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第二話「傀儡の呼吸」
コンコン、と不気味なひょっとこの面が飾られた扉を叩く。
返事はない。けれど、ここで引き返すわけにはいかなかった。あの青藍色の刀を持った人が教えてくれた、僕が強くなるための唯一の道なんだ。
意を決して、ギィ……と古びた扉を押し開ける。
「あの……すみません、お邪魔します……」
一歩足を踏み入れた瞬間、僕はその光景に圧倒された。
家の中は、見たこともないような複雑な歯車や、木で作られた奇妙な人形――『絡繰(からくり)』で埋め尽くされていたのだ。カチカチ、トントンと、何かが規則正しく動く音が薄暗い部屋に響いている。
「なんじゃお前さんは。儂の家に勝手に入るとは、いい度胸をしておるな」
奥の部屋から、しわがれた低い声とともに、あのひょっとこのお面を被ったお爺さんが姿を現した。この人が、絡繰庵 ぜんまいさん。
「あ……あの! 僕、鬼殺隊になりたくて……! 青藍色の刀を持った人に、ここを尋ねろって言われて来ました!」
必死に声を振り絞ると、ひょっとこの面がピクリと動いた。
「ふん……。あの、髪の長い生意気な小僧(紺くん)の紹介か。あやつ、儂を爺さん呼ばわりしたくせに、勝手に弟子候補を送り込んできおってからに……」
ぜんまい爺さんはフンと鼻を鳴らすと、僕の体を頭からつま先まで、値踏みするような鋭い目で見つめてきた。
「……見たところ、随分とひょろひょろじゃな。まともに刀も振れんのではないか?」
「病気で、ずっと寝たきりだったんです。でも……指先だけは、動かせます! お兄さんと、ずっと裁縫をしていました。細かい作業なら、誰にも負けません!」
僕はボロボロの衣服の袖をまくり、お兄さんに教わった、細かく綺麗な縫い目の跡を見せた。
ぜんまい爺さんは、僕の指先をじっと見つめ、しばらく黙り込んだ。カチカチと絡繰の音が響く中、静かに口を開く。
「裁縫、か……。なるほど、糸を操る繊細な指先。悪くない。お前さんのその指、儂の『絡繰』の技術と相性が良さそうじゃ」
ぜんまい爺さんは、部屋の隅から一本の不思議な刀を持ってきて、僕の前に突き出した。その刀からは、無数の細い、だけど鋼のように頑丈な『糸』が伸びている。
「儂が教えるのは、普通の呼吸ではない。お前さんの指先の器用さを極限まで活かした――『傀儡の呼吸(くぐつのこきゅう)』じゃ」
――第二話・完――
コメント
1件
うわ、第2話も重くて綺麗……「傀儡の呼吸」って名前、めちゃくちゃ好みです。裁縫の技術が戦闘に活かされるって発想がもう、痺れました。寝たきりだった過去を無駄にしないで、細かい指先の動きを武器に変えるところ、すごく丁寧に描かれてて。ぜんまい爺さんのひょっとこ面の雰囲気も、絡繰の世界観に合ってて好きです。これからどんな呼吸が出てくるのか、本当に楽しみにしてます🌙