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船内にある厨房へ入るとスコルとストレルカが仲良く料理していた。これは奇跡かな。
「……ですので、ここで調味料を」
「なるほど!」
スコルが先生のように指導しているようだ。既に良い匂いがしているし、お腹が減る。完成にはまだ掛かりそうだし、一声掛けておこう。
「二人とも、ちょっといいかな」
「あ、ラスティさん。どうかしたのですか?」
「うん。悪いんだけど、俺とハヴァマールで、ちょっと共和国の様子を見に行こうと思う。まだ掛かるよね?」
「そうですね。もうちょっと掛かります」
「それじゃ、完成までには戻るよ」
「分かりました。ストレルカさんもいいです?」
スコルが聞いてくれた。
「ええ、構いませんよ。お気をつけて」
二人はまた料理に戻った。
うん、邪魔しては悪いな。
◆
グラズノフ共和国へ降り立つ。
島で定住するようになってから、他国へ足を付けたのはこれが初めてだ。共和国自体もこれが初入国。
「ここが『グラズノフ共和国』かぁ。綺麗な街だな」
道は綺麗に舗装され、街灯がどこまでも続いていた。明るいせいか、多くの住民がカーニバルのような騒ぎで夜道を闊歩していた。
「活気があるなぁ、兄上」
「これだけ賑やかだと帝国と遜色ないな」
「うむ。近場を回ってみよう」
「そうだな。お店とか見てみたい」
ひとまず、アイテムショップへ目指してみた。珍しいアイテムがあれば、お土産に買っていこう。高揚した気分で歩き出し、店を目指すと近くの道端で不思議な光景が広がっていた。
そこでは、楽器が独りでに動き出し、演奏をしていた。だ、誰もいないのにどうして楽器が浮いて音を奏でているんだ? 幽霊?
「ほ~、あれはなんだろう。不思議だ」
「ハヴァマールにも分からないのか」
「さあ、分からない。共和国には、珍妙な種族でもいるのかもしれない」
周囲を見渡せば、エルフやドワーフだけではない、ドラゴン族やあまり見かけないダークエルフ、小人や巨人、魚人、妖狐……ホムンクルスもいた。
そうか、グラズノフ共和国とは、いろんな種族の集まりなんだ。
近くのアイテムショップへ入ろうすると、中から男が二人飛び出してきた。
「うわッ、なんだ?」
俺は驚いて避けたが、男は逃げ出していく。もう一人の男が……恐らくショップの店長だろうか、大声を上げた。
「ド、ドロボー!! そいつは盗人だ! 誰か、その男を捕まえてくれ!」
なるほどな、先に出てきた茶髪の男が泥棒か。後から出て来た小太りのおっさんが店長。ならば、人助けでもしてやるか。
俺はゲイルチュールをアイテムボックスから取り出し、そのまま盗人に投げつけた。高速回転する“つるはし”は、茶髪の男の後頭部に命中。
「――ぐへっ!!」
泥棒はそのままぶっ倒れ、店長によって確保された。
「た、助かったよ。兄ちゃん……!」
「いえ、当然の義務を果たしたまでです。で、ソイツは?」
「ああ、この男は『グレゴリー』というドワーフ族。有名な大泥棒さ……まさか、兄ちゃんが捕まえてしまうとはな。コイツは逃げ足が早くて普通は捕まえられないんだ」
そうだったのか。
確かに、一瞬追い付けるか微妙だったけど。
「く、くそォ! レッドカトラスが手に入りそうだったのに……邪魔しやがって!」
グレゴリーは、じたばた暴れて抵抗する。レッドカトラス? この男が持っている武器か。あの剣はカトラスだが、刃が赤かった。レア武器かな。
「おっちゃん、それは?」
「レッドカトラスだな。ブレア姫から頂いたものだ。お店の飾りだったんだよ」
「な、なんだって……」
ブレアがお店に贈ったものらしい。それを盗み出すとは。
「ちくしょう! ようやくブレア姫コレクションがコンプリートすると思っていたんだが、ヘマをした……! 全部収集したら結婚を申し込もうと思ったのに!」
どうやら、とんでもないヘンタイ泥棒らしい。コイツは牢にぶち込んだ方が良さそうだな。ハヴァマールもちょっと引いているし。
「やっぱりな。最近、この周辺でブレア姫がアイテムショップに贈ったアイテムが盗まれまくっていたんだ。どこも困っていたよ。それを兄ちゃんが止めてくれた。ありがとうな」
「いやいや。それより、おっちゃんのお店を見せて欲しい」
「もちろんだとも! さあ、来てくれ。君になら全品を半額で売ってあげてもいいよ!」
マジか! 良い事はするものだな。ちなみに大泥棒グレゴリーは、おっちゃんが衛兵に引き渡した。俺は周囲から賞賛され、気分が良くなった。