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こんな夢を見たんだ。
ローマの歴史ほどに長く、我が国の歴史ほどに暗く。永遠かと思われた季節も遂には春の柔らかな陽
射しに照らされ、静かに解け始める頃のこと。
君が死んだ。顳顬に突きつけた銃口の先からビロードのように美しい真紅の血が溢れ出す。目の前が
みるみるうちに紅一色に染まりゆく。その記憶は、麗らかな春の陽射しが差し込む先で佇む虹のよう
に、鮮明で、朧げ。
ヴェネツィアの橋の下で、永遠の愛を約束する。それがどれだけ魅惑的なことか。例え、その橋がか
つてドゥカーレ宮殿の囚人達を護送するための橋だったとしても。そのくらいに君と過ごした冬は、
幻想的。それでも構わなかったのだ。幸せだったのだ。その全てが虚構だったとしても。だって、僕
には君がこの世の何処にも存在しない未来なんて考えられない。
でも、もう僕には未来を見据える必要なんてないのかもしれない。僕の長く昏い人生も、ようやく
フィナーレを終えたのだから。どうしようもなく退屈でくだらない人生の舞台は、今まさに、終幕へ
と動き出しているのだから。
子どもに読み聞かせるような可愛らしい絵本の中で、端役として君と出逢っていたら。何か違ったの
だろうか。世界を敵に回してでも君を愛すだなんて、巫山戯た愛の戯言を吐けたのだろうか?
「L’amor che move il sole e l’altre stelle」ダンテがベアトリーチェへ贈ったとされる愛の言葉。
そんなこと、僕も言ってみたかった。そんな勇気、僕には到底ありはしない。
ならどうすれば良かったのか。君には死の他に選択肢はなかったというのか 。きっとそう なのだろ
う。そして、それは僕も同じことか。僕のかつての盟友がよく言っていた言葉、“猛き者も 遂 には滅
びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ”。彼もじきに潰えるのだろう。これが国として生まれた者の宿命
な のか。
でも、もし、もう一度だけこの世界でやり直すことが出来るなら。その時はちゃんと伝えたい。今と
なっ てはもう、叶わない願いだけれども。
ニワトリが夜明けを告げる声がする。そうだ、今日はドイツとの約束があったんだっけ…?
朝靄がかかったように、いまいちはっきりとしない意識の中で考える。彼のことを思い出すと、無性
に寂しく なるのは何故だろう。どうしようもなく彼に恋焦がれてしまうのは何故だろう。どうして、
今日は視界がこんなにもぼやけているのだろう。
僕には、分からない。
第一話 後悔