テラーノベル
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――クスクス……クスクス……。
「えっ、なんで……わ、笑い声?」
背後から続く二人が急に、脈絡もなく笑い出したのだ。
俺はゾッとした。
背後で何かヤバイことが起こっている……。
そんな恐怖に駆られて足早に階段を降りていくと、目の前の暗がりから、宙に浮いた何かが迫ってくる。
茶色の……輪っか……?
「えっ、なんだこれ!」
俺は慌てて輪のようなものを避けようとするが、左右には避けれるようなスペースがない。
ジャンプボタンを連打するも10cmしか飛べないので全然避けられない!
「あっ、ああああっ!」
近付いてきて分かったが、この輪っか、首吊りロープだ。
輪っか状のロープが自キャラの首にスポッと入り、そのまま真上へと釣り上げられる。
「GAME OVER」の8文字が血糊と共に画面上に現れた。
「い……」
意味が分からない。
いや、途中まではちょっと良かった!
真っ暗で不安定な非常階段を降りていく中、背後から同僚たちの笑い声が聞こえ始めた時はゾッとした。
でもでも!
首吊りロープは全然分からないぞ……。
なんで首吊りロープがスキー場のリフトみたいにせり上がってくるんだ?
良い感じでだんだん怖い雰囲気が生まれてきてたのに、急にナンセンスなトラップで死んでしまった。
何考えて作ってるんだ、これ……。
コメント欄にも
「なんじゃそりゃ」「ゲームの出来に一瞬でも期待した俺が馬鹿でした」「所詮はあのスウィッチか」などの意見が溢れている。
「で、でも、今のは避けれそう。再挑戦してみます!」
リトライボタンを押すと、当たり前のようにオープニングムービーから始まる。
ムービーがスキップできないことに強い苛立ちを覚えたが、ともかくも今度はスムーズに非常階段へと到達した。
9階まで降りたところで、やはり背後から笑い声が聞こえ始め、前方からは首吊りロープが迫って来る。
「これね、分かったんです。たぶん、しゃがみで避けれるんですよ」
そう思って俺はしゃがみボタンを押し込む。
……が、しゃがめない!
「なんで!?」
何度も連打していると、突然に視界が変わって、繰り返される単調な非常階段がどんどん上へと流れていく。
意味が分からない。
「はあ?」
そして、立ったまま真っ暗な地面へと到達。
画面に血飛沫が舞い散り、「GAME OVER」の文字列が現れた。
い、意味が分からない……。
これには視聴者たちも混乱を隠せなかったようだ。
「な、なに、今の?」
「落ちた?」
「バグ?」
「地面に落ちて死んだ?」
なんで階段の上でしゃがんだら階段を貫通して落ちて死ぬんだ?
これもうバグなのか仕様なのか分かんねえな……。
ともかくも、制作側の「絶対に非常階段からは脱出させないぞ」という強い意志を感じた俺は、再度のオープニングムービー(スキップ不可!)を視聴後、諦めてビル内の探索へと乗り出した。
ビルにはオフィス以外にも飲食店や小売店など様々な業態のテナントが入っている。
あらすじによれば、このビルのどこかに呪いをもたらした何らかの秘密があるはずだが……。
内部の探索を始めても、このゲームは相変わらずだった。
まず薄暗すぎて、ほとんど何も見えない。
「ホラーだから暗くしとけばいいだろう」という安易な意図が透けて見えてイラッとする。
そして、いろんな店舗があるにはあるが、ほとんど中に入れない。
店舗の入口に積み木のような、よく分からないゴミのような障害物が置かれており、そんなの跨いで入れば良さそうなものだが、断固として先に進ませてくれない。
10cmジャンプでも当然乗り越えられない。
しかし、何よりも苦痛なのは……
「何も……起こらないですね……」
ビル内が広大な割に何もイベントが発生しないことだ。
単調なBGMと足音だけを聞きながら、入れない店舗を横目に薄暗い廊下を黙々と歩き続ける。
それを十数分、続けていると「非常階段イベントは何か起こっただけでもマシだったんだな……」という気持ちになってくる。
ホラー描写よりも、こんな何も起こらないゲームを販売した事実の方が俺は怖くなってきた……。
何も起こらないから何のリアクションもできない。
コメント欄も見事に静まり返っている。
庵藤なら、こんな状況でも視聴者を沸かせることができたのだろうか?
だとしたらスゴすぎる。
ちょっと想像がつかないレベルだ。
弟子入りしたい。
……まあ俺が殺したんだけど。
コメント欄が静まり返る中、しかし、不意に興味深い書き込みがなされた。
「医者として断言する。これは制作側のマンパワー不足」
ハンドルネーム「ドクターキリコ」なる人物の書き込みだ。
てか、コイツはなんで急に医療従事者アピールをしてるんだ?
