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かかお
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「佐伯さん、大変!」 昼頃、クラスメイトの高松さんが、私を見つけて駆け出してきた。
「え? 同じ担当の人が来ない!」
私は、思わず大きな声で叫んでしまう。その時間の担当は南ちゃんと、絵本ちゃんだった。
「ごめん。私達で回そうとしたんだけど、やっぱり二人では厳しくて……」
「当然だよ、四人でやる想定なんだから! ごめんね! すぐ行くから!」
三年生の代表に事情を話してクラスに戻らせてもらったら、そこには一人で必死に回していてくれた藍田さん。高松さんが私を呼びに行っている間に、一人でお店を回してくれていたみたいだ。
「ごめんね。私も手伝わせて……」
私は思わず黙り込んでしまう。
[良かった。……痛い。痛い。痛い]
そんな悲痛な声が響いてきたからだ。
その声は藍沢さんで、思考を読むと鉄板で手首を火傷していたけど、我慢して作業を続けてくれていたらしい。咄嗟に「冷やしに行って」と口走ろうとなり、口を噤む。
待って。藍沢さんは火傷のことを言っていない。今、言ったら変だよ。
大丈夫。自分で冷やしに行ってくれるから。
そう思っていたけど、藍沢さんは「材料を使い切ってしまったから切って」と言い、火傷のことを口に出さない。
聞こえる。我慢する気なんだ。迷惑かけるからって。
だめだよ。早く冷やさないと、悪化して。藍沢さんをチラッと見るけど、背を向けて作業をしてくれているから、指は見えない。
いきなり回り込んで、火傷のことを言い出すのは明らかに不自然過ぎる。
高松さんは、別のホットプレートで調理してくれているから、気付くはずもない。
どうしよう。このまま放っておく? 交代が来るまで三十分も?
そんなの。
「藍沢さん。手首、大丈夫?」
「……え?」
気付けば、私は声をかけていた。
「直子? え! どうしたの?」
「あ、なんでも」
そう言い、藍田さんは右手をサッと隠す。
「見せて!」
高松さんが、隠された手を無理矢理取ると、それは赤く腫れていた。
「あ。ごめん。不注意で」
「バカ! 冷やさないと」
「私、大丈夫だから!」
「だめ! まず、冷やさいと! ごめん、私も抜けて良い? 他の人いたら応援頼むから!」
「無理しないで。大丈夫だから」
「本当にごめんね! さあ、早く行くよ!」
高松さんは、藍田さんの手を引っ張って走って行く。
その姿に、胸がチクリと痛んだ。
一人になってしまったけど、大丈夫。
藍田さんは焼き上げてくれていたし、高松さんのを引き継げば交代の人が来るまでに間に合う。
そう思いながら作業を続けていく。
いいな。二人とも。
高松さんは藍田さんを本気で心配していた。
保健室に同行したのも、藍田さんは迷惑だと思って行かないと、分かっていたからなんだろうな。
あれが真の友情なのだろうと、やっと分かったような気がした。
一人になってしまったけど、大丈夫。
二人はかなり頑張ってくれていたみたいで、仕込みは出来ている。
交代の人が来るまでに、これを使えば間に合うから。
作業を続けて十分。
私の額には、汗が滲んでいた。
どんどん減っていく刻んだキャベツに、それに反比例して増えていく人。
今作った分を詰めても、並んでいる人全員には行き渡らないだろう。
そしたら材料がなく、キャベツを刻むところから始めないといけない。
そこから焼き始めたら、時間がかかり過ぎる。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
誰か呼ぶにも、私はクラスメイトの電話番号を知らない。
一人だから、誰かを呼びにいけない。
とにかく、焼かないと!
あ、でもキャベツがなくなる!
気付けば私の頭は色々な考えでいっぱいになり、パニック状態だった。
「すみません。今、準備しているので待ってもらえませんか?」
しっかりした敬語。だけど、その声は聞き覚えがある。その声は。
顔を上げると、そこに居たのはやっぱり。
「長谷川くん」
「俺が焼くから、お前はキャベツを刻め! 大丈夫、二人いたらなんとかなるから」
「うん」
私が材料を刻み始めていると、横で長谷川くんが目にも止まらない手捌きで焼きそばを焼いていく。
毎日、料理しているから分かる。彼は手慣れだと。
こうやって繰り返すこと数回。先程までの混雑は嘘のようになくなり、一息吐けるぐらいまでになった。
「ありがとう。来てくれて」
「別に。担当の女子達に言われただけだから」
「そっか。助かったよ」
「たまたまだし」
「段取りが凄くいいねー。バイトとか、家事とかやってるんじゃないの?」
「はぁー? まぐれだし!」
「料理はそんなに簡単じゃないよ?」
「うっせー!」
話しながら仕込みのキャベツを刻んでいると、いつの間にか交代時間になっていて、クラスメイトが来てくれた。
長谷川くんが手伝っている姿に驚いているようだったけど、次の瞬間には頬を緩めていた。
彼の優しさが分かってくれたら良いな。
そう思いながら、私は保健室に向かった。
「大丈夫だった?」
「さっきはごめんね。もう痛くないよ。先生も大丈夫だって。それより、店は?」
「良かったー。次に繋げたよ。長谷川くんに応援頼んでくれたんだよね? 私だけなら無理だったよ」
二人は、顔を見合わせて首を横に振る。
「……え?」
その返事に、私は今までの違和感にようやく気付く。
そっか。そうだったんだ。
だからあの時、体調悪いフリをしたんだね。
私を言いなりにさせてきたんだね。
自身の秘密を告げようとした私の口を塞いでくれたんだね。
誰も聞いていないと思っていたけど、それは違った。