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#衝撃のラスト
山根利広
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「配信者の手伝い?」
「そう、面白そうだろ?」
大学で一番よく話すヨシトが、楽しそうに笑った。口元から覗く八重歯が、彼の無垢な笑顔を強調している。
「でもヨシトの好きな配信者って……」
「そう、ホラー。お前は俺をよくわかってるな」
ヨシトがうれしそうに笑って、肩を組んできた。
彼は身長が百九十センチもあって、僕との身長差は十八センチもある。
そんなヨシトから寄りかかられると、バランスを崩してしまう。
「この程度で情けないな。元野球部だろ? お前はもっと肉を食って、また運動した方がいいぞ。こんなモテに全振りした髪と服装をしやがって」
そう言ってヨシトは、僕の髪をわしゃわしゃとかき回した。
「いつもモテなんか意識してないって言ってるだろ」
これは僕たちの定番のやりとりだ。髪をめちゃくちゃにされるのは、今回が初めてだが。
「話は戻るけど、二年生になって大学に慣れてきたからバイトしたいって言ってただろ?」
ヨシトは得意げに、スマホの画面を見せてきた。
近すぎてよく見えないので、一歩下がると手伝い募集の文字が見える。
某動画投稿サイトの画面をスクリーンショットしたもののようだ。
『記録チャンネル』という名前らしいが、聞いたこともない。
肝心のスクリーンショットは、動画の一部らしく手伝いを募集しているらしい。
「白紙宛てまで?」
「そう、我らが白紙さんだ!」
ヨシトの鼻息が荒い。白紙さんという言い方で、これが人の名前なのだと気付いた。
「俺たちと同じS市で、心霊スポットに行く配信してる。だからお前応募してくれよ!」
だからの意味がわからないが、ヨシトの目的だけは伝わった。
「それならヨシトが自分で応募したらいいのに。推しなんでしょ?」
「それはそうなんだけどよ……。実際に会うのは恥ずかしいっていうか。裏側とか見て嫌いになりたくないし……。だから代わりに行って、内情をたまに教えてくれるだけでいいんだ」
僕には推しはいないが、なんとなくその気持ちがわかる気がした。
「だから頼むよ! 一生のお願いだ!」
ヨシトが手を前にパンと合わせて、僕に頭を下げた。こんなに必死なヨシトは見たことがない。
「いいって、頭上げてよ」
僕は慌ててヨシトの頭を上げさせる。こんな風にされたら、周りの目が痛い。
「じゃあいいってことか⁉」
顔を上げたヨシトは、キラキラと期待の籠もったまなざしで僕を見つめる。
正直、やりたくない。
心霊スポットに行くなんて、不謹慎だし何より怖い。
幽霊なんて見たことはない。
しかし実際に目の前に現れたら、世界陸上の新記録でも出してしまいそうだ。
でも、僕の答えは決まっている。
そもそも僕は、人の頼みを断れない。
ましてや、大親友のヨシトからの頼みだ。
「はぁ。わかったよ。とりあえず応募だけね。でも採用されなくても恨まないでよ」
「お前は最高の友達だ!」
その後、僕はその配信者に連絡をした。ヨシトと一緒に考えた文章をメールで送った。
正直、返事が来ないと思っていた。
むしろ来ないでくださいと。
しかしその願いは叶わなかった。
数分後には、すぐに返事が来てしまったのだ。
明日、一八時にO町の珈琲フォーへ
メールには、それだけが書かれていた。
一緒に見ていたヨシトが、「白紙さんらしくて最高!」と喜んでいる。
それとは裏腹に、僕の気持ちはどんどん沈んでいた。
実際に面接して、落ちたらいい。
ヨシトは悲しむかもしれないけど、僕が断ったことにはならないし。
明日の面接が終わり次第、ヨシトに連絡することになっている。
その時に、残念な報告ができるように強く願った。
翌日。
