テラーノベル
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店を出た瞬間、夜の空気が少しだけ冷たくて。
エリオットは何も言わずに歩き出した。
さっきまでの店内とは違って、
街灯の下、二人の足音だけが静かに響く。
「……」
「……」
並んで歩いてるのに、妙に距離がある。
チャンスは横目でちらっと見る。
「まだ機嫌悪いのかよ」
返事はない。
エリオットは前を向いたまま、無視。
「おい」
少しだけ声を低くして呼ぶと、
やっと小さく返ってくる。
「……別に」
その“別に”が一番分かりやすい。
チャンスは軽くため息をついて、
一歩分だけ距離を詰めた。
「ほら」
手首を軽く掴む。
「っ……」
エリオットが一瞬だけ止まる。
「拗ねんなって」
少しだけ柔らかい声。
「拗ねてない」
「拗ねてる」
即答。
「……拗ねてない」
でも、掴まれた手は振りほどかない。
そのまま少しだけ俯いて、
ぽつりと漏れる。
「……ああいうの、慣れてるみたいだったし」
「は?」
「普通に話して、笑って……」
言葉が続かなくなる。
自分でも何言ってるか分かってるから、
余計に苛立つ。
チャンスは一瞬だけ黙ってから、
少しだけ真面目な声になる。
「慣れてねぇよ」
「……」
「お前が行きたいって言ったから行っただけだ」
まっすぐな言葉。
エリオットの肩が、ほんの少しだけ緩む。
「……ほんとに?」
「ああ」
間を置かずに返ってくる答え。
そのままチャンスは、
掴んでた手を少し引いて距離を縮める。
「だからさ」
顔を覗き込むようにして、
「そんな顔すんなよ」
エリオットは少しだけ目を逸らして、
「……してない」
って言うけど、
さっきより明らかに表情は柔らいでた。
——ここまでは、よかった。
チャンスも少し気が緩んで、
軽く笑いながら言う。
「ほんと、面倒くせぇな」
「……」
「そんな事くらいで機嫌悪くなるとか」
その一言。
一瞬で、空気が変わる。
「……は?」
エリオットの足が止まる。
掴まれてた手が、するっと抜ける。
「今なんて言った?」
声が低い。
さっきまでとは違う種類の不機嫌。
チャンスは「あ」と思った時にはもう遅くて、
「いや、だから——」
「そんな事くらいで?」
言葉をなぞるように、ゆっくり。
「俺が気にしてたの、“そんな事”?」
視線がまっすぐ刺さる。
さっきよりもずっと冷たい目。
「……いや、そういう意味じゃ」
「どういう意味だよ」
一歩、距離が開く。
今度はエリオットの方が離れる側。
「別にいいよ」
そう言いながらも、全然よくない声。
「どうせ俺が勝手に気にしてただけだし」
「おい、エリオット」
呼び止める声にも止まらない。
「……帰る」
短く言って、そのまま歩き出す。
今度は——さっきより明確に距離を取って。
チャンスはその背中を見て、
小さく舌打ちした。
(ミスった……)
さっきまで、ちゃんと掴めてたのに。
夜の街の中で、
二人の距離だけが、また少し遠くなる。
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