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CASE 兵頭拓也
ある日、親父が晶を連れて帰って来た。


家に来た時の晶は身なりはボロボロで、ガリガリに痩せていてた。


「親父、その子は…」


「今日から、伊織に代わって晶にボディーガードを任せる」


「は?何言ってんだよ。女の子に危ない事させられねーだ…」


晶と呼ばれた女の子が目の前から消え、首筋に何か冷たい物が当たった感触がした。


俺の背後に回って、何か当てているのか?


「晶、当てている物を下せ」


「はい、雪哉さん


親父の言葉を聞いた晶は言われた通りに、物を下ろす。


横目で見てみると、晶の手には鋭く光るナイフが握られていた。


「散々鍛えられたから平気、それに若を守るのが俺の仕事だ」


「そう言う訳だ。仲良くやるんだな」


「何なんだよ…」


晶を残して去る親父の背中を見ながら、短い言葉を吐いた。


俺と晶が出会ったのは中学2年の時で、家に出入りしていた恭弥とも顔見知りになるのは、時間の問題だった。


恭弥は特に晶には興味がないようで、同じ部屋にいても晶を空気のように扱っていた。


一度だけ、恭弥に注意した事があった。


「晶は俺の為に護衛してくれてるんだ、空気扱いはやめてくれ」


「やだな、拓也。あの子の事をそんな風に扱っていないよ。それに、あの子の方が僕の事を嫌ってるんじゃないの?」


そう言って、部屋の隅でナイフを磨いている晶に視線を向ける。


晶は恭弥の視線など気にしていないらしく、黙々と磨き続けていた。


恭弥が帰った後、晶が真顔で言葉を吐く。


「若さ、あの恭弥って男と連むのはやめとけ」


「お前まで、そんな事言うのかよ。周りから散々言われて、うんざりしてるんだけど?なんでか、理由は

聞いていい感じ?」


「若に異常に執着してる。あの男、若に近寄って来る奴に殺気を飛ばして、牽制してるつもりなんだろうけど。若自身も感じてると思うけど、あの手のタイプは人を簡単に殺せるぜ」


