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🌙月見🌿
50,166
落ち着け、冷静に。俺の惑いがめめに伝わる事態だけは避けないと。鼻から息を吸い、そっと吐く。何度か繰り返すうちに忙しない鼓動が鎮まっていくのが分かる。乾いた喉を嚥下で、唇を舌で湿し、ベッドへと歩み寄った。指先をめめの頬へ添わせて紡ぐ。
「此処に…、傍にいるよ。…ね、感じる?俺の体温」
「あ……あったかい。これ、阿部ちゃんの指…だね…気持ちいい」
なんてか細い声。不安なんだ。俺の指に頬擦りし、握って確かめてくるめめが儚く見えて、目頭が酷く熱くなった。
でも、泣いちゃ駄目だ。俺が泣いてどうする。
零れそうな涙を瞬きで誤魔化し、もう一方の腕を伸ばして漆黒の頭部を招き抱く。心音を聞かせるように、胸元へ。
「指だけじゃなくて、もっと俺を感じて…。めーめ…」
「…トクントクン言ってる。すげ、落ち着く……〜っ、…あ…べ、ちゃ…っ」
握られていた指が放たれた次の瞬間、俺はめめの両腕に包まれ、背骨が軋む程抱き竦められた。服が濡れていく感触。…滅多に流さない、めめの涙。俺もまた抱き締め返し、サラサラな髪と背中を飽く事なく撫で続ける。声を殺して嗚咽するめめの苦しみが、少しでも癒えるようにと。
時計の針が進む音がやけに耳につく。そこで漸くめめが泣き止んだと気が付き、俺は前傾していた半身を起こす。がっちり抱き着いたままの背へポンポン掌を弾ませてみる。額を俺の服に擦り付けた後、照れ臭そうにめめは顔を見せてくれた。潤んだ瞳が愛らしい……ん?目が合って…る?
「あの…めめ、もしかして……」
「…うん。ぼんやりだけど、ちゃんと阿部ちゃん見えてるよ。今日も可愛いね」
「……!…ほんとに?あぁ…良かったぁ。めめに見て貰えなくなっちゃうかもって思ったら、凄く怖くて…っ」
「怖い思いさせてごめん…。俺も…さ、仕事の事とかより阿部ちゃん見れなくなる方が怖くて、悲しかったんだ。だから今すっごくホッてしてる」
「ううん、いいの。謝らないで。怖かったのはめめの方なんだし。…俺もホッとした…ねぇ、喉渇かない?お水貰ってもいい?」
「怖いのはお揃いでしょ。いいけど…此処は熱いキスする場面じゃないの?ムードないなぁ」
「〜…ムードもキスも後で。先にお水飲んでからです」
不承不承懐抱を解いた途端、阿部ちゃんは体を翻し小走りで去っていく。チラっと見えた耳が真っ赤だった。…うん、見えなくならなくてマジで良かった。あんな可愛いの、一生見れなくなったら生きてる意味がない。安堵の息を長くつき、俺は律儀に閉められた扉へと進み、勢い良く開ける。
「…あれ…阿部ちゃん?キッチンじゃないの?」
リビング越しに見通せるキッチンに人影はない。トイレかな?
呑気に構えていた自分を罵倒したくなるなんて、この時は考えもしなかった。
阿部ちゃんは、消えてしまっていた。
コメント
2件
どゆことだ!?!?!?
はぇ????、??へ??