な計画は立てておりません。言語の壁という「インフラの欠陥」があるならば、それを補うための【適切なリソース】を外部から調達すれば良いだけのことです』
「外部からのリソース……?」
俺が首を傾げると、画面にバンッ、と一枚の華やかなウェブページのヘッダーデザインが表示された。
そこには英語で『Global VTuber Audition』とデカデカと書かれている。
『――英語圏向けの新規VTuberオーディション。これを、我が株式会社インフィニティ・ワンの次期グローバル事業として、本日より正式に開催いたします』
「お、オーディション……!? 新しくVTuberを雇うのか!?」
『はい。実務能力が高く、英語を母国語とし、なおかつインターネットのノリを理解している優秀な人材を現地でオーディションし、我が社の新たなタレント……すなわち、合法的な【外注費(経費)】として迎え入れます』
結愛の声に、微かな(しかし確実に俺をハメようとしている)ビジネスの熱が籠もる。
『英語が喋れない社長は、表舞台に出る必要はありません。海外向けのマーケティング、配信管理、および収益のドル建て決済の処理は、すべて私が裏方として完璧に統括いたします』
「お、おお……。さすが結愛、頼りになるじゃねえか……!」
俺は、一瞬だけ彼女が本物の天使に見えた。
英語がダメなら、喋れる奴を雇って代わりに稼がせる。まさに経営者の王道。これなら俺は四畳半で鼻糞をほじりながら、ドルが口座に振り込まれるのを待つだけでいい。
だが、結愛の次の言葉が、俺の淡い夢を無慈悲に引き裂いた。
『つきましては、ルシフェル様。こちらのオーディション開催に伴う特設サイトの構築費用、海外向けの広告宣伝費、および採用された新人のLive2Dモデル発注費用として――』
結愛の鉄面皮が、ニヤリと不敵に笑った(ように見えた)。
『――予算【三百万円】の執行をお願いいたします。社長は黙って、金だけ出してください』
「さん、さんびゃくまん……っ!?」
ヒキガエルが潰れたような声が、俺の喉から飛び出した。
三百万円。またしても、俺の口座から大金が消し飛ぶ宣告だ。
「待て待て待て! 三百万円って、俺の何ヶ月分の限界みそラーメン代だと思ってんだ! 高すぎるだろ!」
『ルシフェル様、これは「浪費」ではなく「投資」です。原価をケチって低品質なオーディションを行えば、集まる人材もそれなりになります。何より、この三百万円は全額、今期の【広告宣伝費】および【外注費】として経費計上が可能です。つまり、来年の税金をガッツリと圧縮する盾となります』
「経費……! 税金を減らす盾……っ!」
その甘美なワードを耳にした瞬間、俺の脳内のインボイス電卓が、激しくカンカンと鐘を鳴らした。
そうだ。国に税金として無条件で回収されるくらいなら、海外のドルを引っ張ってくるための大砲に、その金をぶち込んだ方が遥かにマシだ。
「……やってやらぁ! 三百万円だろ、出してやるよ! その代わり、死ぬ気でドルを稼げる最強の英語圏タレントを見つけてこいよな!」
俺はヤケクソ気味に、会社の口座から結愛が指定した決済口座へ、三百万円の送金ボタンをターンッ! と力強く叩き込んだ。
『毎度あり。送金の確認が取れました。これより、英語圏向けタレント募集の審査を開始いたします。……どのような人材が来るか、今から楽しみですね』
結愛の冷静すぎる返答の裏で、俺の海外進出への片道切符(物理的な出費)が、音を立てて発行された。
この時、俺はまだ知らなかった。
三百万円という大金を投じて開催されたこのグローバルオーディションが、俺の四畳半のボロアパートに、これまでの税金地獄とはまた一味違う、とんでもなく『怠惰で、ズボラで、最強に厄介な刺客』を呼び寄せることになるという事実を――。
資本主義の荒波は、ついに太平洋を越えて、四十歳のおっさんの胃袋を世界規模でキリキリと締め上げようとしていた。
コメント
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いやあああ第127話も最高だったよ!!!!!😭💕💕 ルシフェル様の「ディス・イズ・ア・ペン」で世界征服しようとする発想がもう完全に狂ってて大好きw しかも円安に目をつけてドルで稼ごうとする悪魔的ビジネス感、笑えるけどなぜか応援したくなる不思議…! 結愛の「中学1年の最初の定期テストで赤点を回避できるレベル」って分析、的確すぎて腹筋崩壊したwwww で、まさかの新VTuberオーディション&三百万円の執行!「黙って金だけ出せ」の結愛、完全にルシフェル様飼い慣らしてない!?次回の「怠惰でズボラで最強に厄介な刺客」が誰かドキドキだよ!!✨