晶の言った言葉が、心に重く突き刺さる。


恭弥との付き合いが長くなるにつれ、アイツの狂気じみた言動や行動を見てきた。


周りから恭弥と縁を切れ、関わるなと言われ続けてきた。


その度に恭弥が泣きながら、道路を走っていた時の事

を思い出しては、答えを出さないように、気付かないふりをし続けていた。



晶と出会ってから数ヶ月後の夏、神楽組の次期若頭のヨウと集会で出会った。


神楽組の組長の俊典さんがうちの晶に、ヨウの護衛をさせたいと申し出を親父にしたのには、理由があった、


息子のヨウがJewelryPupilで、誘拐されかけた事があるらしい。


JewelryPupilって、本当に存在していたんだな…。


名前の通り、本物の宝石の輝きを放っている。


親父は渋々、晶を神楽組に一時的に引き渡す事に決め、ヨウのボディーガードになった。


ヨウも最初は俺の事を警戒していたが、すぐに打ち解け俺に懐いてきた。


同い歳なのに弟のような可愛い奴で、晶と3人でラーメンを食べに行ったり、バイクの後ろに乗せてやったり。


恭弥の事をほったらかしにしってしまった。


悪意はなかった、ヨウの事を恭弥に紹介しなかったの

は、ヨウがJewelryPupilだったから。


親父からも、恭弥に会わせるなって口酸っぱく言われていたからだ。


JewelryPupilは、誰もが欲しがる願いが叶う瞳の宝石。


ヨウはそれだけで、欲しがる奴等から狙われてしまう存在だ。


俺自身もヨウの事を危険な目に合わせたくなかったから。


ヨウと恭弥を衝突させてしまう原因を、俺が作ってしまった。


俺に黙って、恭弥がヨウの通う中学校に行っていたのだ。


***


神楽ヨウが通う中学校の校門の前でバイクを停め、椿恭弥は静かに待っていた。


兵頭拓也が知らないチンピラ達と行動を共にし、神楽ヨウの個人情報を独自で集め、1人で行動に移したのだ。


何も知らない神楽ヨウは下校時間になり、校門をいつものように潜った時。


「やぁ、君が神楽ヨウだね。僕から、拓也を奪って楽しいだろ?」


「アンタ、誰。僕の事を嗅ぎ回ってた奴か」


「拓也の前では、猫被ってるんだろ?拓也は優しいから、お前がそんなだって知らないんだろ」


睨み付けてくる神楽ヨウの事を嘲笑うように、椿恭弥は言葉を吐いた。


「猫を被ってるのは、アンタの方だろ?拓也さんの事になると見境が無くなり、人の事を簡単に傷付けられる。拓也さんに隠して、兵頭会と反発している組のチンピラ達と絡んでいるだろ?何がしたいのか分からないが、拓也さんは次期若頭になる方だ」


「迷惑掛けるなって?余計なお世話だね。僕がしている事は、拓也の為だよ。君に1つだけ感謝してる事があるよ。晶を貰って行ってくれたからね、アイツは僕の事を警戒していたから」


