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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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第159話:著者近影の誤算〜覆面作家とLive2Dモデル〜
「……ひぃ、ひぃ、書けた……! 三千五百文字達成したぞ結愛ぁぁぁ!!」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上に突っ伏し、血の涙を流しながらキーボードから手を離した。
結愛(ゆあ)による鉄パイプ並みのバインダー監視のもと、一日三千五百文字という地獄の執筆ノルマに耐え続けること十数日。
一日一食の玄米おにぎりでギリギリ保たれていた俺の脳細胞は、文字数の拷問によって完全に灰となりかけていた。
『お見事です、ルシフェル様。本日のノルマ達成ですね。バインダーの出番がなくて少し残念です』
「残念とか言うな! 殺す気かよ!」
俺が悲痛な叫びを上げていると、PCの画面に一通の通知音がピコンと鳴り響いた。
大手出版社K〇D〇K〇WAの担当編集・S氏からのメールだ。
「ん……? Sさんからだ。なんだ? まだ文字数が足りないとか、修正(リテイク)の指示か……?」
俺がおそるおそるメールを開くと、そこにはこう書かれていた。
『秋谷先生、執筆お疲れ様です! 原稿の進行、素晴らしく順調ですね! つきましては単行本の装丁(カバーデザイン)に入りますので、本のカバー袖(内側)に掲載する【著者近影(ご自身の顔写真)】とプロフィールを送ってください!』
「か、顔写真ぇぇぇぇぇぇっ!?」
俺はゲーミングチェアからガタッと立ち上がり、ディスプレイを二度見した。
「冗談だろ!? 顔写真なんて載せられるわけねえだろ!!」
『当然ですね』
ディスコードの向こうから、結愛が冷淡に同意する。
『ルシフェル様が顔写真を全国展開した場合、帯広のボロアパートの特定、コールセンターの職場への嫌がらせ、陸別のクズ親父による再度の粘着、さらにはケースワーカー鈴木様からの監視強化など、破滅的なリスクしか生じません』
「そうなんだよ! 俺は顔バレしたら社会的に死ぬんだよ!!」
俺は慌ててキーボードを叩き、編集S氏に返信した。
【身バレすると命の危険(と税金的な意味での追及)があるので、顔写真は絶対に無理です! 完全覆面作家でお願いします!】
すると数分後、S氏からすぐに返信が来た。
『なるほど、ご事情は察しました! ですが先生、カバー袖に写真もイラストもないと、売場で非常に寂しい印象になってしまいます……。何か先生のシンボルとなる『オリジナルキャラクターの画像』などはありませんでしょうか?』
「オリジナルの……画像……?」
俺が腕を組み、うーんと唸っていると。
『……ルシフェル様。我が社には、全世界に誇る完璧なアバターが存在するではありませんか』
ウェブカメラの向こうで、結愛がスッと眼鏡のフチを指で押し上げた。
「えっ? アバター……? まさか……」
『はい。我が社の看板VTuberであり、ルシフェル様が手塩にかけて生み出した(?)猫耳美少女『ヨモ』のLive2Dモデル画像です』
「おいおい結愛! 本の著者は俺(四十歳のおっさん)だぞ!? 本文は『四畳半で玄米食ってインボイスに怯える悲哀のドキュメンタリー』だぞ!? カバー写真に萌え美少女のLive2Dモデル載せたら意味不明だろ!」
『問題ありません。VTuber業界において「中の人」と「アバター」のギャップは日常茶飯事です。むしろ、視覚的なインパクトとしては最高峰のフックになります』
『提案に賛同いたします』
AIアシスタントのジェミニ先生も無機質な合成音で乗っかってきた。
『Live2Dモデルのヨモさんの画像をカバー袖に配置し、肩書きを「著者:秋谷雪(ルシフェル社長)」と記載することで、近年のトレンドである「バズ系実録ノンフィクション」としてのシュールな美しさが完成いたします』
「シュールな美しさってなんだよ!!」
俺の抵抗も虚しく、結愛によって速攻で高画質の「ポーズを決める猫耳美少女ヨモ」の画像が編集S氏へ送信されてしまった。
◇
――それから数ヶ月後。
十万文字の執筆ノルマと、その後の血を吐くような校正作業(ゲラチェック)をすべて乗り越え、完全に燃え尽きていた俺の四畳半アパートに、一冊の【完成見本(見本誌)】が届いた。
「つ、ついに出来上がったのか……! 俺の血と汗と涙の結晶が……!」
俺は震える手でダンボールを開封し、重厚な単行本を手に取った。
表紙タイトルは力強く躍っている。
『憧れるだけで何者にもなれなかった40歳ニート。VTuberになって若者に「おじさんのリアル」を語ったら、なぜかスパチャで月収100万を超えたんだが?』
「おおおお……! 本物だ! 本当に本になってる!!」
俺は感動に打ち震えながら、本をくるりとひっくり返し、問題のカバー袖(著者近影)を開いた。
そこに印刷されていたのは――
キラキラとした瞳で萌えポーズを決め、猫耳をピンと立たせた超絶カワイイ美少女VTuber『ヨモ』の完璧なLive2Dグラフィック。
そして、その横に添えられた著者プロフィール。
【著者:秋谷雪(あきや・ゆき)】
帯広の築三十年ボロアパート(四畳半)に潜伏する四十歳元生活保護受給者。一日一食の玄米おにぎりと冷えた麦茶を主食とし、インボイス制度と二重課税の恐怖に震えながら、日々税金と戦っている。
「シュールすぎるだろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
俺は四畳半の畳の上で、頭を抱えて絶叫した。
見た目は可憐な萌え猫耳美少女!
だが、中身は四畳半で玄米をかじる四十歳のおじさん!
外見と本文のギャップが完全にバグを起こしており、どこからどう見ても「狂気の本」にしか見えない狂作が誕生してしまったのだ。
『素晴らしい仕上がりですね、ルシフェル様』
画面越しに完成本を確認した結愛が、淡々と評する。
『萌え絵に惹かれて購入したライト層の読者が、ページを開いた瞬間に「四十歳おじさんの泥臭い税金地獄」に引きずり込まれる。まさに最高級の罠(トラップ)本です』
「騙し討ちじゃねえか!! 読者から詐欺だって怒られるわ!!」
『安心してください。このギャップこそが、現代の出版界で最もバズる要素なのですから』
自分の書いた本(地獄のシュール本)を抱え、帯広の四畳半で頭を抱える四十歳の底辺社長。
こうして、著者近影という名の事故によって産み落とされた問題作は、ついに全国の書店へと出荷されていくのであった。
コメント
1件
いやあ、またもや狂気の沙汰ですね…! 著者近影にLive2Dモデルって、もう完全に「ギャップ芸」を通り越して新しいジャンルですよ(笑)。四畳半の玄米おじさんがカバーだけ美少女VTuberって、この構図だけで一冊の本になるカオス感。 でも構造的に言うと、出版の実務「顔写真を載せられない」という制約から生まれた解決策がここまで突き抜けるのは、逆にすごい整合性だなと。伏線の回収、といっていいのか分からないけど、こういう細かい設定の積み重ねが作品の味になってますね。シュールだけど「ありえる」と思わせるディテールが好きです。