僕は律儀にも十分前には、珈琲フォーへと到着していた。
窓際の一番奥の席だ。
面接で悪い印象を与えなければならないのに、僕は何をやっているのだろう。
時間が近づく度、心臓の主張が強くなっていく。
ヨシトも一緒に面接に来たら良かったのに。
彼は残念ながらバイトで、様子を見にいけないことを悔しがっていた。
十八時を五分過ぎた辺りで、僕は席を立とうかと思い始めた。
もしかして、ヨシトに騙されていたのだろうか。あのメールは大学の友達の誰かが送ってきていて、実はドッキリとか……。
アイスコーヒーを見ながらぐるぐると考えている時だ。
視界に黒いものが入って、目の前に座った。
顔を上げるとそこには、黒マスクの一人の男が座っていた。
「メールどうも」
思わず、身を引いてしまった。
明らかにこの男は、普通ではない。
黒いフード付きのパーカーに、だぼっとした黒のカーゴパンツを履いている。
それは問題ない。
ただ、そこから見える手首が異常に細い。
ほとんど骨だ。
僕が少し指先で触れるだけで、粉々になってしまいそうだ。
それに、顔色もひどいものだ。
目の下のクマは、墨汁で重ね塗りしたかのようだし、黒マスクに隠れていない皮膚は、血が通っているか疑わしいくらいに青白い。
「どうも……」
そう言葉を返すのがやっとだった。
挨拶はちゃんとしなさいと教育されてきたが、これは許してもらいたい。
あまりにも目の前の男は、人間離れしすぎている。
ひょっとして幽霊なのではないか。
思わず疑ったが、改めてやって来た店員はちゃんと目の前の男に水を提供した。
ちゃんと見えている。
実在する。
僕はやっと確証を得られた。
それによく見れば、髪は紫と青の中間のような色だが、根元がかなり伸びて黒髪がかなりの割合を占めている。
これも彼が生きていることの証明だ。
男は、黒マスクをずらして水を飲んでいた。顔は整っている方だ。
しかし顔色の悪さがそれを打ち消している。
マスクをしていないと道を三歩歩くだけで、周りの人間に心配されるのではないだろうか。
「俺は白紙。それ以上でも、それ以下でもない」
変わった自己紹介だった。
これが動画内の定番の挨拶なのだろうか。
一度だけ冒頭をちらっと見た程度なので、よくわからなかった。
「あの僕は、斉藤類といいます」
「必要ない」
僕が名乗ってすぐに、白紙さんは無表情で切り捨てた。
一瞬怒りが湧いたが、もしかしたら面接は終わりということなのかもしれない。
「じゃあ僕は……」
帰ります。
そう言う前に、白紙さんが口を開いた。
「応募してきた理由は?」
頬杖をつく白紙さんと、初めて目が合った。
幽霊のような弱々しい体躯と相反して、白紙さんの藍色の目は力強かった。
鋭くて、何でも見通してしまうような不思議な迫力を持っている。
悪いことをした訳ではないのに、ぎくりと肩をすくめてしまった。
「あの、実は……」
僕は正直に話した。
なんとなくこの人には嘘をつけない。そう感じたからだ。
全て話し終えても、白紙さんの無表情は変わらなかった。
「ふむ……」
話を聞き終えると、白紙さんはわざとらしく腕を組んで考え始めた。
少しの沈黙の後、彼は口を開いた。
「今日の配信で判断するか。同行者くん」
残念ながら、僕の願いは聞き届けられなかった。
コメント
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わあ、第2話読みました!白紙さんの登場シーン、めちゃくちゃ印象的でした。あの病的なまでの細さと青白さ、それでいて目だけは異様に力強い——そのギャップがすごく怖くてゾクゾクしました。類くんの「世界陸上の新記録でも出してしまいそう」とか、ヨシトとの掛け合いの軽さと、面接の重苦しさの対比が絶妙ですね。願いもむなしく採用されてしまった類くん、どうなっちゃうんだろう…続きが気になりすぎます!🤍