「ヨウに何の用だ、椿恭弥」


椿恭弥の背後を取った晶は、スッと首筋にナイフの刃を当てる。 


「あれ?君の所に男達が来ていなかった?あぁ、片付けて来たのか」


「ヨウと接触する為に、俺の所にカス共を寄越したんだろ。若に構って貰えなくて、寂しくなっただけだろ」


「本当に口の回る女だよ、僕の嫌いなタイプさ」


横目で晶の事を睨みながら、椿恭弥はバイクに跨り、神楽ヨウに視線を移す。


「君が生きている限り、僕と君はいつか殺し合う中になるかもね」


神楽ヨウの問い掛けた椿恭弥は、エンジンを掛けバイクを走らせた。


「大丈夫か、ヨウ」


「あぁ、僕の顔を見に来ただけみたい。相当、僕の事が嫌いらしい。晶、椿恭弥の事は引き継ぎ警戒していて」


「アイツの言葉を間に受けたのか?あんなの、お前をビビらす為に言った言葉じゃねーの?」


「椿恭弥が拓也さんの側に居る限り、いつかはそうな

るかもしれないからね」


この時、椿恭弥が言った言葉が現実になる事を誰も知らなかった。


***


CASE 兵頭拓也


幼少期の事を思い出していると、伊織が少し照れながらラッピングされた包みを渡して来た。


「え、何これ?もしかして、プレゼントとか?」


「そんな所だ」


「伊織からプレゼント貰ったの初めてなんだけど。開けていい?」


「大した物じゃないからな」


ブランド物のプレゼントが、大した物の訳がない。


ラッピングを外し中身を見てみると、ネクタイピンの

付いたネクタイだった。


「これからはスーツを着る機会が多いだろ。ネクタイなら、いくらあっても困らない筈だ」


「ありがとな、伊織。今日貰った物の中で、1番嬉しいや」


「そうか…。おめでとう、拓也」


そう言って、伊織は俺の頭を優しく撫でる。


「拓也さん、雪哉さんが呼んでます。お邪魔でしたか?」


開いていた襖の間から、ヨウが申し訳なさそうに顔を覗き込ませていた。


「分かった、呼びに来てくれてありがとな」


「改めて、御就任おめでとうございます。これからも引き続き、拓也さんの事について行きます」


「おいおい、そんなにかしこまるなよな。でも、ありがとな」


ヨウと会話をしながら、俺達は親父の元に向かった。


若頭就任式を無事に終え、俺は親父の仕事の半分を請け負う事になった。


養護施設の運営、幹部外の組の薬の取り引きの阻止、兵頭会が仕切っている区間の見回りなど。


目の回る程の忙しさで、この仕事量を親父が1人でしていたのか。


パソコンを使った事務作業のような事もするし、家に帰る暇がない。


恭弥も俺の右腕として、色々と仕事を請け負って貰っているから、少しは楽なのかもな。


就任してから3ヶ月後、恭弥と行きつけの中華屋で飯を食ってる時だった。


「拓也さ、いつもそのネクタイしてるよね?就任式の時に伊織さんから貰ったやつ」


恭弥が怪訝な顔しながら、俺に尋ねる。


「あぁ、気にってるんだ。何せ伊織から初めて、プレゼントして貰ったから」


「僕がプレゼントしたネクタイは、あまりしてくれないもんね」 


そう言った恭弥の目が、ゾッとする程に冷たかった。


今まで、恭弥のそんな目を見た事がなかったから、俺は面食らってしまった。


「恭弥…、どうしたんだよ」


「あぁ、ヤキモチ妬いただけだよ。こんな事言ったら、拓也の負担になっちゃうよね」


この時から、恭弥に対して違和感を感じ始めていた。


恭弥が俺に異常までに執着してくるのは、俺の事が恋愛感情として好きなのではないか。


そう思ったら。今までの言動や行動に説明がつく。


俺は恭弥の事を友達として、大事に思っていた。


恭弥の気持ちに答えられえない。


その事を、俺は恭弥に言えるだろうか。


恭弥の気持ちに目を逸らし続けていた時、東京で児童売買が行われると情報が入った。


ここ最近、闇市場が頻繁に開催され、JewelryPupilまでもが出品されているらしい。


JewelryPupilを持っている女子供を誘拐し、客達の目の前で麻酔なしで、目玉を抉ると言うショーまで行われている。


親父を含めた兵頭会の組員数人で、今夜開催される闇市場に潜入する事になった。


「拓也が付いて来る事、僕は反対してたんだけどな」


闇市場が開催されると言う会場に向かっている途中、

運転していた恭弥が口を開いた。


「え、そうなのか?」


「僕は何回か子供達を保護する為に行った事あるけど、かなりキツイと思うよ。あそこに居る連中は、みんな頭がイカれてるからね」


「正気の沙じゃないって事か」


「まぁ、そう言う奴等だから扱いやすいけど」


最後に恭弥が小声で呟いたが、何を言っているか聞き取れなかった。


車を走らせて30分、到着したのは何年か前に廃業した大きな製造工業だった。


確か、次の買い手も決まってなかった筈。


工場の周りには高級車が何十台も停められ、入り口には黒人のガードマンが2人立っている。


「闇市場に入るには、会員カードっが必要になるが。俺達は持っていないと言えば、今からするべき行動が分かるな」


親父はそう言って、𣜿葉と伊織の2人に視線を送るった。


2人はすぐにガードマンの背後を取り、首の動脈部分にナイフを当て、一気に横に引いた。


ブシャアアアアアア!!!


斬られた動脈から勢いよく血が引き出し、ガードマン達は声も出せずに力無く地面に倒れる。


今だに、伊織と𣜿葉が人を殺す場面を見るのはキツイ。


「平気?拓也」


「今の所は…」


「雪哉さんも、ここに拓也を連れてくる必要ない筈なんだけどな」


「若頭になったのに、俺が出て来ないのはおかしいだろ?気を使ってくれてありがとな」


俺の言葉を聞いた恭弥は、嬉しそうに微笑んだ。


「拓也、中に入るぞ。恭弥、引き続き拓也の護衛にあたれ。それなりに場数は踏んできただろ」


「えぇ、分かりました頭」


親父が恭弥に冷たいトーンで言葉を吐いた後、先に中に入って行った。


恭弥は気にしていない様子だったので、俺達も続いて中に入る事にした。


車の備品を作っていた工場だったが、中がかなり改造されていて、舞台が設置されたパーティ会場に生まれ変わっている。


仮面を着け、ドレスコードに身を包んだ老若男女達が楽しげに笑う。


客達の目線の先には、服を脱がされ全裸になった首輪を付けられた子供達が居た。


「これは酷いな…、何がそんなに楽しいんだよ」


「ここにまともな思考の奴等はいないよ、金持ちの変態しかね」


「皆様、お待たせ致しました!!!本日の目玉商品の御紹介を致します!!!」


恭弥と会話をしていると、マイクを持った男が舞台のカーテンを開け始めた。


開かれたカーテンの先に居たのは、20歳そこそこのアルビノの女の子だった。


短かく切られた真っ白な髪、肌も睫毛の全てが白く、

イエロースポキャライトの瞳…、まさかJewelryPupilなのか!?


