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エルの鋭い視線に気が付いたレイロは、エルに近付いて訴える。
「誤解だよ、エルファス! 俺はお前のことを大事に思っているし好きだよ。だけど、恋愛感情とは違う! 世間一般によくあるやつなんだ!」
「よくあるやつって何だよ。普通の兄弟は仲が良くても良い距離感を保ってて、兄さんのように俺に執着してない」
「執着じゃない! 兄だから弟を心配してるんだ。それだけの話だろう! それの何が悪いんだよ!」
「俺だって、今まではそうだと思ってたよ」
「……エル、何かあったの?」
誰かから何か言われたのかしら。
そう思って声を掛けると、エルは私の隣に立って口を開く。
「父さんと母さんから連絡があったんだ」
「……どんな話だったの?」
「兄さんがアイミーを選んだ理由や、エイミーと浮気した理由を仮説にはなるけど、教えくれたんだ」
「……それって、私にも教えてもらえる話かしら」
尋ねると、エルが答える前に、レイロが割って入ってくる。
「待ってくれ! 俺がエルを特別視しているのは間違いない! だけど、アイミーのことは女性として本当に愛しているんだよ!」
この人、愛しているって言えば何とかなるとでも思っているのかしら。
「あなたの愛してるなんて、私にとって、この世で一番信じられないものだわ!」
「だから、信じてくれって言ってるじゃないか!」
「信じられなくさせたのはあなたよ! あなたがエルを大事にしていても、私はそれで良かった! 私にとってもエルは大事な弟だったから!」
視界に入ったお姉様が笑った気がして、私は言葉を止めた。
「お姉様、何がおかしいんです?」
「何でもないわ」
お姉様は私ではなく、エルを見て答えた。
なぜ笑ったのか気にはなるけれど、今はレイロと話をしていたところだった。
「……さっきの続きだけど、急用ができて私よりもエルを優先したとしても、エルが相手だったら許せてた。だけど、あなたはお姉様と浮気をしてた! しかも、関係を持っているにもかかわらず、ちゃんと調べもせずに自分の子供じゃないって言うだなんて!」
話している内に興奮してきて、レイロに掴みかかろうとした私をエルが止める。
「アイミー、怒る気持ちはわかるけど手は出すな」
怒りで息が荒くなっている私の背中を、エルが落ち着かせるように撫でた。
「……だって、許せないんだもの」
「そうだよな」
頷いたエルは、私に言い聞かせるように優しい声で続ける。
「エイミーも兄さんも道を踏み外してる。そして、二人共がそのことに気が付いてない。悪いことをしたと自分で気が付くまでは何を言っても無駄だ」
「……じゃあ、どうしたら、レイロとお姉様との縁を断ち切れるの! 私はもう二人には関わりたくないのに!」
当たり散らすように叫んだあとにエルの顔を見て、私は一瞬で後悔した。
エルの顔がとても悲しそうだったから。
傷つけてしまったのかもしれない。
そう思って頭を下げる。
「……ごめんなさい、エル。あなたは悪くないのに。本当にごめんなさい」
「……いや、俺が悪いんだ」
「どうして? エルだって被害者でしょう。それに今のは完全に八つ当たりよ」
「ずっと好きだったから」
「え?」
エルが何を言っているのかわからなくて聞き返した時、レイロが会話に割って入ってきた。
「今はそんな話をしている場合じゃないだろう! 子供のことだけど、さっきも言ったが認めるよ! あの子は俺の子だ!」
調子の良い人だわ。
赤ちゃんを実際に見て愛おしくなったのね。
その感情は悪いことじゃない。
ただ、赤ちゃんが生まれる前から、自分の子だと認めてほしかった。
……そうだわ。
レイロに言っておかなければならないことがある。
「……レイロ、あなたの子だけど、お姉様はいらないって言ってたわよ」
「は?」
レイロが大きく口を開けたまま、お姉様を見た。
「だ、だって、レイロが赤ちゃんしか見てないから! 頑張ったのは私なのに、あなたが褒めてくれないのなら、あの子を生んだ意味がないじゃないの!」
「子供ができれば俺が自分のものになるとでも思ってたのか!? そんなわけがないだろう!」
「普通は子供ができれば、責任を取って結婚するのよ! 大体、私とレイロが上手くいっていれば、皆が幸せになれたのよ。それなのにレイロはアイミーと結婚したの。レイロは自分のことしか考えていないけど、《《私たち》》の気持ちはどうなるのよ!? 私はレイロのことがずっと好きだったのに!」
お姉様は言いたいことを言い終えると、ドロドロになった手で自分の顔を覆った。
その時の私はレイロが好きだったから、お姉様とレイロが上手くいっていたら、私は不幸になっていたんじゃないの?
そう聞こうとした時、周りに人が集まり始めていることに気が付いた。
自分のこともそうだけど、身内の恥ずかしい話を多くの人に聞いてもらいたくない。
でも、私の思いなど関係なく、レイロは訴えかけてくる。
「エルファス、アイミー、聞いてくれ。俺はエルファスのことを弟として、アイミーのことは一人の女性として、本当に愛してるんだよ!」
「それがどうしたんだよ」
「それが何? 愛してくれてありがとうって言えばいいの?」
エルと私が冷たく返すと、レイロはとんでもないことを口にする。
「エイミーが自分の子をいらないと言うんなら、アイミー、俺の子を俺と一緒に育ててくれないか?」
「「「は?」」」
レイロ以外の三人の声が揃った。
レイロってこんな馬鹿なことを言う人だったの?
過去の話とはいえ、本当に好きだった人がこんな人だったなんてショックすぎる。
すると、お姉様は泥がついた顔をレイロに向けて宣言する。
「ちょっと待って! レイロが育てると言うのなら、私が一緒に育てるわ! だって、あの子は私とレイロの子供なんだもの。本当の両親が付いてあげないと駄目よ」
「赤ん坊を投げる奴に子育てができるわけないだろう!」
「もういい!」
お姉様とレイロの会話をエルは一喝して遮ると、周りを見回した。
気が付いた時よりも、多くの人が集まっている。
仲間たちは心配そうな顔で見つめていて、私に嫌悪感を示している人たちはニヤニヤしている。
「周りを見ろよ! くだらない話をするなら、こんな所で話さずに違う場所で話せ!」
エルに怒鳴られた二人は、唇を噛んで俯いた。
エルはお姉様が赤ちゃんを投げたことを知らないから二人に任せようとしている。
でも、あのシーンを見てしまった以上、この二人に子育てなんてさせるわけにはいかない。
エルか私の家に連れ帰って、ナニーに面倒を見てもらうようにしましょう。
どちらの家に連れ帰っても、孫として愛してくれるはずだわ。
弟のヨハネスは良いお兄ちゃんになってくれるかもしれない。
「アイミー、行こう」
「うん」
エルに促され、お姉様たちを残して手招きしてくれていた仲間たちの所へ向かう。
私がここを経つことを皆に報告しなくちゃ。
それから、赤ちゃんのこともそうだけど、レイロとお姉様をどうするつもりなのか確認することにした。