本当に医者かどうかは知らないが、ドクターキリコいわく、以前に匿名掲示板にて、この作品のスタッフが内情を暴露していたという。
社員が続々と辞めていき、マスターアップの前には社長とディレクターとプログラマーの三人しか残っていなかったとか。
「デバッグ担当の社長が仕事をサボっていた」せいで他にも致命的なバグが残っているらしい。
クソゲーな上にバグゲーとか勘弁してくれよ……。
さらにコメント欄では、ハンドルネーム「NIRA†NEGI」なる人物が興味を示しており、自分のメアドまで晒して「その掲示板のURLをぜひ教えて下さい」などとドクターキリコにせっついている。
なんなんだ、クソゲー愛好家か?
ともあれ、キリコのコメントを読んだり、制作に文句を言ったりすることで少しだけ時間が稼げたし、その間に、なんとか新しい展開を発見できた。配電盤のイベントだ。
フロアの奥、完全に真っ暗な場所にあるのを奇跡的に発見したのだが、その前でボタンを押すと、自キャラが「これを直せばエレベーターが動き出すかもしれない」などと言う。
素人が直せるものではないと思うが、配電盤を開けてみると、パズル(?)のようなものが始まった。
ルール説明も何もない。ひとまず動かしてみると、
「ビリビリビリ! バチ、バチバチ!!」
「ウギャーッ!」
一手目で失敗したようで自キャラが感電して絶叫し、見慣れた血飛沫と共に「GAME OVER」ロゴが現れた。
ユーザーのことを何も考えていないひどいイベントだが、とにかく何か起こったことが嬉しくて俺は快哉を叫んでしまったし、コメント欄も何故か盛り上がった。
例のオープニングムービー(スキップ不可!)を挟みながら、何度もこのパズルにチャレンジしたが、結局、クリアできない。
一応のルール性は理解できたし、理屈上パズルは解けているはずなのに、なぜかクリア扱いにならない。
何かまだ秘密があるのか、これが噂の「致命的なバグ」なのかも分からない。こんなに不安な気持ちにさせられるホラーゲームは初めてだ……。
フロアの他の部分も隈なく探したが何も起こらない。
だが、一度諦めてオフィスに戻ると、なんと経理の女性キャラとの会話イベントが唐突に発生した!
「ねえ、知ってる? 12階にある、”開かずのテナント” の話……」
もしかして一度外に出て戻るだけでフラグが立ったのか?
い、今までの苦労は一体……。
俺が呆然としていると、経理の女性がカギを手渡してきた。
「お願い、”開かずのテナント”の様子を見てきて」
なぜ、ビルの他テナントのカギを経理が持っているのか、全く意味が分からない。
そんなことあるか??
だが、ともかくこれで次に何をすべきかは判明した!
次の目的地は12階の”開かずのテナント”だ!
そう思っていた矢先だった。
「う、ううううう!」
経理の女性キャラが突如苦しみ出した。もう! なんなの!?
「うあ……あ、あ、ああ……」
経理が白目を剥いて呻きながら倒れ、そのまま死んだ。
「うああああああああ!!!!」
今叫んだのは俺だ!
……マ、マジで!?
なにこれ、なんなのこのゲーム!?
画面にはいつもの血飛沫と「GAME OVER」のロゴ。
や、やっと先に進めると思ったのに、GAME OVER……お、俺は早く終わらせて死体を隠蔽したいのに……!
「ぐあああああ! うおおおおお! なんなんだこのクソゲー!!!」
俺の沸点が限界を迎え、頭をかきむしり歯ぎしりしながら呻き声を上げるが、一方でコメント欄は
「待ってました!」
「こうでなきゃ!」
「頑張れww」
「草生える」
などと散々に盛り上がっている。
なんて連中だ、血も涙もない! 配信者の苦しむ姿を見て笑ってやがる!
もう嫌だ、もう終わらせたい。
一時間弱やったし、もう終わっても良いのではないか?
「テッテレーッ♪」
そう思っていた矢先、電話が鳴った。
「若色さん、そろそろ終わらせようと思ってませんか?」
古賀さん、あんたはなんで俺の心が読めるんだ!?
「そうだよ、もう終わらせたいよ! 古賀さん、早く来てくれー!」
「すいません、それがちょっと時間掛かってて……。雨のせいで、電車が止まってるんですよね」
窓から外を見てみると、いつの間にやらものすごい大雨だ。
なんてこった。
古賀さんいわく、あちこち冠水していて、車も電車も立ち往生しているという。
「ともかく、できるだけ早く向かいますが、それはそれとして、いつも最低二時間は配信してますよね? 繰り返しますが、今日こそ、普段と同じ配信を意識してください」
ぐぬぬ、逃げ道を塞がれた!
早く終わりたいのに……。
そう思って歯噛みしていたが、その時、俺は、
「え……なんだこれ」
コメント欄に気になる書き込みを見つけていた。
そして、電話を切った後、俺はそのことをマイクの前で素直に口に出していた。
「え……なに? 配信…………死ぬゲーム……!?」
そのコメントにはこうあったのだ。
「でも良かった。『配信すると死ぬゲーム』の噂のシーンが確認できて」
――配信すると死ぬゲーム……?
きょとんとしながらそう呟いた俺に、次の瞬間、親切な視聴者たちから怒涛のコメントが滝のように浴びせかけられた。
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