「アルビノだと!?これはまた…」


「しかもJewelryPupilときた。今日の商品は当たりだな」


アルビノ女の子を見た客達は一気に騒ぎ出し、司会の男は言葉を続ける。


「イエロースポキャライトのJewelryPupilを持つアルビノの女性です。値段は6000万からです」


「6500万!!!」


「6800万!!!」


「こっちは7000千万だ!!!」


司会の男の言葉を聞いた客達は次々と、出せる金額を叫び出す。


ふと、アルビノ女の子と目が合った。


その瞬間、俺は彼女の事を助けないといけないと強く思ったんだ。


彼女を汚い感情を持つ奴等に渡してたまるかと。


「親父、彼女も保護して良いか」


俺の言葉を聞いた恭弥は、驚いた表情を浮かべながら口を開く。


「ちょっ、本気で言ってるの!?アルビノなんて、僕達と同じような生活は出来ないんだよ?拓也が拾ったら、世話をしなきゃいけなくなる。その事、分かってるの?」


「自分の言った事に責任を持つよ。彼女の事を保護する」


「あっ、拓也!!!」


恭弥の言葉を最後まで聞かずに、俺は親父の元に向かった。


「親父、アルビノの女の子も保護したい。世話は俺がする、責任は取る」


「お前の好きにしたら良い、俺達は子供達の保護を優先するがな」


そう言って、親父が天井に向かって銃口を向け引き金を引く。


バンバンバンッ!!!


発砲音が会場に響き渡り、静寂が訪れる。


「兵頭会だ!!!死にたくなかったら、大人しくしてろ」


「兵頭会だぁ!?ふざけんじゃ…」


パアァンッ!!!


親父に銃口を向けた男だが、男の額にビー玉ぐらいの穴が開いた。


ブシャアアアアアア!!!


男の額から血が噴き出し、会場が一気にパニック状態に陥る。


俺はすぐにアルビノの女の子の元に向かい、声を掛けた。


「君、大丈夫か?」


「あ…、なたは?」


「俺は兵頭拓也、君の事を助けに来たんだ」


「私の事を?」


俺の言葉を聞いた女の子は、不思議そうな表情を浮かべる。


「初対面の奴に、こんな事を言われても信用ないよな…。だけど、信じてほしい。君に酷い事はしない」


「本当に私の事を助けてくれるの?」


「あぁ、君の事を助けるよ」


「拓也、そろそろ引き上げるぞ」


女の子と話し込んでいると、親父が声を掛けて来た。


「分かった。立てる?歩けなさそうなら、抱き上げて運ぶけど」


「うん…」


女の子を抱き上げると、めちゃくちゃ軽くて驚いてしまった。


これ程までに人は痩せられるのか…。


俺の腕の中で女の子は力尽きたように眠り、起こさないように急いで車に戻った。


恭弥が気に入らなさそうな表情をしていたが、俺は女の子の事が気になって仕方がなかった。


本家の空き部屋を彼女の部屋にし、俺は宣言通りに世話をする事に。


起きてから名前を聞いたら、見た目通りの名前で笑ってしまった。


「拓也さん…、お仕事は大丈夫なの?」


「あぁ、部屋に居ても仕事は出来るからな。白雪、拓也で良いって何回も言ってるだろ?さん付けはやめて

くれよ」


「だって、若頭を呼び捨てにするのは…」


「良いって、俺が気にしてないんだから」


白雪は周りの目をよく気にする子で、周りの空気を読む癖があった。


憔悴しきっていた白雪だが、産まれつき体が弱いそうだ、と診察した闇医者の爺さんが言っていた。


俺が側にいないと、白雪には俺しかいない。


外に出る仕事は恭弥に任せ、会食は出るようにしていた。


「拓也、次の会食には参加してもらうよ。××組の組長が、拓也と飲みたがってるんだ」


「あぁ、分かった。××組とは仲良くしておきたいからな…」


「行きたくなさそうだね。そんなに、あの女と離れたくないの」


「病み上がりの白雪を1人にする訳には…」


俺の言葉を聞いた拓也は、大きな溜め息を吐きながら顔を顰める。


「拓也は若頭なんだよ、1人の女に惚けてる場合じゃないだろ」 


恭弥の言う通りだった。


仕事を放り出して、白雪にばかり構っている場合じゃない。


俺は組員達に白雪の事を任せ、仕事に戻った。


仕事の合間を縫って白雪の世話をする生活に変わり、白雪も俺に心を開き、好意を見せて来るようになった。


「拓也がいてくれて嬉しい、ずっと側にいてほしい」


「俺も白雪を助けられて良かった。俺も白雪に側にいてほしい」


俺達は会う度に、甘い言葉を吐くようになり恋人になるのも時間の問題だった。


お互いがお互いを求め、俺と白雪は出会うべくして出会ったんだと、本気で思っていた。


闇市場で初めて会ったあの日、俺達はお互いに一目惚れしていたんだ。


こんなに白雪の事を愛おしいと思うのは、おかしいだろうか。


仕事の時も頭の中に白雪がいて、白雪の頭の中にも俺がいる。

 

「白雪、お前の事が好きで堪らない。こんな俺の事を許してくれるか」


「拓也に愛される事が幸福で堪らないの。私も、拓也の事が好きで堪らないの」


俺は優しく白雪の腕を引き、自分の腕の中に閉じ込めた。 


初めて白雪と体を重ねた時、どうしようもないくらい愛おしさが込み上げてきて。


「こんなに綺麗な白雪を、俺なんかが触れて良いのか?」


「拓也だから良いの。今まで、私に触れてこようとして来た人は、汚い奴等ばかり。だけど、拓也は違う、私の事を心から愛してくれて…。私は幸せものよ」


白雪と出会えた事は、俺にとっての幸運だ。


俺の事を慕ってくれている組員達、ヨウや譲葉達も白雪との交際を心良く受け入れてくれた。


親父も何も言って来ないが、反対はしていない事は分かる。


ただ、恭弥だけは違った。


俺が経営しているバー、まどろみで飲みながら恭弥に白雪との事を報告した。


「白雪と付き合ってる?本気で言ってるの、それ」


「あぁ、俺は本気だよ。結婚も視野に考え…」


「何それ、後から来た女に拓也を奪われたって事?何、色仕掛けでもされた?拓也は騙されやすいからね」


恭弥は白雪の事を罵るような言葉を吐く。


「おい、いくら恭弥でも白雪の事を悪く言うのはやめてくれ」


「何だよ、それ…。僕がどんな気持ちで、拓也の側に居たのか知らないくせに」


「恭弥…」


「君が汚れ仕事をしなように、僕がどれだけ裏で動いていたか知らないだろ。白雪が自慢げな顔をして、僕の事を見下ろしている事も、僕の気持ちを見透かしているのも。拓也は知らないだろ」


ガンッと、空になったグラスを恭弥はテーブルに叩き付ける。


「あの女は拓也の為に、自分の手は汚せない。だけど僕は、君の為なら何でも出来るよ。君を狙う奴を殺す事も、君のやる事に邪魔をする奴等を殺す事もね」


「恭弥、俺は自分を犠牲にするような事を思っていないよ。恭弥が暴走しないかって、心配になるんだ」

「拓也の優しさが、僕の心を殺してるって分かってないよ。拓也は僕の気持ちに気付いていて、見て見ぬふりをしてきただろ!!!」


大声を上げた恭弥は、目に涙を溜めていた。


恭弥の言う通り、恭弥が俺の事を恋愛感情として好きだって事に気付いていた。


そうして来たのは、答える事なんて出来ないからだ。


「仕事が落ち着いたら、2人で軽井沢にツーリングに行こうって約束したよね。それすらも忘れてた?そんなに、あの女が良いの?僕が女じゃないから、拓也は答えてくれないんだろ。こんな事になるぐらいなら、あの時に止めてれば良かった」


そう言って、恭弥は腰を上げ店を出て行った。


恭弥との約束を忘れていた事を、今言われて思い出した。


アイツは俺との約束を楽しみにしていたのに、俺は…。


「拓也さん、もう一杯いかかですか?」


「あぁ、気を使わせて悪いな」


「いえ、恋愛と言うのは難しいですね。人は誰かを愛さずにはいられないのでしょうね」


マスターはそう言いながら、俺のグラスにウイスキーを注いだ。


この日を境に、恭弥は俺の目の前から姿を消し、兵頭会の掟に背く行動をしていた。


俺と恭弥の間に大きな亀裂が入り、後戻り出来ない所まで落ちて行った。


もう、あの頃のように戻る事は出来なくなった。


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